カンガルー(読み)かんがるー(英語表記)kangaroo

翻訳|kangaroo

精選版 日本国語大辞典 「カンガルー」の意味・読み・例文・類語

カンガルー

〘名〙 (kangaroo) 有袋目カンガルー科、とくにカンガルー属の大型種の哺乳類の総称。体長三〇センチメートル~一・六メートル。前あしは短いが、後ろあしは著しく強大で跳躍するのに適する。尾はよく発達し、直立するときに、体を支えるとともに、跳躍走行時には体の平衡をとるのに適している。胎盤(たいばん)の発達が悪く、胎児は未熟な状態で生まれるため、雌の腹部にある育児嚢で成長する。アカカンガルー、クロカンガルーなどがあり、体色は種類によって異なる。オーストラリア、ニューギニアなどに分布する。草原や疎林にすみ、草を食べる。大型種で生息数の多いものは肉を食用とし、皮は柔らかく強いので、毛皮、皮革に利用する。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カンガルー」の意味・わかりやすい解説

カンガルー
かんがるー
kangaroo

哺乳(ほにゅう)綱有袋目カンガルー科に属する動物の総称。この科Macropodidaeには約15属65種が含まれる。また、狭義にはそのうちのカンガルー属に含まれる大形種をさす。オーストラリア、タスマニア島ニューギニア島およびその周辺の島に分布する。

[中里竜二]

形態

カンガルー科の仲間の大きさは、頭胴長が25センチメートル~1.6メートルまで、体重0.5~80キログラムと種によりさまざまで、普通、雄は雌よりも大きい。雌の下腹部にはよく発達した育児嚢(いくじのう)があり、前方に開口する。大形種では後ろ足がよく発達するが、小形種や樹上生の種ではその発達は悪い。前足には5本の指がある。一方、後ろ足の第2、第3指は小さく互いに結合し、第4指は大きく、第5指は小さい。また、第1指はニオイネズミカンガルーにはあるが、ほかの種はない。尾は長く、ニオイネズミカンガルー以外には毛が生えていて、ときには物を巻き付けて運ぶことができるものもいる。門歯は切歯状で草を切るのに適し、下あごの歯は普通、水平に前方へ伸びている。犬歯は下あごにはなく、上あごにはあっても非常に小さい。臼歯(きゅうし)は幅広く、隆起や結節があって、食物を擦りつぶすのに適している。

[中里竜二]

生態

多くは地上生であるが、キノボリカンガルーだけは樹上生である。やぶ地や森林の下生え、岩石地、開けた草原や林などに生息し、多くの種は、昼間は物陰ややぶ地、下生えなどで休息し、明け方や夕方に活動する。小形種の一部に多少雑食傾向があるほかは、すべて草食性である。大形種は後ろ足がよく発達していて、跳躍が巧みで一度に5~8メートル、記録では13メートルも跳ぶことができ、また時速40キロメートルで走ることができる。胎盤を欠くか発達が悪いので、子は未成熟な状態で産まれ、大きさは1~2センチメートル、体重1グラム前後である。妊娠期間は種により多少異なるが、30~40日である。1産1子、まれに2子。出産直後の子は閉眼で体には毛が生えておらず、前足を用いて独力で育児嚢に入り、4個ある乳頭の一つに吸い付く。その後の成長は種により異なるが、半年から1年で独立する。

[中里竜二]

おもな種類

〔1〕カンガルー属Macropus 典型的なカンガルーの仲間で、ワラビーの仲間に比べると体が大きく、7種が含まれる。(1)アカカンガルーM. rufus 東端、西端、北端および東岸の山岳地帯を除き、オーストラリアのほとんどどこにでも分布する。カンガルー科中最大のものの一つで、頭胴長は1.3~1.6メートル、体の上面は栗(くり)色または鮮やかな赤褐色であるが、雌では青みを帯びた灰色の場合が多い。広い草原に10頭ぐらいの小群で生活し、普通、夕方から夜にかけてと明け方に活動して草を食べる。(2)オオカンガルーM. giganteus 別名ハイイロカンガルーサウス・オーストラリア州の南東からクイーンズランド州ヨーク岬までと、ウェスタン・オーストラリア州の南西部やタスマニア島に分布する。アカカンガルーとともにカンガルー科のなかでは最大のものの一つで、頭胴長は1.1~1.5メートル、体重は雄で80キログラムに達する。雄が雌よりも大きい。体の上面は灰色または灰色を帯びた褐色である。おもに開けた草原の森林地帯に群れで生活し、夕方から明け方にかけて活動して草を採食する。(3)クロカンガルーM. fuliginosus オーストラリア南岸のカンガルー島のみに分布する。頭胴長は1.1~1.6メートルに達する。開けた草原の森林に生息する。(4)ケナガワラルーM. robustus オーストラリア南東部の山地丘陵の岩石地に生息し、小さな群れで生活し、草、地下茎、根などを食べている。頭胴長は75センチメートル~1.3メートル。体は頑丈で、後ろ足は比較的短く、岩場に生息するのに適応し、足の裏には粗い顆粒(かりゅう)がある。このほかワラルーwallarooの英名でよばれる仲間には、アカワラルーM. antilopinus、ヒメワラルーM. isabellinus、クロワラルーM. bernardusがいる。

〔2〕ワラビー属Protemnodon この仲間には9種があり、外形はカンガルー属によく似ているが、小形でさらに優美で、色彩も鮮やかで美しいものが多い。上あごの第3門歯に1個の縦溝があり、臼歯の前端に隆起があることからカンガルー属と区別される。大きさは種により異なり、頭胴長は50センチメートル~1メートル。オーストラリア、タスマニア島、ニューギニア島に分布し、沼沢地や低木林地に小群で生活し、草や木の葉を食べる。

〔3〕ウサギワラビー属Lagorchestes オーストラリアとその沿岸の小島に分布するウサギ大のワラビーで、5種が含まれ、草食性である。

〔4〕イワワラビー属Petrogale オーストラリアとその付近の小島に分布し、11種が知られる。岩地に生息するのに適応した小形のワラビーで、足の裏には粗い顆粒があり、周りに硬い毛が生えていて、岩地を歩くのに適している。

〔5〕ツメオワラビー属Onychogalea オーストラリアに3種が分布する。尾の先端に角質のけづめまたは平づめ状のものがある。

〔6〕ヤブワラビー属Thylogale オーストラリアとその周辺の島、タスマニア島、ニューギニア島に8種が分布する。

〔7〕クアッカワラビー属Setonyx この属は1種だけで、オーストラリアとその周辺の島に分布する。原始的な小形のカンガルーの仲間で、頭胴長は25~30センチメートルである。

〔8〕キノボリカンガルー属Dendrolagus ニューギニア島とオーストラリア北部に分布する樹上生の仲間である。

〔9〕ドルコプシス属Dorcopsisとヒメドルコプシス属Dorcopulus 両属ともニューギニア島に分布し、2種ずつを含む。外形はワラビーに似ているが、前足と後ろ足の長さの差が少ない。

〔10〕ネズミカンガルー属Potorous オーストラリア、タスマニア島に3種が分布する。巣材などを巻き付けて運ぶ習性がある。近縁のものに、フサオネズミカンガルー属Bettongia、アカネズミカンガルー属Aepyprymnus、サバクネズミカンガルー属Caloprymnusがある。

〔11〕ニオイネズミカンガルー属Hypsiprymnodon この属は1種だけで、オーストラリア東部に分布する。もっとも原始的な小形の種で、頭胴長は25センチメートル。他種と異なり、後ろ足に第1指がある。

[中里竜二]

人間生活との関係

大形種の肉は食用になり、皮は皮革としてきめが細かくじょうぶであるので、高級靴などに使用される。毛の深いものやカンガルー属の子は毛皮としても利用される。また、カンガルーという名の由来は、従来は原住民のことばで「私は知らない」の意味であるといわれていたが、最近では原住民が本来カンガルー類をさすことばからきたとの説が有力である。

[中里竜二]

『今泉吉典・小原秀雄著『世界哺乳類図説 単孔目・有袋目』(1966・新思潮社)』『フリス・カラビー著、白石哲訳『世界動物記シリーズ5 カンガルー』(1974・思索社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「カンガルー」の意味・わかりやすい解説

カンガルー
kangaroo

有袋目カンガルー科Macropodidaeに属する哺乳類の総称。よく発達した後半身に太く長い尾を備えた独特の体型をもつ。上半身はほっそりしていて前肢は小さい。カンガルー科は,カンガルー,ネズミカンガルー,ニオイネズミカンガルーの3亜科に分けられ,狭義には,カンガルーはカンガルー亜科カンガルー属に含まれる大型のアカカンガルー,オオカンガルー,それにワラルーを指す。

 オーストラリア,タスマニア,ニューギニアに分布し,砂漠に生息する種から森林の樹上にすむ種(キノボリカンガルー類)まで約55種がある。最小の種は,体長24~34cmのニオイネズミカンガルー,最大の種は,有袋類中最大で体長160cmを超えるアカカンガルー,オオカンガルーである。いずれの種も,発達した後肢でジャンプしながら移動し,木や草の葉などの植物質を主食とする。走行中のバランス器官である太い尾は,休息時に後肢とともに体を支える役割もある。下腹部の育児囊の中には四つの乳頭がある。門歯は,上あごに3対,下あごに1対で植物をはみとるのに適し,前臼歯(ぜんきゆうし)と臼歯は,植物の葉をすりつぶすのに適した臼型をしており,上下各4~6対ある。セルロースを分解するバクテリアを胃と小腸内にもち反芻(はんすう)を行う種もある。水なしで長期間耐える能力をもつ点ではヒツジなどの有胎盤類の草食獣よりも優れた生活能力をもっている。繁殖期は一定せず,雌は大型の種の場合,妊娠期間約33日で,体長2.5cm,体重約1.3gのごく小さな1子を生む。子は赤裸の未熟な状態で生まれるが,前肢だけはよく発達しており,それを使って自力で母親の腹面をはいのぼり,育児囊に入って乳頭に吸いつく。初め子は乳頭に吸いついたまま過ごす。約235日育児囊内にとどまるが,後半は顔を出したり,外に出ることもある。雌は出産後ただちに交尾し,再び妊娠するが,子宮内の胚の発育は一時的に抑制され,育児囊内の子が独立したときに再び発育を開始する。このために,雌は絶えず子を育てる準備を完了していることになり,産子数の少なさを補っている。また,水が不足するなど環境条件が悪い場合にも,胚の発育は抑制され,よくなると発育を開始する。したがって良好な条件を巧みに生かして繁殖することができる。

オーストラリア内陸の草原に生息する最大種のアカカンガルーは,雄の体長166cm,尾長107cmに達する。雌はやや小さい。開けた草原を後肢を使ったジャンプで走り,時速48kmに達する。草を常食とする。ふつう十数頭の群れで生活し,夜間牧場内にも侵入して草を食べ,この際,門歯を使って牧草の根もとまではみとってしまうために,しばしば害獣として駆除される。オオカンガルーは,アカカンガルーとほぼ同大の大型種で,オーストラリア東部の森林にすみ,木の葉を好んで食べる。かつては1000頭を超える大群が見られたといわれるが,現在では大きくても50頭程度の群れしか見られない。ワラルー類は,前2種よりもやや小さく,体長75~140cm,尾長60~90cm程度で,オーストラリア南東部の荒れ地にすむ。後肢がやや短く,荒れ地を歩くのに適している。ケナガワラルー,アカワラルーなどがある。ワラビー類は,ワラルーよりもいっそう体の小さなカンガルー類の総称で,体長35~100cm,尾長33~75cm。アカクビワラビー,オグロワラビー,エレガントワラビーなどがある。カンガルー類中もっとも原始的なニオイネズミカンガルー類には約10種が知られており,後肢があまり発達しないため四足歩行することが多い。砂漠に巣穴を掘ってすむ種もある。
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百科事典マイペディア 「カンガルー」の意味・わかりやすい解説

カンガルー

有袋目カンガルー科の哺乳(ほにゅう)類の総称。後肢と尾が発達。太くて長い尾ではずみをつけ,ジャンプして前進する。オーストラリア,ニューギニア,タスマニアに分布。草原や疎林,熱帯多雨林にすみ,草食。ふつうは1腹1子,ニオイネズミカンガルーでは1腹2子。新生児は0.3〜1gほどで,ミミズのようなぜん動運動をして育児嚢に入り込み,3〜6ヵ月を嚢内で過ごす。アカカンガルー(体長0.8〜1.6m),オオカンガルー(ハイイロカンガルーとも。体長1〜1.5m)などが代表的。やや小型のものをワラルー,さらに小さなものをワラビーといって区別するが系統的には同類である。皮はじょうぶなため靴などに利用される。
→関連項目オーストラリア有袋類

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カンガルー」の意味・わかりやすい解説

カンガルー
Macropodidae; kangaroo

有袋目カンガルー科の動物の総称。約 50種から成り,多くは森林や草原にすみ,地上または樹上で生活する。普通後肢は前肢より長く,前肢には5指がある。後肢には4指があり,第4指が最も長く,第2,3指は小さく,互いに癒着している。尾は長く,体を支えたり,歩くときのバランスをとるのに役立つ。子は未熟な状態で生れ,雌親の腹部にある大きな育児嚢に自力で入る。オーストラリア,タスマニア島,ニューギニアに分布する。

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世界大百科事典(旧版)内のカンガルーの言及

【育児囊】より

…オーストラリアを象徴するカンガルーやコアラは分類学的には有袋類と称されるグループに含められるが,有袋類とは育児囊をもつ動物という意味である。われわれヒトをも含めた真獣類(有胎盤類)では,受精卵はある程度発生を進めた胚盤胞の段階で母親の子宮に着床する。…

※「カンガルー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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