カナヘビ(英語表記)true lizard

改訂新版 世界大百科事典 「カナヘビ」の意味・わかりやすい解説

カナヘビ
true lizard

カナヘビ科Lacertidaeに属するトカゲ類の総称。和名はかな(金属)色をしたヘビを意味し,名のとおり体が細長くて尾もきわめて長く,尾長は全長の約1/2から2/3強を占める。約22属210種がアジアヨーロッパアフリカに広く分布し,ほとんどが全長15~25cmほどの小型。しかし少数の種は全長50cmを超え,ヨーロッパ南部,アフリカ北西部に分布するホウセキカナヘビLacerta lepidaは最大80cmに達する。大半が荒地や草原にすみ草や低い木に登るが,アフリカ産トゲオカナヘビ属Poromeraやキノボリカナヘビ属Holaspisなどは樹上性で,尾のうろこが樹上生活に適したとげ状をしている。餌は昆虫,クモ,カタツムリなどのほか,大型種は小鳥の雛をもとらえる。

 北海道から吐噶喇(とから)列島の諏訪瀬(すわのせ)島に至る日本各地に分布するニホンカナヘビTakydromus tachydromoidesは,カナヘビ属の代表的な種で,全長18~25cm,尾はその約2/3を占める。体背面は褐色で,眼の後方から胴側面にかけて暗褐色の帯模様が走り,雄では著しい。体鱗には隆条が発達し,体背面ではそれらが連続して6本の顕著な隆条となる。頭部以外には皮骨板を欠く。平地から低山地のやぶ周辺,草原,耕地,庭先などにふつうに見られ,餌は昆虫,クモ,ミミズなど。春から夏にかけて1頭の雌が3回ほど産卵し,1回に平均4個ほどを土のくぼみに産む。日本には本種以外に同属のアムールカナヘビT.amurensis(全長約20cm)が対馬(国外ではアムール川周辺から朝鮮半島)に分布し,美しい緑色のアオカナヘビT.smaragdinus(全長20~25cm)が吐噶喇列島の宝島から宮古列島の宮古島までの南西諸島に分布している。サキシマカナヘビApeltonotus dorsalisは全長約30cm,八重山列島固有種で同属は中国福建省に他の1種が生息するのみ。アオカナヘビに似るがやや大きく,体背面はカナヘビ属のように大型鱗で覆われず,細鱗が密に分布する。コモチカナヘビLacertaとカベカナヘビ属Podarcisはヨーロッパ全域とアフリカ北部に広く分布し,緑色や褐色の美しい模様をもつものが多い。大半は卵生で,少数が卵胎生。卵胎生の1種コモチカナヘビL.viviparaは全長約18cm,ヨーロッパの大部分からシベリアを経て北海道北部まで広く分布し,スカンジナビア半島では北極圏付近まで達している。6~7月ごろに4~10匹ほどの子を生むが,南部の暖地では卵生となり卵で産む。スナジカナヘビ属Eremiasのうち,モンゴルの半砂漠にすむモンゴルスナジカナヘビE.multiocellataは卵胎生であるが,東ヨーロッパから中央アジアに分布する他種は卵生で,一度に2~6個ほどを産卵する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カナヘビ」の意味・わかりやすい解説

カナヘビ
かなへび
true lizard

広義には爬虫(はちゅう)綱有鱗目(ゆうりんもく)カナヘビ科に属するトカゲの総称で、狭義にはそのうちとくにカナヘビ属Takydromus、コモチカナヘビ属Lacertaなどに含まれるグループをさす。カナヘビの和名は「かな(金属)色をしたヘビ」を意味する。

 北海道から九州まで各地に分布し、庭先でも普通にみられるニホンカナヘビT. tachydromoidesは、カナヘビの典型的形態をした種で、全身が褐色で細長く、全長22センチメートル、尾はその3分の2ほどである。体鱗には隆起があってニホントカゲのような光沢がなく、尾もあ青くない。平地から低山地の草地、堤、やぶの周辺などにすみ、春から夏に2、3回産卵し、1回に平均4個ほどを産み、飼育下でもよく繁殖する。餌(えさ)は昆虫、クモ、ミミズなどである。南西諸島には体色が美しい緑色のアオカナヘビT. smaragdinus(全長22センチメートル)と、カナヘビ属に近縁なサキシマカナヘビ属ApeltonotusのサキシマカナヘビA. dorsalis(全長30センチメートル)の2種が分布し、対馬(つしま)では、アムール川周辺から朝鮮半島に分布するアムールカナヘビT. amurensisの生息が最近になって判明した。北海道北部でも生息が確認されたコモチカナヘビL. viviparaは、卵胎生で全長18センチメートル、生息域の広い種で、シベリアからヨーロッパ中部にかけて分布し、アルプスの3000メートル地域やスカンジナビア半島の北極圏付近までも及ぶ。ヨーロッパ産のコモチカナヘビ属には大形種が含まれ、ホウセキカナヘビL. lepidaが全長80センチメートル、ミドリカナヘビL. viridisが45センチメートルに達する。また近縁のカベカナヘビ属Podarcisは全長20センチメートル前後、イベリアカベカナヘビP. hispanicaをはじめ美しい種が多い。カナヘビ科Lacertidaeは全部で約20属180種がヨーロッパ、アフリカ、アジアの大部分に分布し、頭部以外の体鱗には皮骨板がない。

[松井孝爾]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カナヘビ」の意味・わかりやすい解説

カナヘビ
Takydromus tachydromoides

トカゲ目カナヘビ科。全長約 20cm。体は細長く,特に尾は長く全長の3分の2を占める。体色は黄褐色ないし暗褐色で,背面には鱗が拡大してできた6列の縦条がある。5~9月に産卵し,この期間中交尾が繰返される。雌は普通2回,多いものでは6回産卵する。1回あたりの産卵個数は1~8個で,卵は 40日ぐらいで孵化する。孵化したばかりの幼体は 6.5cmほどで,1年ぐらいで両性とも成熟する。日本固有種で,北海道から九州まで分布し,草むらや地上に普通にみられる。昆虫類,クモなどを捕食する。なおカナヘビ科 Lacertidaeはマダガスカル島を除く旧世界 (ヨーロッパ,アフリカ,アジア) に 150種ほどが分布しているが,すべて地上性で,形態的な分化が比較的少く,肢が退化する傾向にあるものはまったくない。日本には本種のほかにコモチカナヘビ,アオカナヘビ,サキシマカナヘビなどがいる。

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百科事典マイペディア 「カナヘビ」の意味・わかりやすい解説

カナヘビ

カナヘビ科に属するトカゲの総称。約20属180種がアジア,ヨーロッパ,アフリカに広く分布する。日本の代表的な種ニホンカナヘビは,全長18〜25cm,尾はその3分の2を占める。体色は褐色または暗灰褐色。日本全土に分布し,固有種。平地や丘陵地帯の草原や川原に多い。昆虫・クモ類を捕食。5〜8月ごろ1頭の雌が3回ほど産卵し,草の根もとの土中に1回平均4個ほどを産む。尾は自切でき,後に再生する。

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