オースティン(Jane Austen)(読み)おーすてぃん(英語表記)Jane Austen

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

オースティン(Jane Austen)
おーすてぃん
Jane Austen
(1775―1817)

イギリスの女流小説家。12月16日、ハンプシャーの小村スティーブントンに牧師の娘として生まれ、文学好きの家庭の雰囲気にはぐくまれ、少女時代からS・リチャードソン風の書簡体小説や風刺的なパロディーを試みていたが、しだいに本格的な小説を書くに至った。1801年に父の隠退とともにイングランド南西部のバスに移り、さらに父の死後、母姉とともにサウサンプトンに移った。その間二、三の断片的な作品を除いてあまり創作はしなかったが、1809年故郷に近いチョートンへ移ってからふたたび創作活動に専念した。まず以前の原稿に手を加えて、1811年に『分別と多感』を、ついで1813年には若いころ『初印象』の題で想を練っていたらしい小説に手を加えて『自負偏見』を出版した。以後1814年には『マンスフィールド・パーク』、1815年には『エマ』が出版され、油ののった創作活動がなされた。しかし翌1816年より健康の衰えがみられ、1817年5月にはウィンチェスターへ行き病気治療に専念したが、同年7月18日、生涯独身のまま同地で没した。翌年遺作『説きふせられて』と、初期の作で出版の機会がなかった『ノーザンガー寺院』が同時に出版された。

 彼女の小説は18世紀の多感な(女)主人公苦悩を扱った小説やゴシック小説などに対する批判から出発して、そうした小説に多い、型にはまった筋書きや人物と意識的に異なったものとなっている。彼女の作品では、田舎(いなか)の数家族を中心とした上・中流の男女の恋愛と結婚の物語を通じて、やがて女主人公が多くの間違いから目覚めていく過程が中心となっている。題材も狭く、同時代のW・スコットの華やかな表現もないが、18世紀特有の道徳意識根底にした人生の批評と、限られた世界を描きながら、鋭い批判を含んだ優れた人物の創造、物語の劇的展開を可能にしている叙述の方法などによって、イギリス小説史上一流の地位を占めている。

榎本 太]

『富田彬訳『説きふせられて』(岩波文庫)』『富田彬訳『ノーザンガー寺院』(角川文庫)』『臼田昭訳『マンスフィールド・パーク』(1978・集英社)』『海老池俊治著『ジェイン・オースティン論考』(1962・研究社出版)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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