キダイ(読み)きだい(英語表記)yellowback seabream

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キダイ」の意味・わかりやすい解説

キダイ
きだい / 黄鯛
yellowback seabream
[学] Dentex hypselosomus

硬骨魚綱スズキ目タイ科キダイ亜科に属する海水魚。太平洋側は福島県、日本海側は青森県以南の各地、東シナ海、朝鮮半島南部以南、台湾、ベトナム、インドネシアなどの海域に分布し、とくに東シナ海に多い。瀬戸内海にはいない。タイプ標本を調査した結果、2007年に本種の学名Dentex tumifronsから変更された。体は卵形で強く側扁(そくへん)する。上顎(じょうがく)に4本、下顎に6本の犬歯があり、両顎側部に1列の円錐歯(えんすいし)がある。背びれは12棘(きょく)10軟条。全長は40センチメートルに達する。東シナ海のキダイはレンコダイともよばれるが、とくに体長により芝レン(15センチメートル以下、1歳)、小レン(19センチメートル以下、2歳)、中レン(23センチメートル以下、3歳)、大レン(23センチメートル以上)に区別される。体は黄色を帯びた美しい淡紅色で、体背部に3個の黄色斑紋(はんもん)が横に並ぶ。また、鼻孔(びこう)前方の吻部(ふんぶ)に鮮黄色斑紋がある。やや深い沿岸大陸棚の水深50~200メートルの底層に生息するが、水深90メートル前後に多い。東シナ海のキダイには年に2回(6~7月と10~11月)の産卵期があるが、秋の産卵が多い。初めて成熟する個体では雌が70~80%を占めるが、大形魚(体長22センチメートル以上)では逆に雌が10~20%以下になり、体長22センチメートル付近のキダイでは両性生殖巣をもつ雌雄同体の個体の割合が多くなっている。

 キダイの卵は油球1個をもつ卵径0.92ミリメートルの分離浮性卵で、水温23℃では約40時間で孵化(ふか)する。ほぼ4年で体長30センチメートルに達する。産卵期には空胃のものが多いが、そのほかの時期には甲殻類魚類、軟体動物を飽食し、量的にはエビ類がもっとも多い。主として機船底引網トロール網、一本釣り、深海延縄(はえなわ)によって漁獲される。刺身、塩焼き、煮つけ、吸い物などにして賞味され、美味である。奄美(あまみ)諸島、沖縄島などには、きわめて近似するホシレンコキビレアカレンコが漁獲されるが、キダイは分布していない。東シナ海や南日本のキダイは、琉球(りゅうきゅう)海盆と黒潮によって南西諸島への分散を阻止されているものと考えられる。本種は、ホシレンコとは背びれ前方の数棘が糸状に伸長しないこと、側線鱗(そくせんりん)が46~50枚であること、側線上方の横列鱗数は5枚であることなどで、キビレアカレンコとは各ひれが赤色であること、背びれ軟条部基底に4個の大きな鮮黄色斑があること、吻部が鮮黄色であることなどで区別できる。

[赤崎正人・尼岡邦夫 2017年7月19日]


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改訂新版 世界大百科事典 「キダイ」の意味・わかりやすい解説

キダイ
Dentex tumifrons

スズキ目タイ科の海産魚。一般にレンコダイとも呼ばれる。また,小さいものから順に芝レン,小レン,中レン,大レンと呼ぶこともある。日本の中部以南,台湾,南シナ海,オーストラリアなどに分布する。体形はマダイによく似るが,体色は黄色みを帯びた赤色で,背方に3個の大きな黄色斑をもつものともたないものがある。全長40cmを超える。大陸棚上にすむ底魚類で,エビ類,エソ類やホタルジャコなどの小型底魚類,イカ類などを食べている。本種は雌性先熟型の性転換をする。初めは7~8割が雌であるが,しだいに両性型から雄へ変わるものが増え,体長約21cmを超えると雄が多くなり,大型魚では雌は1~2割になる。産卵期は6~7月と10~11月の2回である。産卵の主群は4歳以上で,1産卵期に5000~5万粒の球形の浮遊卵を産む。おもに底引網漁で漁獲される重用な食用魚で,塩焼き,煮付けなどのほか,かまぼこの材料にされることもある。
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百科事典マイペディア 「キダイ」の意味・わかりやすい解説

キダイ

タイ科の魚。地方名レンコ,レンコダイ,バンジロなど。全長40cmを超える。体色はマダイ,チダイに似るが,黄みを帯びる。本州中部〜南シナ海,オーストラリアなどに分布する。瀬戸内海には産しない。底引網などで漁獲され,マダイの代用品として多く使われる。
→関連項目タイ(鯛)

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栄養・生化学辞典 「キダイ」の解説

キダイ

 [Dentex tumifrons].スズキ目タイ科キダイ亜科の海産魚.20cmほどになる食用魚.

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世界大百科事典(旧版)内のキダイの言及

【タイ(鯛)】より

…これはそれぞれマダイのしゅんが桜の咲く季節であり,このとき産卵前のもっとも鮮やかな体色をした美しいときであることと,麦の実る季節には産卵期も終わり,体色はくすみ,味がもっとも落ちるときであることを示している。品質名としては生きているイキダイ,活けじめにしたシメダイは高価であり,いけすに置きすぎるとあげてまもなく眼がくぼむので長崎でメヌケダイと呼んできらう。 マダイは日本各地,朝鮮半島,中国,東南アジアにかけて分布している。…

※「キダイ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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