カミキリムシ(読み)かみきりむし(英語表記)longicorn beetle

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カミキリムシ」の意味・わかりやすい解説

カミキリムシ
かみきりむし / 天牛
髪切虫
longicorn beetle
long-horned beetle

昆虫綱甲虫目カミキリムシ科Cerambycidaeに属する昆虫の総称。俗にケキリムシ(毛切虫)ともいう。世界中に広く分布しており、3万種以上の種が知られている。日本でも現在700に近い種が産することがわかっている。

 体長は小さいものは3ミリメートルぐらいのものがあるが、大形の種は南アメリカのオバケオオウスバカミキリTitanus giganteusのように20センチメートルにも達するといわれるものがある。日本産ではシロスジカミキリヒゲナガカミキリが大きいが、朝鮮半島東シベリアに分布する10センチメートルに達するウスリーオオカミキリCallipogon relictusが宮崎市付近で数匹採集されたことがある。体形は一般に長く、細長い種も多く、触角は頭の隆起上につき、長くて後方へ曲げられ、しばしば体長よりはるかに長い。大あごは頑丈で鋭く、名のように毛髪や糸、細枝などを切断できる。脛節(けいせつ)先端には2本の棘(とげ)があり、跗節(ふせつ)は5節で第3節が葉片状に広がり、その上に小さくて結節状の第4節がつく。

 カミキリムシを捕まえると、前胸を動かして発音するが、これは、前胸背板の後縁と中胸背板にある細かい横線からなるやすり面をこすり合わせるためで、ノコギリカミキリ類では上ばねの側縁と後脚(こうきゃく)の腿節(たいせつ)をこすり合わせて発音する。成虫は枯れ木、倒木、伐採木や薪(まき)に多く、生木の幹や枝、葉にもおり、ハナカミキリなどのように花に集まるものも少なくない。また、一部に草地にすむものもある。幼虫は、卵を産み付けられた枯れ木や伐採木あるいは生木の幹や枝の皮下や材部に孔(あな)をあけて食害するものが大部分で、乳白色で前胸部が大きくやや幅広く、俗にテッポウムシ(鉄砲虫)とよばれる。これらは脚(あし)が退化し、腹部の上下にある平たいタコの吸盤状の瘤起(りゅうき)を使って運動し、孔をあけた木くずは孔から外へ出すことが多い。テッポウムシは日本では古くから癇(かん)の薬として用いられたが、熱帯域では原住民の食料の一つになっている。ほかに草本類につく種類では茎や根の内部を食害するアサカミキリラミーカミキリなどがあり、竹材を害するものにはベニカミキリハイイロヤハズカミキリなども知られ、農林業や園芸上の害虫が多い。最近もマツの枯死に関連してマツノマダラカミキリマツノザイセンチュウを媒介することが明らかになり、その駆除が行われている。

 カミキリムシ科の分類は、研究者により多少異なり数科に分けられることがあるが、普通次のように分ける。

(1)ノコギリカミキリ亜科 褐色から黒色、前胸の両側は稜(りょう)状になっている。ノコギリカミキリ、ウスバカミキリ、ベーツヒラタカミキリなどが含まれる。

(2)ニセクワガタカミキリ亜科 平たくて両側平行し、大あごは前方へ突出し、触角は短く数珠(じゅず)状。

(3)ケラモドキカミキリ亜科 南アメリカ産でカミキリらしくなく、触角はきわめて短い。一部は木のない地帯にすみ、雌は地面に穴を掘ってすむという。

(4)コウセンカミキリ亜科 東南アジアに少数の種が産し、もっとも原始的な類とされる。

(5)ホソカミキリ亜科 細長い種を含み、日本産はホソカミキリ、オオクボカミキリの2種。

(6)ハナカミキリ亜科 頭は首が普通細く、前胸は側縁がなく、多くは鐘形、大部分は花に集まる。アカハナカミキリヨツスジハナカミキリなどかなりの種がある。

(7)マルクビカミキリ亜科 頭は首がくびれ、前胸は丸みがある。クロカミキリサビカミキリなど黒ないし褐色の種が多い。

(8)カミキリ亜科 頭は普通斜めに前方に傾き、中胸背のやすり面は二分されない。ルリボシカミキリ、アオカミキリ、トラフカミキリなどきれいな種類や形の変わったモモブトコバネカミキリの類などが含まれる。

(9)フトカミキリ亜科 頭の前部は垂直かそれ以上傾き、口は下向きにつく。科のなかで最大の群で約半数のカミキリはここに属する。シロスジカミキリ、キボシカミキリなど生木を害するもの、草本につくキクスイカミキリ、ラミーカミキリなどのほか多くが枯木につく。

[中根猛彦]


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改訂新版 世界大百科事典 「カミキリムシ」の意味・わかりやすい解説

カミキリムシ

甲虫目カミキリムシ科Cerambycidaeに属する昆虫の総称。つかまえるとキイキイ鳴くこと,葉や紙を大あごでかみ切ることで知られる。漢字では天牛と書くが,髪切虫や紙切虫の字を用いることがある。英名はlongicorn beetle,longicornia,long-horned beetle。世界から約3万種,日本から約750種が記録されているが,研究者や同好者が多く,今日でも新種が次々と発見されている。

 成虫の長い触角に科の特徴があるが,トラカミキリ類など短いものもいる。ヒゲナガカミキリの雄の触角は13cmにも達し,日本産の種ではもっとも長い。体長は2mm以下のものから15cmを超えるものまで見られ,日本産の種ではシロスジカミキリが52mmに達し最大。シロスジカミキリの幼虫はクヌギ類の幹に穿孔(せんこう)する。カミキリムシ科の幼虫はテッポウムシ(鉄砲虫)とも呼ばれ樹木や木材の大害虫として知られる。幼虫はいずれもよく似ており白色で円筒形。頑強な大あごを有し,生木や枯木の樹皮下や材部にトンネルをあけて食べ進む。胸脚を欠くものが少なくない。イチジクにつくキボシカミキリ,ミカン類につくゴマダラカミキリ,タケ類につくベニカミキリ,スギ類につくスギカミキリやヒメスギカミキリ,キク類の茎に潜るキクスイカミキリなど著名な害虫が多い。琉球諸島ではイエカミキリの幼虫が家屋に被害を与えている。マツ類の害虫,マツノマダラカミキリの成虫はマツを枯らすマツノザイセンチュウを運ぶことで注目されるようになった。また輸入材の増大に伴って外国産の種がしばしば発見されるようになった。

 成虫の活動はノコギリカミキリ類,ホソカミキリ類,クロカミキリ類,マルクビカミキリ類(いずれも原始的な亜科)では薄暮や夜間に見られ,色彩も黒や褐色で目だたないものが多い。これらの種類は夜間,樹液や灯火に飛来する。一方,ハナカミキリ類,フトカミキリ類,カミキリ類(亜科)には昼活動するものが多く,美しい色彩が見られる。ヨツスジハナカミキリなどハナカミキリ類は花に飛来し,花粉やみつを食する。カミキリムシ科は一般によく飛翔(ひしよう)するが,コブヤハズカミキリ類のように後翅が退化して飛べないものもいる。カミキリムシ科には擬態や保護色で天敵の目を逃れていると思われるものが少なくない。トラカミキリ類は色彩や形がスズメバチ類に類似する。またタテジマカミキリは食樹のカクレミノの枝で静止しているときは2本の長い触角をぴったりと合わせて前方へのばし,枝に密着させている。

 産卵に樹種を選ぶ種と選ばない種がある。産卵法は木の割れ目に産卵する種と大あごで木に傷をつけて産卵する種がある。傷のつけ方も種によって異なる。卵期間は通常7~10日。幼虫の脱皮回数は明らかでないものが多い。同一種でも環境によって脱皮回数が増えることがあるようである。幼虫期間は短い種で3ヵ月。多くの種は6~9ヵ月。長い種では2~4年後に成虫となる。秋,成虫となったものは木の中で越冬し,翌春,出現する場合が多い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カミキリムシ」の意味・わかりやすい解説

カミキリムシ
Cerambycidae; long-horned beetle; longicorn

鞘翅目カミキリムシ科の昆虫の総称。小~大型で体は細長く,やや扁平または円筒状。普通発達した口器をもち,大腮は強力である。複眼は大きい。触角は単純または鋸歯状で,毛束や毛のある種もあり,長さは体長以下のものから体長の2倍以上のものまでさまざまで,普通 11節から成る。前胸は中胸より狭いかまたは同幅でとげや瘤をもつものもある。中胸背板にやすり状の発音板があり,前胸背後縁下面とこすり合せて「きいきい」と発音する。上翅は普通腹部をおおうが,短いものもある。肢は細長く,跗節は5節で,強力な爪をもつ。幼虫は普通鉄砲虫と呼ばれ,樹木の材部に穿孔して食害するものが多く,重要害虫になる。成虫は夜行性または昼行性で,各種の植物,特に枯れ木や生木,低木や花などに多い。多くは活発ではないが,昼間花に集る種はきわめて活発で,そのなかにはハチに擬態をするものもある。世界に約2万 5000種,日本に 600種以上が知られる。

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百科事典マイペディア 「カミキリムシ」の意味・わかりやすい解説

カミキリムシ

カミキリムシ科とその近縁の科の甲虫の総称。体長5mm弱の微小種から南米アマゾンにいる150mm余の巨大種まで多くの種類がある。日本には約650種。強大な大顎と長い触角,胸部にある発音器でキーキー発音する点が特徴だが,例外的な種類もある。幼虫が樹木の幹や枝に食い入るため,生木に入るものの一部には害虫と目されるものがあるが,多くは枯死木,枯枝などの分解者としの役割が大きい。日本では俗に幼虫をテッポウムシといい,食用に供する地方がある。ふつう成虫は年1回出現し,種類によって出現期が決まっている。多くの種では1〜数年の幼生期をへて成虫となる。
→関連項目テッポウムシ

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