カーボンニュートラル(読み)かーぼんにゅーとらる(英語表記)carbon neutral

翻訳|carbon neutral

デジタル大辞泉 「カーボンニュートラル」の意味・読み・例文・類語

カーボン‐ニュートラル(carbon neutral)

《環境中で、二酸化炭素排出量と吸収量が同じであるという意、炭素中立
植物や植物を原料とするバイオエタノールなどを燃やして出る二酸化炭素は、植物が生長過程に吸収した二酸化炭素と同量温室効果ガスを増やすことにはならず、環境破壊にはつながらないという考え方。→バイオマス
日常生活や経済活動によって排出される温室効果ガスうち、排出者自身の努力では削減できない分を、他の場所で達成された削減・吸収量で相殺することによって、温室効果ガスの増加が実質的にゼロになった状態。→カーボンオフセット

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カーボンニュートラル」の意味・わかりやすい解説

カーボンニュートラル
かーぼんにゅーとらる
carbon neutral

二酸化炭素など温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、排出量を実質ゼロに抑えるという概念。もともとは生化学や環境生物学の用語で、人類が生きていくには温室効果ガス排出は避けられないので、排出を吸収で相殺し、地球温暖化への影響を軽微にしようとの考え方に基づいている。「カーボンゼロ」「カーボンオフセット」「排出量実質ゼロ」「炭素中立」なども似たような意味で用いられる。気候変動など温暖化問題が地球規模で深刻になるなか、カーボンニュートラルは脱炭素化社会の実現やグリーン成長戦略のキーワードとなっている。カーボンニュートラルの達成年次として、日本、ヨーロッパ連合EU)、韓国などの政府は2050年を、中国政府は2060年を目標としている。

 カーボンニュートラルの実現には、(1)排出分の吸収、(2)排出量の削減、(3)排出量取引、の三つの手法がとられる。吸収策では、植林などで直接吸収量を増やすほか熱帯雨林の開発抑制、森林伐採や森林火災の防止が有効とされる。二酸化炭素を地下に貯蔵したり再利用したりするCCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)技術の実用化や、海水による吸収・化学吸収・物理吸着技術の研究も進んでいる。排出量の削減では、発電、製鉄などの工場、自動車、運輸・輸送分野で化石燃料の利用を抑制・禁止し、太陽光や風力などの再生可能エネルギー、水素エネルギー、植物由来の物質(バイオエタノール、木質ペレット、農業廃棄物など)活用へ転換する。二酸化炭素排出量の多い石炭から少ない液化天然ガス(LNG)などへの転換のほか、次世代原子力発電炉の開発、温暖化効果の高いフロンガスの使用禁止、家畜・水田・ゴミ埋設処理場でのメタン排出抑制、化石燃料の利用に応じて課税する炭素税(環境税)導入などがある。排出量取引は、国、自治体、企業などの経済主体ごとに排出許容限度を定め、限度を超えて排出する経済主体が限度未満の経済主体から排出量(排出枠)を買い取る仕組みで、低炭素技術の開発・導入や排出抑制のインセンティブになるとされる。炭素税や排出量取引などのカーボンプライシング(炭素の価格付け)は排出・吸収過程を見える化(数値化)できるほか、投資や雇用を生む経済効果も期待される。なお二酸化炭素の排出量を吸収量が上回る場合はカーボンネガティブcarbon negative(カーボンポジティブcarbon positiveも同じ意味で使われることが多い)といわれる。

[矢野 武 2021年4月16日]

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