改訂新版 世界大百科事典 「カモノハシ」の意味・わかりやすい解説
カモノハシ (鴨嘴)
platypus
Ornithorhynchus anatinus
爬虫類の特徴をとどめもつ単孔目カモノハシ科の水生哺乳類。オーストラリア東部とタスマニア島に分布する。ハリモグラとともに,鳥や爬虫類のように総排出孔をもち,卵生だが,体毛があって哺乳するという点では哺乳類の特徴をもつ。系統関係は不明な点が多いが,有胎盤類や有袋類とはまったく別の進化の道をたどったものと思われる。
1798年に,オーストラリアからインド経由で大英博物館に到着した剝製が,動物学会に知られた最初のカモノハシである。この剝製は,カモのようなくちばしをもち,獣の毛皮をもつという矛盾した特徴のために,まがいものではないかという指摘を含めて,大きな論争を巻き起こした。1802年には,医学者のE.ホームが完全な標本を解剖して,卵生である可能性を明らかにし,論争は卵を産む哺乳類の存否へと移った。84年,W.カルドウェルが1卵を産んだ直後の雌を解剖して,体内からもう1卵を発見するにおよんでようやくカモノハシが卵生の哺乳類であることが確認された。
体長30~45cm,尾長10~15cm,体重0.5~2kg。体色は背側が焦茶色,腹側が灰白色または黄褐色,体は細長く平たい。口吻(こうふん)はアヒルに似たくちばし状をなし,青灰色のやわらかい裸出した皮膚で覆われる。尾はビーバーのように平たく太い。手足にはつめと水かきが発達する。雄は後肢の内側のかかとの近くに角質のけづめをもつ。けづめはその上部にある毒腺と接続しており,雄どうしの闘争や敵や獲物への攻撃の際に武器として使われると思われている。体温は平均32.2℃と低く,周囲の温度にもある程度影響される。
川や湖に生息し,土手に長さ5~9mの巣穴を掘ってすむ。おもに早朝と夕方巣穴から出て,泳いだり潜水したりして,水生昆虫の幼虫,ザリガニ,ミミズ,オタマジャクシなどの水生小動物を食べる。泳ぐ際には,頭の側面の溝の中にある目と耳は閉じられるので使えず,先端に鋭い感覚器をもつ口嘴(こうし)で獲物をさがし出してとらえる。泳ぎは巧みだが,長くは潜水できず,たびたび水面に浮かび出て呼吸し,また水中でとらえてほお袋にためた獲物をそしゃくする。成獣は歯をもたず,角質板で食物を砕く。7~11月の繁殖期には雄は雌の尾をしっかり抱いて,円を描くような求愛行動を行う。雌は巣穴の奥に草,葉などで巣をつくり,交尾後約12~14日で,通常直径1.3cmのやわらかい卵を2~3個産み,7~10日間あたためる。雌は乳頭をもたず,孵化(ふか)した子は雌の腹部のしわからしみ出す乳をなめる。子は約4ヵ月で離乳し,2年半で成熟する。寿命は約10年。
執筆者:今泉 吉晴
カモノハシ
Ischaemum aristatum L.ssp.glaucum(Honda)T.Koyama
上下二つに分かれてカモ(鴨)のくちばしに似た穂をもつイネ科の多年草で,和名はこの穂の形に由来する。海岸に近いやや湿った草地や松林の中などに見られる。茎は密に叢生(そうせい)し,下部は短く横にはい,上部は斜めに立ち上がって,長さは30~70cm,細くまばらに葉をつける。葉は細長い披針形で,長さ20cmほどである。夏から秋に,茎と枝の先に花序を出す。花序は2個の太い総(ふさ)が密着して円柱形となり,黄色または赤褐色を帯び,やや無毛,長さは6cm,幅は5mmで,半円柱形の2本に分かれる。小穂は6mmくらいで,扁平の皮質,対をなし,1個は有柄,他は無柄である。本州から九州の暖地に生え,中国の黄海沿岸と朝鮮南部にもある。基本変種I.aristatum L.はキイカモノハシと呼ばれ,日本南部から南中国を経てインドまで分布する。海岸の砂丘に生えるケカモノハシI.anthephoroides Miq.では葉に短いビロード状の毛があり,花穂にも白い毛がある。
執筆者:小山 鐵夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報