キム・バン・キェウ(読み)きむばんきぇう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キム・バン・キェウ」の意味・わかりやすい解説

キム・バン・キェウ
きむばんきぇう / 金雲翹

ベトナムの詩人グエン・ズウ(阮攸)の作で、「金雲翹新伝」の略。初めは「断腸新声」と題したが、発刊(1800前後)にあたり改題した。現在では広く『翹伝』または『翹』とよばれている。原作は中国の青心才人の著『金雲翹伝(きんうんぎょうでん)』で、その翻案という意味で「新伝」を加えた。元来、この物語は、青心才人が『虞初新志(ぐしょしんし)』(余懐著)のなかに収めた短編『王翠翹伝(おうすいぎょうでん)』を換骨奪胎して長編小説に仕上げたもの。『翹』は、女主人公翠翹の美人ゆえの薄命を主題とし、才命相妬(さいめいそうと)を説き、恋人金重との邂逅(かいこう)、別離、売身、二度の妓女(ぎじょ)勤め、落籍、結婚、投身自殺未遂、金重との再婚を通して、阮攸の仏教観、儒教観、哲学(人生観)を展開したもので、3254行の韻文詩である。現代ベトナム語の豊富な表現力は、阮攸のこの『翹』に負うところがきわめて大きい。

[竹内与之助]

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