カセミミズ(読み)かせみみず

改訂新版 世界大百科事典 「カセミミズ」の意味・わかりやすい解説

カセミミズ (枷蚯蚓)
Epimenia verrucosa

ミミズのような形をした無板綱サンゴノヒモ科の軟体動物。磯立網(エビ網)を天草で枷網というがそれにかかってくるのでこの名がある。最大のものでは体長30cm,太さ1cmくらいになるが,ふつうはもっと小さい。細長いが節はない。体表は平滑であるが,多少いぼ状の凹凸があり,濃褐色の地に黄色,青色,緑色などの斑紋があって毒々しい。口は前端にあり,腹側を前後に細い溝が走るので,この類を溝腹類ともいう。この溝は巻貝などの広い足が退化したものと考えられている。後端に肛門がある。体に触れると腹側へ曲がりまるくなる。体の後半部は損傷しても再生する。ウミアザミ,トゲトサカなどの腔腸動物についてその虫体を食べる。産卵期は8~10月で1対の卵塊帯を産出する。九州の天草地方や和歌山県,またインドネシア分布し,水深30~60mの岩礁ヤギ類に巻きついている。天草地方には近似種のオオシマカセミミズE.ohshimaiも分布し,いっしょに採集される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カセミミズ」の意味・わかりやすい解説

カセミミズ
かせみみず / 悴蚯蚓
[学] Epimenia verrucosa

軟体動物門無板綱サンゴノヒモ科のミミズ様の動物。和歌山県、熊本県の天草、伊豆七島などから知られ、熱帯太平洋に分布し、水深30~100メートルの岩礫(がんれき)底に生えるヤギ類上に巻き付いてすむ。体長10センチメートル、直径1センチメートルぐらいの、丸みのある細長いミミズ様で、体表は平滑かいぼいぼ、濃緑褐色の地に、黄色、紺色、緑色などの斑点(はんてん)がある。口は前端にあるが、目、触角などはなく、腹側には細い溝が縦走するので、本種の属する無板類は溝腹類ともよばれる。体に刺激を与えると腹側へ巻いて丸くなり、体後部は損傷しても再生能力がある。イソバナ、トゲトサカ類などの八放サンゴの軟部を歯舌でかきとって食べている。産卵期は8~10月で、1対の紐(ひも)状の卵塊を産む。九州西岸には同属のオオシマカセミミズE. ohshimaiを産する。体長9~12センチメートル。外形はカセミミズと似ているが、体は美しい橙赤(とうせき)色で、背中線上に走る1条の黄色帯をもつ。

[奥谷喬司]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カセミミズ」の意味・わかりやすい解説

カセミミズ
Epimeria verrucosa

軟体動物門無板綱サンゴノホソヒモ科。体長 30cm,体幅 1cm。体は芋虫状で細長く,濃褐色の地に黄,緑,藍色などの斑紋があり,毒々しい感じを与える。体表は平滑,あるいは多少いぼ状の突起がある。口は体の前端にあり,腹側には縦に細溝があるが,これは足が退化したものである。体に触れると腹側へ曲って丸まる。肛門は体の後端にある。和歌山県田辺湾,九州の天草諸島長崎半島およびインドネシアの水深 30~60mの岩礁のヤギ類に巻きついてすみ,ウミアザミやトゲトサカ類を食べている。8~10月に1対の卵帯を産む。近縁種オオシマカセミミズ E. oshimaiは九州西岸で本種とともに採集される。

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百科事典マイペディア 「カセミミズ」の意味・わかりやすい解説

カセミミズ

無板類(溝腹類)に属するミミズ状の軟体動物。腹部の細い溝が特徴で,触角,目,えらを欠く。最大は体長30cm,太さ1cmくらいになる。体色は濃褐色。個体によって黄,藍,緑などの斑紋がある。ウミアザミ,トゲトサカなどのサンゴ類にまきついてその虫体を食べる。紀伊半島〜インドネシアに分布。天草近海に特に多く,水深30〜60mの岩礁底にすむ。

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