カニムシ(読み)かにむし(英語表記)book-scorpion

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カニムシ」の意味・わかりやすい解説

カニムシ
かにむし / 蟹虫
book-scorpion
book crab

節足動物門クモ形綱擬蠍(ぎけつ)目Pseudoscorpionesの陸生小動物の総称。この動物群は、外見が尾(後腹部)のないサソリ(蠍)に似ているので擬蠍目(類)といい、カニにも似ているのでカニムシ目(類)ともいう。また、後退するようすが変わっているので、アトシザリアトビサリともよばれる。体は非常に小さく、7~8ミリメートルを超えるものはほとんどない。頭胸部は1枚の背板で覆われるが、腹部は11節からなる。鋏角(きょうかく)は短いはさみ状で、触手は長大で、カニのはさみを思わせ、指先に捕食者を倒すほどの毒腺(どくせん)をもつ種類が多い。

[森川国康]

生態

一般に体はじみな黄褐色で、潜伏的な生活をしているため、あまり人目につかないが、森林土壌落葉や倒木の間、樹皮下、山野の石下などに普通にすむ。また、家屋内でもよくみられ、物置植木鉢、本の間や、乾麺(かんめん)類、穀類中に発見されるものもある。屋内ではコクチャタテ、シミなどの小昆虫を食べ、ナンキンムシを食べたという記録もある。そのほか、鳥やネズミの巣、ツチバチの巣の中にすむもの、海岸の潮間帯にすむものがあり、また洞穴の中などでは目のない特殊な種も発見されている。なお、甲虫やハエ、ネズミなどの体に触手や脚(あし)でしがみついているのが観察されるが、これは移動のために便乗しているものである。多くは卵をはらんだ雌で種族分散に役だつと考えられている。行動は前進・後退のほか、側方にもすばやく動く。交尾のための陰茎はなく、受精精包の受け渡しによってなされる。この行動はサソリと同じで、結婚ダンス(求愛ダンス)のいわゆるディスプレーのあと、雄は精包を地面に出し、雌の生殖口に受け入れさせる。産卵は、卵嚢(らんのう)を形成してその中にまとめて産む。卵嚢から出た第1期若虫は、3回の脱皮ののちに成虫になる。寿命は普通1~3年である。

[森川国康]

日本産の主要種

カニムシ類は、世界に3亜目14科に属する千数百種が記録されており、日本には9科に属する約60種が分布する。そのおもな種は、ツチカニムシ亜目のメクラカニムシMundochthonius japonicus、コケカニムシ亜目のカギカニムシMicrocreagris japonicusなどは森林の土壌にすみ、海岸にはイソカニムシGarypus japonicusなどが生息する。キカニムシ亜目は、乾燥に適応した、より高等な群で、トゲヤドリカニムシHaprochernes boncicusなどは樹皮下によくみられ、オオヤドリカニムシMegachernes rhyugadensisはネズミの巣などに発見され、イエカニムシChelifer cancroidesなどが人家にみられる。

[森川国康]

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改訂新版 世界大百科事典 「カニムシ」の意味・わかりやすい解説

カニムシ (蟹虫)
book-scorpion

蛛形(ちゆけい)綱カニムシ目Pseudoscorpionesに属する節足動物の総称。刺激を与えるとすばやく後退するのでアトシザリ,アトビサリとも呼ばれる。体長1~6mm。体は頭胸部と腹部に分かれ腹部には体節構造を有する。体色は白色,淡褐色,褐色,灰色,黒色などさまざまであるが,白色と淡褐色の種類がもっとも多い。頭胸部には鋏顎(きようがく)と2対の触肢,4対の歩脚があり,触肢先端には強大なはさみ(触手)をもち,毒腺をそなえる仲間も見られる。歩脚は6節または7節。無眼のものもあるが,ふつう4眼または2眼で頭胸部前方側面に位置する。南極,北極,高山を除いた世界中の陸地に分布。現在約3000種が知られ,日本にはツチカニムシ,コケカニムシなど約70種がいる。落葉,土壌,倒木の下,樹皮下,海岸の岩場,洞窟内などに生息し,ときには屋内の書物の間や穀物の中,ネズミ,鳥,ハチの巣の中からも発見される。トビムシ,コムカデ,アリ,ダニ,クモなどの小型種を触肢のはさみでつかみ捕食する。生殖行動は雄が精包(精子の入った袋)を地面に置いて,そこを通りかかる雌がそれを受けとる種類や,雄が雌の触肢をつかんで前後しながら(求愛ダンス),雌を精包のところまでつれてくる種類などが見られる。産卵の際は鋏顎の先端より出した絹糸や土壌片,枯葉片などで巣をつくり,その中で産卵するものが多い。卵は親の腹部から離れることはなく,第1若虫になるまで母体より栄養供給を受ける。約1ヵ月で第1若虫になると,しばらく親の周囲で生活した後分散する。
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百科事典マイペディア 「カニムシ」の意味・わかりやすい解説

カニムシ

アトビサリとも。節足動物蛛形(ちゅけい)綱中の1目。体長は普通2〜3mm。体の割に大きなはさみをもち,尾部を取り去ったサソリのような形をしている。世界中に分布し,山野の土壌中などに多い。雌は腹部の下面に産み出した卵塊をつけ,卵の発生の進行につれて栄養液を補給する。

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