改訂新版 世界大百科事典 「カルデロンデラバルカ」の意味・わかりやすい解説
カルデロン・デ・ラ・バルカ
Pedro Calderón de la Barca
生没年:1600-81
スペインの劇作家。ローペ・デ・ベガ,ティルソ・デ・モリーナと共に〈黄金世紀〉を代表する三大劇作家の一人で,後年ドイツ・ロマン派から高い評価を受けた。名家の出身で,イエズス会の学校とサラマンカ大学で神学を学んだ後,20歳ころから文学に転じたが,50歳のとき司祭の叙階を受けて,国王フェリペ4世の名誉司祭にもなった。国王に対する忠誠,カトリック教会に対する絶対的帰依,名誉あるいは体面感情の三つを基本的なテーマとして,120編におよぶ戯曲を書いた。これらの作品は,初め町なかの〈コラール〉と呼ばれる劇場で上演されたが,1640年に最新の設備を誇る王室劇場が完成すると,そのほとんどがここで上演された。歴史に題材を求め,王によって擁護される平民の名誉を描いた《サラメアの村長El alcalde de Zalamea》(1643),哲学的戯曲の最高作とみなされている《人生は夢La vida es sueño》(1635),宗教的な《すばらしい魔術師》(1637),夫婦間の貞操観念を扱った《己(おの)が名誉の医師》(1635)などが代表作である。またカルデロンは,聖体の秘跡に関するテーマを扱った一幕物の聖餐神秘劇の第一人者でもあった。これは聖体祭に野外で山車の上で演じられる寓意性の強いスペイン独特の宗教劇で,抽象的な概念が人格化されて現れることによってカトリックの理念を具体的な形で表現することに役立った。80編ほどの作品のうち,《バルタサールの晩餐》《大世界劇》などが有名である。スペイン国民演劇の創始者たるベガの作品が大衆的要素を重視したのに対し,カルデロンでは知的な哲学的要素が強調され,バロック期独特の〈奇知主義〉や〈誇飾主義〉による凝った文体や構成が特徴となっている。スペイン・バロックを代表した彼の死は〈黄金世紀〉の終焉を意味した。
執筆者:牛島 信明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報