カーボンブラック(英語表記)carbon black

翻訳|carbon black

精選版 日本国語大辞典 「カーボンブラック」の意味・読み・例文・類語

カーボン‐ブラック

〘名〙 (carbon black) 炭素の黒色微粉末。天然ガスアセチレンナフタリンなどを不完全燃焼、または熱分解して作る。古くから墨の原料として、松煙、油煙などから採取された。ゴム配合剤、印刷インクや塗料などの充填剤、乾電池などに用いられる。

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デジタル大辞泉 「カーボンブラック」の意味・読み・例文・類語

カーボン‐ブラック(carbon black)

黒色の非常に細かい炭素の粉末。天然ガス・油・タールなどを不完全燃焼または熱分解させて製する。ゴムの補強剤として多用されるほか、印刷インキ乾電池・墨の原料などにする。

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改訂新版 世界大百科事典 「カーボンブラック」の意味・わかりやすい解説

カーボンブラック
carbon black

無定形炭素の直径3~500nm程度の黒色粉末。水にぬれにくく,比重1.8~1.9。見かけ比重は,粒で0.35~0.4,粉末で0.04~0.08。炭化水素を熱分解して作るが,製法,製造条件などの違いによって,きわめて多様な製品となる。いずれの方法でも,原料の炭化水素を800℃以上の高温で数ミリ秒の短時間で炭化する。基本になる結晶構造は,平均10~30Åの芳香族平面分子が数層集まった乱層構造をなす結晶子で,これが複雑に集合して球状粒子となり,さらに結合して鎖状の集合体(ストラクチャー)となる。表面のミクロ的な状態も単なる炭素の微粒とは相違しており,粒子表面には酸性の官能基やその他の官能基が存在するため,ゴム用補強剤など工業的に特殊な用途がある。原料に用いられる炭化水素は,天然ガス,石炭ガスアセチレンガス,石油系重質油,石油,クレオソート油,ナフタレン,アントラセンなどで,原料によって,ガスブラック,オイルブラック,アセチレンブラックなどと呼び分けられることもある。90%以上が各種ゴム用補強剤(うちタイヤ用が約80%)として用いられ,またプラスチック用補強性充てん剤,印刷インキ,塗料,電線・電らん,乾電池のほか,カーボン紙,墨,絵具,鉛筆,クレヨン,触媒担体,花火,融雪剤などに広く用いられる。

 おもな製法は次のとおり。現在主流となっているファーネス法は,第2次世界大戦中にアメリカで開発された製法で,原料は初めガスが用いられたが最近は油にかわり,高収率で高品位のものが得られる。ファーネス(燃焼炉)のなかに原料と空気を吹き込み,乱流拡散のもとで連続的に不完全燃焼させ,冷却器を通った燃焼ガスを袋状のバッグフィルターで捕らえ,造粒する。操作条件としては,たとえばファーネス温度1600℃前後で,燃焼生成物は,水素,一酸化炭素,二酸化炭素,水蒸気およびカーボンブラック(ファーネスブラック)である。冷却は水を噴射して行うが,まず第1次冷却温度900℃に下げ,次に第2次冷却で400℃に下げる。サーマル法は,天然ガスを原料とし,これを十分加熱したチェッカー構築物(耐火煉瓦をすき間をあけて組んだもの)に送って熱分解する方法で,酸素なしでサイクル式操業を行う。チャンネル法は,コンタクト法の代表で,チャンネルハウス内で天然ガス,炭化水素ガスを小さな炎として部分燃焼させて連続的に炎分解し,炎の上の冷たいチャンネル鋼の底面に接触させて捕集する。カーボンブラックは生産後酸化を受ける。かつては多用された方法であるが,原料高や公害問題で,最近はほとんど行われていない。一般的に,カーボンブラックは粒子の大きいものほど収率がよく価格も安い。日本ではカーボンブラックの品種は正確に規格化されていないが,アメリカのASTM(American Society of Testing Materials)は,粒子径によって規格を整理し,目的,用途に適合させている。
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化学辞典 第2版 「カーボンブラック」の解説

カーボンブラック
カーボンブラック
carbon black

炭化水素の熱分解と不完全燃焼とを,巧みに制御して生産される微結晶を含む球状または鎖状の黒色粒子のこと.製造方法の違いや原料の選択によって,カーボンブラックのもつ基本的な性質,たとえば粒子径(10~100 nm)や比表面積(20~300 m2 g-1),グラファイト類似の結晶子の大きさやその配向性,粒子表面にある酸素含有基の量や,泥状体の示す pH,さらにはストラクチャー(structure)とよばれる粒子相互の融着状態と凝集傾向などが異なってくる.タイヤをはじめ,各種のゴム製品の補強剤に用いるカーボンブラックは,その全生産量の95% 近くを占めているが,そのほとんどは石油系重質油やクレオソート油などを原料として,ファーネス炉でつくるオイルファーネスブラックである.このほかに天然ガスを用いてガスファーネスブラックもつくられているが,比較的古くから行われている製法の一つにチャンネル式がある.これはガス状炭化水素の炎を,冷たいチャンネル鋼の表面に衝突させて,チャンネルブラックを得る方法である.粒子の小さいものは高級なカラーブラックとして賞用される.なかには10 nm に近い粒子径のものも含まれている.一方,天然ガスや石油などを炉で熱分解させて,比較的粒子径の大きいサーマルブラックが生産され,アセチレンからは電気抵抗値の小さいアセチレンブラックが生産されている.ランプブラックは,その製造法の原理が古代中国の松煙や油煙にまでさかのぼるが,近代設備による生産量は少ない.各種のカーボンブラック粒子は不対電子をもっており,粒子表面にはキノンヒドロキノン,あるいはカルボキシル基などの酸素含有基がある.表面の酸素含有基は,ファーネスブラックでは少なく,チャンネルブラックに多い.なお,粒子表面の構造は多環芳香族炭化水素の誘導体に似ており,各種の遊離基と反応をする.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カーボンブラック」の意味・わかりやすい解説

カーボンブラック
かーぼんぶらっく
carbon black

いわゆる煤(すす)のことである。古代からもっとも身近にある優れた黒色の粉体で、インキ、墨、絵の具に用いられてきた。20世紀になり、ゴムの補強剤として認められ、ゴム工業の発展とともに、カーボンブラックの製造も盛んになった。このような用途のほか、ポリマーの耐候性劣化防止、電導性向上を目的とした用途、あるいは炭素材に使用されている。カーボンブラックは、炭化水素が熱分解あるいは不完全燃焼することにより生成する。したがって製法は、熱分解法と不完全燃焼法とに大別される。

 カーボンブラックは、グラファイト型構造の炭素六角形の網目の層が3~5層重なり、これが鎖状に連なった構造(これをストラクチャーという)をしている。この層にはカルボキシ基(カルボキシル基)、ヒドロキシ基、カルボニル基などの基が存在するものもある。カーボンブラックの物性を支配する三つの要素は、粒子径、ストラクチャーと表面の性質(pH、揮発分)である。粒子径は通常10~500ミリミクロン、粒子径が小さいほど黒の色調が強く、着色力も大きい。ストラクチャーはジブチルフサレート(DBP)の吸着量により測定でき、各種バインダーへの配合性、粘度などのほか黒の色調にも影響する。表面の酸化の状態は、水でスラリーをつくり、そのpHを測定し、7以下の場合、酸化を受けているとされる。表面の状態は、各種ワニス類との親和性、インキの流動性、塗料の安定性に影響する。

[大塚 淳]

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百科事典マイペディア 「カーボンブラック」の意味・わかりやすい解説

カーボンブラック

非常に細かい(3〜500nm)黒い無定形炭素の粉末。炭化水素や油脂の不完全燃焼や熱分解で得られる。煤(すす)や油煙もこの一種。炭素が主成分であるが,わずかに気体,液体,または固体が吸着している。ゴム製品(タイヤ用が約80%)やプラスチックの補強剤,印刷インキ,塗料,カーボン紙などの黒色顔料として用途が広い。
→関連項目ゼログラフィーニューカーボン墨汁無定形炭素油煙

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カーボンブラック」の意味・わかりやすい解説

カーボンブラック
carbon black

天然ガスや石油などの不完全燃焼,熱分解により得られる炭素の微粉。製法によって粒子の大きさは違うが,1~500nmの粒子直径のものである。印刷インキ,塗料,カーボン紙などのほか,最も大量に使われるのはゴム製品の耐油性,耐熱性などを増すための増強剤としてである。黒鉛と混ぜて乾電池にも使われる。

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栄養・生化学辞典 「カーボンブラック」の解説

カーボンブラック

 食品の着色料として使われる炭素の粉末.

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世界大百科事典(旧版)内のカーボンブラックの言及

【ゴム】より

…補強性充てん剤はゴムの耐摩粍性,引張強さなどの機械的性質を高める効果をもつ。この代表的なものがカーボンブラックで,補強効果も抜群である。カーボンブラックにも多くの種類があり,その製法や原料によって粒径,表面積が異なる。…

【炭素】より


[製法・用途]
 工業的に各種炭素製品がつくられており,原料としては石炭,石油,天然ガス,天然黒鉛などが普通に用いられるが,目的に応じて合成高分子なども用いられる。無定形炭素としては,カーボンブラックと活性炭が最も多くつくられる。カーボンブラックは自動車のタイヤなどをはじめとして各種ゴムの充てん剤として多く用いられ,また印刷インキとして用いられるが,主として天然ガスあるいは石油の不完全燃焼によってつくられる。…

※「カーボンブラック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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