カム(英語表記)cam

翻訳|cam

精選版 日本国語大辞典 「カム」の意味・読み・例文・類語

カム

〘名〙 (cam) 工作機械などで接触する従動節に特殊な周期運動を伝える回転部。板カム、みぞカムなどがある。また、原節と従節との相対運動が平面上で行なう平面カムと、三次元の空間運動になる立体カムとに分けることもできる。

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デジタル大辞泉 「カム」の意味・読み・例文・類語

カム(cam)

特殊な輪郭曲線または溝をもち、原動車として回転して、従動軸に所要の複雑な周期的運動を与えるもの。板カム・円筒カム・球面カムなど。

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改訂新版 世界大百科事典 「カム」の意味・わかりやすい解説

カム
cam

回転運動をしている原動軸と接する部分に複雑な運動を行わせたい場合に用いられる機械要素。実現したい運動に対応した輪郭をもった剛体を原動軸に取りつけ,この剛体の輪郭に押しつけられている部分(従動体と呼ぶ)に所望の運動を起こさせるもので,この輪郭をもった剛体のことをカムと呼ぶ。身近な利用例としては自動車のエンジンなどガソリンエンジンの吸排気の弁の開閉を行う機構で,クランク軸の回転運動をカムに伝えてこれを回転させ,カムに接する従動体によってタイミングよく吸排気の弁の開閉を行っている。

 カムの起源は定かではないが,その語源は古代チュートン語の歯のついた道具を意味するkambrという言葉と関係があるらしい。水車などの軸に突起物を埋め込み,これによってつちをはね上げて粉ひきなどに使ったが,これが上に述べた〈歯のついた道具〉であり,カムの原始的な形態と考えることができる。ちなみにカムと櫛 combの語源が同じだという説もある。

カムには多くの種類があるが,図にその基本的なものを示す。aは平板カムと呼ばれ,輪郭を与えられた平板がそれと垂直に取りつけられた軸のまわりに回転し,従動体が往復直線運動を行う。カムの中でもっとも広く使われるものである。bは円筒カムと呼ばれるもので,円筒体の表面に切った溝の中に従動体の突起が入っており,カムが回転すると従動体は左右の往復直線運動を行う。魚釣りのリールの糸巻部などによく利用されているのがこれである。円筒カムによく似ているものに,カムを円錐形として,カムの軸に対し傾斜した従動体に運動を伝えることができるようにした円錐カムがある。cは球形カムで,球の表面に溝を切ってあり,これが軸のまわりに回転すると,従動体はその軸と直角方向を軸としてある角度内で往復の回転運動をする。dは斜板カムと呼ばれ,平らな円板が軸に対してある角度をもって取りつけられているもので,これを回転すると従動体は上下に運動する。eは直動カムと呼ばれ,直線往復運動を,それと直交する方向の直線往復運動に変換するものである。カムの原理を説明するためのモデルとして教科書などによく示され,また実用的には,自動機械で応用されることも多い。fは今までのカムとは逆に,カムが従動体となるもので,逆カム装置インバースカムあるいは反対カムと呼ばれる。Dが回転するとこれに固定されたピンがカムの溝に沿って動き,カムは上下に運動する。

 このように,カムを利用することによって,他の機構では実現困難な運動も比較的容易に実現できるので,カムは種々の機械に用いられており,ジグザグミシンの模様を生み出すカムなどはかなり複雑な動きを容易に実現している好例である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カム」の意味・わかりやすい解説

カム
かむ
cam

特殊の輪郭をもっている原動節と、ナイフエッジ・ローラーのような簡単な形状の接触子をもつ従動節との接触によって、従動節に所要の周期的変位を与える装置。簡単な構造で複雑な運動を導くことができるので利用範囲は広く、各種加工機械や作業機械などに使用されている。また自動機械の複雑な運動を得るためにも多数のカムが必要である。

 カムはその輪郭または溝が平面曲線でできている平面カムと、空間曲線でできている立体カムとに大別できる。

〔1〕平面カム もっとも普通に用いられている板カムは、従動節を押し上げるだけで、引き下げるのには重力によるか、あるいはばねの力を使う。内燃機関の吸排気弁を動かすのにこの種のカムが使用されている。輪郭がハート形をしているものをハートカムという。これは等速回転運動を等速往復直線運動に変えるものである。またハートカムは、その中心に向かって従動節を押し付けると、従動節はつねにハート形のくぼんだ位置にくるので、従動節を押し付けたときのハートカムの位置は一定である。これを利用して、ストップウォッチのように針をゼロの位置に戻すのに利用されている。平面カムで溝をつけ従動節を溝に沿って動くようにした溝カムは、従動節を確実に押し上げ、また引き下げることができる。このようなカムを確動カムという。

 平面カムの種類は多いが、例としていくつかあげると次のようなものがある。(1)砕石機、米搗(こめつ)き機などの杵(きね)を上下させるために突起をいくつかもったカム。(2)三角形状で、1回転すると枠についている棒は1回の上下運動をし、それぞれその終端で静止させるカム。すなわちカムが連続的に回転すると上下の極で静止する間欠往復運動が得られる。(3)特殊の形状をもつ山形のカムは、左右に往復運動をすると、この上にのっている従動節は特殊な上下運動をする。これは直動カムという。

〔2〕立体カム 実体カムともいう。もっとも簡単なのは斜板カムである。斜めの板の端に従動節がのっているもので、斜板が中心軸の周りに等速回転運動をすると従動節は上下の正弦運動をする。円筒の表面に溝をつけたものを円筒カムという。円筒が回転すると母線に沿って従動節は直線運動をする。また円錐(えんすい)の表面に溝をつけたものを円錐カムといい、やはり母線に沿って従動節に往復運動を与える。水平軸を取り付けた球の表面に溝をつけたものを球面カムという。水平軸の周りに球を回転させると、軸線が球の中心を通過する垂直軸に取り付けた弓状片の突起が球の溝に沿って左右に振れ動き、垂直軸は特殊な振動をする。

[中山秀太郎]


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百科事典マイペディア 「カム」の意味・わかりやすい解説

カム

吸排気弁の開閉など,原動軸に接する部分に複雑な運動をさせる場合に利用される機械要素。特別な形状の剛体(これをカムという)を原動軸に取り付け,これに押しつけられている従動体に所要の周期的運動を与える。普通はカムを原節とし接触する従節に往復または揺動運動を行わせるが,カムの縁,溝などの形を適当に作れば,従動体に所望の運動をさせることができる。両節の接触が平面運動か,三次元の空間運動かにより,平面カム(板カムその他),立体カム(円筒カム,円錐カムなど)に大別。利用例としては,自動車のガソリンエンジンの吸排気弁の開閉を行う機構に用いられるほか,工作機械,ミシンなどの特殊運動部分にも広く利用されている。
→関連項目間欠伝動機構

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