カワゲラ(読み)かわげら(英語表記)stonefly 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カワゲラ」の意味・わかりやすい解説

カワゲラ
かわげら / 襀翅

stonefly 英語
Steinfliegen ドイツ語

昆虫綱カワゲラ目の昆虫の総称。襀翅(せきし)類(目)ともいう。カワゲラ目Plecopteraは、体の構造は比較的原始的で、直翅目系の昆虫の特徴を示している。口器は退化的傾向が強い。前翅と後翅はほとんど同じ構造であり、また脚(あし)の基節が小さいことなどから直翅目とは完全に異なる。現代のカワゲラ類は古生代ペルム紀(二畳紀)の原カワゲラ目Protoperlariaを直接の祖先型としているといわれている。

 カワゲラ類の成虫は、すべて陸生で空中を飛翔(ひしょう)するが、幼虫はすべて水生で流水中や池などに生息する。成虫は水辺近くを飛翔し、水辺の草や橋脚に止まり、前翅を後翅の上に積み重ね合わせて腹部の背面上に置き静止する。これが襀翅目の名のおこりである。

 成虫は褐色または淡黄色の8~30ミリメートル前後で、膜質の2対のはねをもつのが普通であるが、セッケイカワゲラ類やトワダカワゲラ類ではまったくはねをもたない。また、種属によっては、同種または雌雄によってはねの長さの極端に異なるものがある。また、成虫は一般に食物をとらないが、小形の種属では岩の上や樹幹に生育する地衣類やコケ類を摂取する。

 カワゲラの幼虫はすべて水生で、澄んだ水が緩やかに流れる山間の渓流などに多くみられ、平地でも汚染されてない川には生息し、石の下や沈んだ葉の間にすむ。幼虫ははねをもたないことを除いて、体の構造は成虫とあまり変わらない。比較的じょうぶな体で、水中の石礫(せきれき)の間を歩く。大形種では顕著な色彩と斑紋(はんもん)があり、その斑紋によって種名を知ることができるが、変異が多いので注意を要する(アミメカワゲラ科、カワゲラ科など)。小形種では一様に褐色あるいは淡黄褐色で斑紋はなく、種名の同定はむずかしい(オナシカワゲラ科、クロカワゲラ科など)。また、幼虫の外見はカゲロウの幼虫に似ているが、カワゲラは脚のつめが2本、胸部腹面または腹部末端にえらがあることなどから容易に識別できる。一般に気管えらをもつが、まったくもたない種属もある。気管えらのある位置は種属によって異なるが、これは分類上重要であり、その系統的な意義も大きい。幼虫の期間は種属によって異なり、1~3年といわれているが、まだ十分にはわかっていない。幼虫の食性は、だいたい大形種では肉食性ないしは肉食傾向の強い雑食性であり、小形種で草食性である。食性は幼虫の口器と対応しており、口器を見れば肉食性であるか、草食性であるか容易にわかる。幼虫は不完全変態であり、蛹(さなぎ)の時期はなく、羽化は比較的湿度の高い早朝に行われる。

 このところ、走査電子顕微鏡によるカワゲラ卵の表面構造の観察研究が盛んで、とくに大形種の研究では系統関係を論ずることができるまでに発展している。カワゲラの幼虫は渓流奥の天然餌料(じりょう)として重要であるとともに、渓流魚の釣りの餌(えさ)(クロカワムシ)としても、カゲロウの幼虫(チョロムシ、オセコ)やトビケラの幼虫(瀬虫)と同様に利用されている。

 近年、カワゲラ類の成虫および幼虫の比較解剖学的見地から、カワゲラ目をミナミカワゲラ亜目Antarctoperlariaとキタカワゲラ亜目Arctoperlariaの2亜目に分類している。前者は原始的な亜目で、おもに南半球に分布するのに対し、後者は前者よりもより高度に分化した亜目で、おもに北半球に分布する。日本にはキタカワゲラ亜目に、トワダカワゲラ科、ミジカオカワゲラ科、オナシカワゲラ科、クロカワゲラ科、ハラジロオナシカワゲラ科、ヒロムネカワゲラ科、アミメカワゲラ科、カワゲラ科、ミドリカワゲラ科の9科が知られている。

[川合禎次]


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改訂新版 世界大百科事典 「カワゲラ」の意味・わかりやすい解説

カワゲラ (襀翅/𧐐)
stonefly
Steinfliegen[ドイツ]

カワゲラ目Plecopteraに属する昆虫の総称。襀翅(せきし)類ともいう。体は比較的原始的な構造をもっている。口器は退化的傾向にあるが,機能は失っていない。直翅類(コオロギ,バッタなど)に近縁であるが,前翅と後翅はほとんど同じ構造で,また,脚の基節が小さいことなどから完全に異なる。現代のカワゲラは二畳紀の原カワゲラ目ParaplecopteraのMarkemidaeを直接の祖先型としている。

 成虫はすべて陸生であるが,幼虫は流水中で生活するため成虫も水辺に多く,近くの草や樹木に止まっていることが多い。成虫は,一般に水辺近くを飛翔(ひしよう)するが,飛翔力は強くない。静止するときは,前翅を後翅の上に積み重ね合わせて背中にたたんでいる。ここから襀翅類の名がついた。成虫は褐色ないしは淡黄色で,体長8~30mm前後,扁平で,腹端に1対の尾毛がある。一般に膜質の2対の翅をもつが,セッケイカワゲラ類,トワダカワゲラなどではまったく翅をもたない。翅をもつものでも同種でありながら翅の長さの極端に異なるものがある。カワゲラ科Perlidaeなどの大型のものでは成虫は食物はとらないとされているが,オナシカワゲラ科Nemouridaeなどの小型種では樹幹上に生育する藻類や地衣類を食べ,モモの実を食害することもある。成虫は比較的短命で羽化後1週間~10日で死ぬ。

 幼虫は翅をもたないことを除いて,成虫の構造とそれほど異ならない。しかし,種によっては口器の一部や胸節,腹端部に気管えらをもつものがある。幼虫は渓流の流れの比較的緩やかな石の下や,沈んだ葉の間に隠れて生活している。幼虫の口器と食性はよく対応しており,肉食性のカワゲラ科などでは大あご,小あごはよく発達するが,草食性のオナシカワゲラなどではそれほど発達していない。生活史に関してはまだ十分に解明されていないが,1~3年で成虫になる。不完全変態で,成熟した幼虫は比較的湿度の高い早朝に岸にはい上がり羽化する。幼虫は渓流魚の食物として,川の生態系の中で重要な位置を占めるとともに,渓流釣りの餌としてよく使われる。

 カワゲラ目はミナミカワゲラ亜目Antarctoperlariaとキタカワゲラ亜目Arctoperlariaに分けられる。前者は原始的な特徴をもつもので,オーストラリア,ニュージーランド,南アメリカに分布する。後者は北半球を中心に地球上に広く分布する。日本からは約160種が記録されている。
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百科事典マイペディア 「カワゲラ」の意味・わかりやすい解説

カワゲラ

カワゲラ目の昆虫の総称。主として成虫は春から初夏にかけて流れの付近に多い。カワゲラ目の幼虫は全部流水中の石の下などにすむ。不完全変態。成虫になっても無翅の種類もある。

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