カビルド(英語表記)cabildo

デジタル大辞泉 「カビルド」の意味・読み・例文・類語

カビルド(Cabildo)

アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにある建物。市街中心部、モンセラート地区に位置する。スペイン植民地時代の行政府として建てられ、独立後は市議会として使用された。現在は博物館になっており、植民地時代の絵画調度品などが展示されている。
米国ルイジアナ州南東部の都市ニューオーリンズフレンチクオーターにある建物。18世紀末にスペイン植民地時代に行政府として建造され、火災焼失ののち再建。1803年にルイジアナ購入の調印式が行われた。現在はルイジアナ州立博物館になっている。

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改訂新版 世界大百科事典 「カビルド」の意味・わかりやすい解説

カビルド
cabildo

アユンタミエントayuntamientoとも呼ばれ,市参事会と訳される。もともと中世スペインにおいて,地方の都市住民の伝統と特権を代表した機関であったが,新大陸では征服が完了すると創設され,主として都市行政を任務とした。しかし,都市間の地理的隔りや交通通信手段の未発達のため,カビルドは経済活動の調整機関としての機能も果たした。その規模は都市の重要性や性格によって異なる。カビルドを構成する主要な官吏は,司法を担当するアルカルデ・オルディナリオと行政を担当するレヒドールで,これ以外に警吏長,度量衡検査官,公共財産監視官,科料徴収官などの専門的官吏がいた。アルカルデ・オルディナリオはレヒドールによる秘密選挙で選ばれ,再選原則として禁止された。レヒドールは副王によって任命されるか,住民の選挙により選任され,大半エンコメンデロエンコミエンダ)であった。一般に大都市ではアルカルデ・オルディナリオは1名,レヒドールは12名が定員とされたが,リマのカビルドは18名,メキシコ市のカビルドは15名のレヒドールを擁した時代もあった。

 カビルドは法人として都市の司法行政と経済活動の安定化に重要な役割を負った。農牧畜業を統制したり,物価の安定を図り,無益な競争を避けるため,組合組織や手工芸品の生産を監視したりした。コレヒドールの越権行為から都市を守ったり,山林草木や水源に対する共有権を確保するために,都市の管轄範囲を定め,新しい住民には土地を譲与したりした。しかし植民地が安定するにつれて,カビルドは本来有していた権力を次第に国王に制約され,閉鎖的な組織となった。官職も売買されたり世襲化されたりして,植民地時代末期には進んでカビルドに奉職しようという有力な市民はいなくなった。時々事態の重要性にかんがみ〈カビルド・アビエルト(公開市参事会)〉が開かれることがあり,これには住民全員が参加した。とくに征服時代によく開かれ,民主的な性格をもつものではあったが,植民地の行政が安定した時代(16世紀後半~18世紀)にはあまり開催されなかった。18世紀末から19世紀の初頭,カビルド・アビエルトは独立運動を支え,かつ統治者に対する民意を表すためにしばしば開催された。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カビルド」の意味・わかりやすい解説

カビルド
cabildo

アメリカ大陸のスペイン植民地における市参事会 (市町村議会) 。この市参事会は2~3人から 12~13人の委員を中心に構成され,市参事官や保安官が参列することもあった。委員は最初町の創設者によって任命される場合が多かったが,1523年の国王カルロス1世 (神聖ローマ皇帝カルル5世 ) の勅令で土地所有者のなかから選出されることが規定された。しかし選挙による民主的形態も半世紀ののち植民地行政の強化の必要性と財政難,または自治体の腐敗によってくずれ,委員を含む多くの役職が任命または競売によって決るようになり,ときにはみずからの決議で世襲されることになった。これらの地位はクリオーリョ中の有力者が占め,特定の門閥が植民地社会の上層を形成することになった。カビルドとその任命する役人の権限は,73年の法令により細かく規定された。カビルドはその州の長官が議長となることもあり,決議にはその承認が必要であった。またときおり町の有力者を参加させて公開会議をもった。この場合拘束力はもたなかったが,この形態は独立の際によみがえり,多くのフンタの母体となった。

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世界大百科事典(旧版)内のカビルドの言及

【副王制】より

… 副王領の行政区画は直轄領のほかに総監領と長官領があり,だいたいこの区画ごとにアウディエンシアが置かれた。その下位に総督領(ゴベルナシオン)とか地方(プロビンシア)が位置し,さらにそれはコレヒミエントcorregimientoやアルカルディア・マヨールalcaldia mayorに細分され,最下部にカビルドもしくはアユンタミエントと称される市参事会統轄の町があった。もっとも18世紀後半,ブルボン朝支配下,とくに財政の効率化を目的としてインテンデンシア制intendenciaが導入された結果,コレヒミエントやアルカルディア・マヨールは廃止された。…

【ラテン・アメリカ】より

…その際,アウディエンシアの長官は統治者として行動したが,一般に軍事的権威は副王に留保されていた。一方,地方行政は普通コレヒドールと呼ばれる王室官吏に任され,彼らはそれぞれの領域内で最高の司法および行政権を行使し,カビルドでは国王の利害を代表した。コレヒドールにはスペイン人の町を統轄するものと王室への貢納義務を負う先住民インディオの村や町を治めるものの2種類があり,後者はコレヒドール・デ・ロス・インディオスと呼ばれ,任期は3年で,白人による不正行為からインディオを保護することを主要な任務とした。…

※「カビルド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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