カブ(読み)かぶ(英語表記)turnip

翻訳|turnip

精選版 日本国語大辞典 「カブ」の意味・読み・例文・類語

カブ

〘名〙
① めくりカルタで、九の数の札、または合わせた数字のひとけたの数が九になるものをいう。→カウ
浮世草子・懐硯(1687)一「後生大事にひねりければ九品の浄土かふとて」
② めくりカルタのうち、一一、一二の札を除いた四〇枚を用いて行なう賭博(とばく)。一人に一枚ずつ配り、残りの札を親から順に一回あるいは二回引き、手持ちの札との和のひとけたの数が九に近いものを勝ちとする。九、一九、二九などの数が出ればいちばん強いことになる。〔随筆・独寝(1724頃)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「カブ」の意味・わかりやすい解説

カブ (蕪/蕪菁)
turnip
Brassica campestris L.

カブラともいう。アブラナ科のアブラナ,ハクサイキョウナなどと植物学的には同一種とされる二年草。根部をおもに利用する野菜で,煮食もするが,漬物としてよく利用される。日本では古来から〈すずな〉といわれ,春の七草の一つに数えられている。原産は地中海沿岸,南ヨーロッパ地帯およびアジアのアフガニスタン地方といわれている。ヨーロッパでの栽培起源は紀元前からといわれ,中国へは古く西方より渡来し,2000年以前から栽培されている。日本へは1300年ほど前に大陸から渡来し,今では全国に栽培が広がり,多くの地方品種が生まれた。

秋まきでは,ロゼット葉を形成し,草姿には直立性,半直立性,開張性などがある。東洋系は一般に直立または半直立性で,西欧系は開張性である。葉は細長く,切れ込みのないさじ形またはへら形のものと,切れ込みの深いものとがある。東洋系は葉面に毛がなく,ヨーロッパ系のものでは毛がある。葉柄や葉脈,葉身が赤紫色または紅色に着色するものもある。根形には倒円錐形,円筒形,球形,扁球形などがある。あまり改良の進んでいないものは根部が肥大せず,支根も太い。また,表面はあらく横じわも多く,肉質は堅い。改良されたものではよく肥大し,表皮も滑らかで多汁質で柔らかい。外皮の色は白色,黄色,紅色,赤紫色などがある。また,ヨーロッパ系のものには黒色や灰色のものもある。低温にあって花芽が分化し,春にとう立ちして黄色い十字花を咲かせる。

日本で栽培されているカブの品種数は多く,いくつかの系統に分かれる。葉の切れ込みの有無や程度および毛の有無や種子の表皮型などの形質に着目して,在来種群(東洋系,アフガニスタン系var.glabra),西欧系品種群var.rapa,中間系品種群などに分けられる。関西地方や全国的に分布しているカブは,在来種群に属し,東北地方を中心として東日本一帯に分布するカブは西欧系品種群に属する。また,中間的な形質をもった小カブや長カブは,在来種群と西欧系品種群の栽培地帯の境界(関東付近)から発達してできたとみられている。また普通に栽培されているカブは,根の形から大カブ,中カブ,小カブなどに分けられるが,一般的にみると,関東では小カブが,関西では中,大カブが多く利用される。東北地方には長カブが多い。地方品種にはヒノナ(日野菜)やスグキナ(酸茎菜),ノザワナ(野沢菜)などの根部の発達が少ないいわゆるカブナがある。カブの栽培は一般に,晩夏から秋に種子をまき,晩秋から初冬に収穫するが,小カブは周年栽培される。日本での主産地は関東地方で,とくに千葉県に多い。地方品種は京都付近や東北地方でおもに栽培されている。

 保存食として主に漬物としての利用が多い。葉にビタミンを多く含み,根とともに広く利用される。また,大カブなどは家畜の飼料にも用いられる。ハクサイ,ツケナ,アブラナなどのn=10群はゲノムも同じ(同一種)なのでよく交雑する。
執筆者:

古くカブは蔓菁とも書かれた。《和名抄》には,〈園菜類〉の部に蔓菁と蔓菁根が見え,和名は前者が〈阿乎奈(あおな)〉,後者が〈加布良(かぶら)〉となっている。阿乎奈は青菜で,カブの地上部の葉や茎をさし,茎立(くくたち)とも呼ばれた。葉菜として多用されたが,これが厳密にカブだけをさしていたとは断定しがたい。江戸時代になると,青菜はそうした葉菜の総称となり,カブの地上部はカブの菜の意で,〈かぶらな〉〈かぶな〉と呼ばれるようになる。《本朝食鑑》(1697)は,春になって大きくのびた茎を茎立,種から発芽したばかりの二葉のものを貝割(かいわり)菜,10cm近くになったのを鶯(うぐいす)菜というとしている。日本での栽培がいつごろ始まったかは不明だが,693年(持統7)3月には栽培を奨励する持統天皇の詔が出されており,より古く《古事記》の歌謡にも栽培されていた様子が歌われている。地上部,根部ともに各種の漬物にされていたことは《延喜式》によって明らかであるが,ゆでて食べるなども行われたと思われる。室町時代すでに京都の東山カブは有名であった。これが4kgもの大きさになる聖護院(しようごいん)カブで,のちに薄く切って千枚漬の材料とされるようになる。これと並んで近江カブ,大坂四天王寺付近で産した天王寺カブも大型,かつ,その美味をうたわれた。カブは種類を問わず種々の漬物にされることが多い。著名なものには,千枚漬のほか京都上賀茂の酸茎(すぐき),長野県の野沢菜漬,あるいは岐阜県,愛媛県その他の赤カブの漬物がある。家庭でつくる小カブのぬかみそ漬や酢漬の味もすてがたい。煮びたしなどにするのもよいが,ゆでたての熱いものをユズみそなどで食べる〈ふろふき〉,すりおろして白身の魚などと蒸す〈かぶら蒸し〉などはまさに日本の美饌(びせん)といえよう。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カブ」の意味・わかりやすい解説

カブ
かぶ / 蕪菁
turnip
[学] Brassica rapa L.

アブラナ科(APG分類:アブラナ科)の越年草。カブラともいい、またスズナともよばれ、春の七草の一つ。ヨーロッパあるいはシベリア温帯にわたる地域が原産地とされる。中国へは約2000年前に伝播(でんぱ)し、『斉民要術(せいみんようじゅつ)』(530ころ)には栽培や利用に関する詳細な記述がある。『三国志』で有名な蜀(しょく)の軍師諸葛孔明(しょかつこうめい)が行軍の先々でカブをつくらせ、兵糧の助けとしたので、カブのことを諸葛菜(しょかつさい)とよぶというエピソードがある。日本へは中国を経て、ダイコンよりも古く渡来した。『日本書紀』には、持統天皇(じとうてんのう)の7年3月に、天下に詔して、桑、紵(からむし)、梨、栗、蕪菁(あをな)などを植え、五穀の助けとするよう勧めるとの記載がある。平安時代の『新撰字鏡(しんせんじきょう)』や『本草和名(ほんぞうわみょう)』には阿乎奈(あをな)とあり、『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』では蔓菁、和名阿乎菜、蔓菁根(かぶら)、加布良(かぶら)とある。『延喜式(えんぎしき)』には、根も葉も漬物にして供奉されたとの記載があり、種子は薬用にもされていたほか、栽培法の概要も記されており、平安中期にはかなり重要な野菜であったことがわかる。平安末期の『類聚名義抄(るいじゅうみょうぎしょう)』では、蔓菁根、蕪菁、蕪菁子(なたね)と使い分けの生じたことが知られる。江戸時代には『本朝食鑑』『和漢三才図会』『成形図説』『百姓伝記』『農業全書』『菜譜』などに品種名を伴った記載があり、当時すでに品種が分化していたことがわかる。

 夏に播種(はしゅ)すると秋に発芽し、根出葉を茂らせ、根を肥大させる。越冬した翌春にとう立ちして高さ1.5メートルになり、黄色の十字花をつける。根は球形や大根形、勾玉(まがたま)形などに肥大し、その大きさ、形、色彩は品種によりさまざまである。現在都市の市場に出る品種は主として白色の丸カブであるが、地方在来品種のなかには鮮紅色のものや長カブもあり、主として漬物用としてふるさとの味になっている。外国の品種には紫や黄色のものもある。日本在来品種群(アジア系)と西ヨーロッパ系品種群に大別され、ほかに近年の改良育成品種群がある。大まかにみて、在来品種群は西日本、西ヨーロッパ系品種群は東日本に、中部地方を境界にして分布しており、カブの伝播、品種分化を考えるうえで興味ある事実といえる。ただし、例外的な分布をする品種もいくつかある。現在、80ほどの品種があり、千葉、埼玉両県が主産地で、あとは全国で広く栽培されている。

 カブの旬(しゅん)は秋から冬であるが、時無(ときなし)カブの系統は周年栽培されて市場に出回る。ダイコンと異なり、耕土がそれほど深くない土地でも栽培できる。間引きと苗のときの害虫防除が重要な作業である。日本在来のカブのなかには、山形県庄内地方の温海(あつみ)カブのように焼畑栽培でつくられるものがあり、文化史的にも興味深い。

[星川清親 2020年11月13日]

食品

おもに漬物として利用される。各地に郷土名産のカブ漬けがあるが、なかでも天保(てんぽう)年間(1830~1844)に始められた京都の聖護院(しょうごいん)カブの千枚漬けや、同じく京都の酸茎菜の漬物、滋賀県の日野菜の桜漬け、長野県の野沢菜の漬物などはとくに有名である。一般に煮物、汁の実、塩漬け、ぬかみそ漬け、酢漬けなどにする。時無系の小カブは盛夏を除いてほぼ一年中市場に出るが、中形から大形のカブは秋から冬にかけて出回る。根部は100グラム中にビタミンCを17ミリグラム含む。葉はビタミンA、Cをそれぞれ1000IU、75ミリグラム含むので、捨てずに有色野菜としていっしょに利用するとよい。かつては米飯の増量材料に、また凶作時のいわゆる「かてもの」として重要であった。家畜飼料用の品種もある。

[星川清親 2020年11月13日]


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食の医学館 「カブ」の解説

カブ

《栄養と働き》


 春の七草の「スズナ」とはカブのこと。わが国では古くからなじみ深い野菜で、『古事記』『日本書紀』にも記されています。
 旬(しゅん)は晩秋から初冬にかけてで、原産地は地中海沿岸、南ヨーロッパ地帯、アフガニスタン地方といわれています。
 わが国に伝わったカブは、ヨーロッパ型(小カブ)とアジア型(大カブ)の2種で、関ヶ原付近を境に分布が東西にわかれているといいます。朝鮮半島から渡来したヨーロッパ型は東日本に分布し、中国経由で渡来したアジア型は、西日本に定着しました。以降、さまざまな品種改良が行われ、現在は多くの品種が存在します。
○栄養成分としての働き
 白い根の部分は淡色野菜、葉の部分は緑黄色野菜に分類されます。
 根には、でんぷんの消化を助けるアミラーゼなどの酵素(こうそ)が多く含まれているので、胃炎(いえん)や胸やけなどに効きます。
 カブの煮ものは胃を刺激しない食べものとして、胃潰瘍(いかいよう)のときに食べられることが多いようです。
〈根よりも葉に豊富な栄養素が〉
 栄養的には根よりも葉のほうがすぐれていて、カロテン、ビタミンB2、C、カルシウム、鉄、食物繊維などの栄養素が豊富に含まれています。100gあたりのカルシウムはホウレンソウの5倍、カロテンは2800μgと、ブロッコリーの3倍以上含んでいます。
 これらの栄養素が骨粗鬆症(こつそしょうしょう)予防やウイルスに対する免疫力強化に役立ちます。
〈グルコシアネートががん予防に働く〉
 また、根・葉ともに、がんの抑制に働くグルコシアネートという配糖体(はいとうたい)を多量に含んでいます。
 100g中に約100mg含んでいるという説もあり、この成分を含む他の野菜(キャベツやカリフラワーなどのアブラナ科)にくらべてもっとも多い含有量となります。さらに、貧血を予防する葉酸(ようさん)も含んでいるので、貧血ぎみの人に適した食材といえます。
○漢方的な働き
 前日のお酒が体内に残っているときは、葉の部分と少量の米とで煮て、ふきんでこしたものを冷やして飲むと、だるさを緩和できます。

《調理のポイント》


 根は煮もの、蒸しもの、漬けもの、汁の具などに使います。アクが少ないので、生のままでも料理できます。
 葉は炒(いた)めものや和えもの、汁の具、菜飯などに使われます。さっとゆでてからみじん切りしてジャコやゴマと合わせてしょうゆで炒ると、常備菜として利用できます。

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百科事典マイペディア 「カブ」の意味・わかりやすい解説

カブ

カブラとも。根を食用とするアブラナ科の野菜。ヨーロッパの温帯地方原産。柔らかく,剛毛を有する長楕円形の根出葉を群生し,根は肥大する。多くは白色扁球形であるが,球,円筒,円錐,ナシ形,色も黄,紫,紅,灰白,黒など変化が多い。日本でも古くから栽培され,品種が多い。冷涼な気候を好み,耐寒性が強く,土質との適応性も広いので,近畿中部の重粘質壌土の低湿地などでは重要野菜となっている。主産地は千葉,埼玉など。根部を塩漬,かす漬,煮物などとする。また葉部も食べられる。

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栄養・生化学辞典 「カブ」の解説

カブ

 [Brassica rapa],[B. campestris(rapifera group)].フウチョウソウ目アブラナ科アブラナ属の越年草の根茎で食用にする.

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デジタル大辞泉プラス 「カブ」の解説

カブ

ホンダ(本田技研工業)が製造・販売したオートバイのシリーズ、スーパーカブの通称。

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