カーヌーン(英語表記)qānūn[アラビア]

デジタル大辞泉 「カーヌーン」の意味・読み・例文・類語

カーヌーン(〈アラビア〉qānūn)

隣り合う二角が直角をなす不等脚台形の薄い木箱に多数の弦をはったチター型の撥弦はつげん楽器。左右の人差し指にはめたプレクトラムで弾く。主として、アラブ諸国で用いられる。

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改訂新版 世界大百科事典 「カーヌーン」の意味・わかりやすい解説

カーヌーン
qānūn[アラビア]

アラブ音楽撥弦楽器。1辺が底辺と直角をなす台形の箱のような形をした共鳴体に,ガットまたはナイロン製の弦が水平に張られている。弦の数は63本から84本で,普通72本であり,3本が1組で一つの音に調弦される。底辺に対し斜辺をなす左側面に糸巻きが並ぶ。糸巻きに沿って,ちょうつがいのついた小さな金属板が各組の弦の下に設けられており,この金属板を動かすことによって,4分の1音などの細かい音高の調節が可能になっている。これは曲中でマカームが変化するときに,あらかじめ演奏されるマカームに合わせて調弦されている音高を変えるために用いられる。演奏者はカーヌーンを膝または台の上にのせ,両手人差指に,角製の爪をとりつけた指輪をはめて弦をはじいて奏する。独奏または歌の伴奏,あるいは他の楽器とのアンサンブルで奏される。多く男性が奏する。歴史的には10世紀から文献に名が見えている。
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カーヌーン
kānūn

ギリシア語kanōnに由来するアラビア語で,ペルシア語トルコ語にも採り入れられた。古くは租税用語として用いられたが,後にイスラムの宗教法としてのシャリーアに対し,世俗法を意味するようになった。イスラムにおいては,全社会生活は,シャリーアにより規律されるたてまえであるが,現実にはシャリーアにより覆いきれない部分が生じ,主として政治・行政上の世俗法としてのカーヌーンが成立していった。カーヌーンは,理論上はシャリーアを補完するにすぎぬものとされた。しかし,実際上は支配者の権威に基づく世俗法としてのカーヌーンは,シャリーアから独立した法体系と化し,両者の間の対立もみられるようになった。カーヌーンはオスマン帝国時代に,スルタンの権力の増大とともに著しい発達を遂げ,世俗法としてのカーヌーンの役割が増大し,法令集成としてのカーヌーン・ナーメが多数成立した。
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百科事典マイペディア 「カーヌーン」の意味・わかりやすい解説

カーヌーン

アラブおよびトルコツィター属撥弦楽器。台形の薄い木製共鳴箱の上に,3本1コースのガットあるいはナイロン弦を17〜25コース張り,両手の人差指に角製の爪をとりつけた指輪をはめてかき鳴らす。左側の糸巻の寸前にある金属製ブリッジを演奏中に左手で操作して,半音や微分音の変更を行う。アラビア音楽の影響下にある地域に広く分布し,おもに古典音楽の独奏,合奏,歌の伴奏に用いられる。古代オリエント起源。ヨーロッパにも伝わり(ツィター,プサルテリウム),後のハープシコードの祖形の一つとされる。
→関連項目ターラブ

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「カーヌーン」の解説

カーヌーン
kānūn

ギリシア語に由来するアラビア語で,イスラーム社会における法的体系の一つ。(1)イスラーム圏に包括された諸地域で行われる慣習法に相当し,この場合アーダと近似の意味となる。(2)イスラームの聖法たるシャリーアや諸地域の慣習法たるアーダと並行して,ムスリム君主が政治運営上の必要から,自己の意志にもとづき制定した法令を意味する。オスマン帝国では,シャリーアはスルタンの意志以上のもので改変できないが,カーヌーンとアーダはウルフ(この場合スルタンの意志)に従属し,ウルフが成文化されたときカーヌーンとなる。(3)カーヌーヌ・エサースィというと憲法の意味となる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カーヌーン」の意味・わかりやすい解説

カーヌーン
qānūn

イスラム諸国の世俗法。語源はギリシア語の kanonからきた。キリスト教社会における教会法 canon lawにほぼ相当するシャリーア shari'aとは別に,諸地域の慣習法であるアーダー'āda,ウルフ'urfと同義語。イスラム教の発展に従い,風俗習慣を異にする地域が包含されると,シャリーアと強く衝突しない各地の慣習法は温存された。カーヌーンには,慣習 (アーダー) に基づいたものが多いが,なかにはオスマン朝の「カーヌーン・ナーメ」 Qānūn Nāmehのように,君主が政治運営の必要上から,自己の意思に基づいて制定したものをいうこともある。ペルシアでは,1906年カージャール Qājār朝で制定した憲法をカーヌーンと呼んでいる。

カーヌーン
qānūm

アラブ諸国およびトルコの古典音楽に使われるツィター属の撥弦楽器。梯形の平板な箱の上に 24~26コースの3重弦 (羊腸またはナイロン) が張られ,共鳴板の右側約3分の1には薄い皮が張られ,駒はこの皮の上に立てられる。斜めに切込まれた箱の左端には弦を調律するピンが並び,上駒に当る部分には,微小な音程をただちに上下に変えうる装置がある。奏者は楽器を水平に膝の上に置き,両手の人差指にはめた義爪でかき鳴らす。古典音楽では主としてタクシームを演奏し旋律の主要音を強調しながら,速いトレモロ風のパッセージを必要とし,めまぐるしく人差指を動かす高度な演奏法がある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カーヌーン」の意味・わかりやすい解説

カーヌーン
かーぬーん
qānūn アラビア語

アラブ諸国やトルコのチター属の撥弦(はつげん)楽器。古典音楽の旋律楽器として使用される。その起源は明らかでないが11~12世紀にはすでに西アジア各地やスペインで用いられていた。現在の形態は、表面片側が羊皮からなる台形の平たい木製共鳴箱の上に、75本前後のガット弦かナイロン弦を張ったもの(3弦ずつ同じ音に調弦する)が一般的で、弦の振動が駒(こま)を通して羊皮に伝わり、独特な音色が得られる。膝(ひざ)の上か台の上に楽器を置き、両手の人差し指にプレクトラム(義甲)をつけて、トレモロ奏法を主体に演奏する。また、使用する旋法にあわせて微小音程を調節できる装置を駒に付したものもある。

[山田陽一]


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旺文社世界史事典 三訂版 「カーヌーン」の解説

カーヌーン
qānūn

イスラーム世界における行政法
イスラーム世界では,理念上はシャリーア(イスラーム法)によってのみ規定されるべきであるとされるが,実際に様々な地域を支配するようになると,現実的な対応としてカーヌーンが整備されていった。オスマン帝国では,イスラーム以前のアラブの伝統や,チンギス=ハン以来のヤサ,トルコの伝統を生かし,さらにスルタンの勅令なども集大成して「カーヌーン−ナーメ」という成文法として成立した。

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