オーエン(Robert Owen)(読み)おーえん(英語表記)Robert Owen

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

オーエン(Robert Owen)
おーえん
Robert Owen
(1771―1858)

イギリスの社会運動家、空想的社会主義の代表者。産業革命時代に活躍し、幼稚園の祖、協同組合運動の祖、工場法の提案者としても名高い。ウェールズのニュータウンに生まれ、商店などで働いた体験から、環境の力を重視する「性格形成原理」を確信し、スコットランドニュー・ラナーク紡績工場の改革に成功して経営者として名をあげた。その経験に基づくのが『社会にかんする新見解』A New View of Society(1813~1814)で、環境の改善、児童教育、労働者教育、国民教育などを主張し、広く読まれている。彼は、その主張を実践して、1815年に工場労働時間規制法を提案、翌1816年、性格形成学院を開設、1817年には既成宗教を批判し、社会主義者となった。『ラナーク州への報告』Report to the County of Lanark(1821)では、失業問題の根本的解決のために共産主義的協同体の建設を提案、1825~1828年にわたってアメリカのインディアナ州ニュー・ハーモニー平等村New Harmony Community of Equalityを開設した。これは失敗したが、世界最初の非宗教的協同体の実験として重要であり、アメリカに残ったオーエンの仲間と子供たちは、奴隷解放運動、女性解放運動、ペスタロッチ式教育運動などの先駆となっている。

 帰国したオーエンは、協同組合運動の指導者となり、1832年に労働券によって商品を交換する国民公平労働交換所を設立、また労働運動にも影響を与えて、1834年には有名な全国労働組合大連合Grand National Consolidated Trades Union(略称グランド・ナショナル」)の議長となった。これは100万人以上の組合員を有する大組織で、労働条件の改善と資本主義変革を目ざしたが、その瓦解(がかい)後オーエンは労働運動から離れて説教者となり、心霊宗を信じて87歳の死(1858年11月17日)に至るまで伝道を続けた。

 チャーティズムの運動やトンプソンWilliam Thompson(1775―1833)らのオーエン主義者、マルクスやエンゲルスらにも大きな影響を及ぼし、また労働と教育を結合した成人教育、禁酒運動、刑務所改善、結婚制度批判、サマータイムやグリーン・ベルトの考案など、さまざまな改革の先駆者である。現代において、彼の教育重視、政治的手段によらない改革、協同体の実験、工業文明批判、分業や競争原理の克服、人間の全面的な解放というような思想は、新しく再評価されることとなった。

[白井 厚 2015年7月21日]

『ロバート・オーエン著、渡辺義晴訳「工場制度の影響にかんする考察」(『世界教育学選集26 社会変革と教育』所収・1963・明治図書出版)』『永井義雄・鈴木幹久訳『ラナーク州への報告』(1970・未来社)』『白井厚訳「社会にかんする新見解」(『世界の名著42 オウエン/サン・シモン/フーリエ』所収・1980・中央公論社)』『五島茂訳『オウエン自叙伝』(岩波文庫)』『ロバアト・オウエン協会編『ロバアト・オウエン論集』(1971・家の光協会)』『都築忠七編『資料 イギリス初期社会主義――オーエンとチャーティズム』(1975・平凡社)』

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