オルバース(読み)おるばーす(英語表記)Heinrich Wilhelm Matthäus Olbers

日本大百科全書(ニッポニカ) 「オルバース」の意味・わかりやすい解説

オルバース
おるばーす
Heinrich Wilhelm Matthäus Olbers
(1758―1840)

ドイツの医者、天文学者ブレーメン近郊で生まれる。1777年にゲッティンゲンへ行き、医学とともに天文学を学んだ。その地の天文台で台長ケストナーAbraham Gotthelf Kästners(1719―1800)の影響で彗星(すいせい)に興味をもつ。1781年、医学の学位を取得、ブレーメン近郊で開業したが、生涯天文観測を続けた。1796年、新しい彗星を発見した際、その軌道に対して、短時間のうちに3回彗星を観測して軌道を推定するという独自の方法を適用して、これまでの近似を繰り返して放物線の軌道を推定するラプラスの方法より簡単であることを立証した。そのことにより19世紀の間、オルバースの方法が軌道計算に使われた。また、小惑星探査でも多大な貢献をしており、1802年1月、最初の発見後行方不明となっていたケレス再発見し、同年3月にパラス、1807年にベスタを発見している。彗星探査においては5個の彗星を発見している。そして、彗星の観測・研究から、星間は真空でなく、物質がある程度あると想定し、さらに、オルバースの背理を1823年に提起した。これは、宇宙に星が一様に分布しているなら、夜空は明るくなるはずなのに、なぜ暗いのか、というもので、オルバースは遠くからの星の光は星間物質に吸収されて暗くなると考えた。しかし、この説は星間物質が光を吸収することにより、白熱してエネルギーを再放出し、また輝き出すということで、解答とはならないとされた。現在では宇宙の膨張と宇宙の年齢の有限性によってオルバースの背理の解答が説明されている。なお、オルバースは「オルバースの背理」の最初の提唱者や解明者ではなく、同様な考え方はそれより前に、ド・シェゾーJean-Philippe Loys de Cheseaux(1718―1751)などにより提起されている。

[編集部 2023年4月20日]

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改訂新版 世界大百科事典 「オルバース」の意味・わかりやすい解説

オルバース
Heinrich Wilhelm Matthäus Olbers
生没年:1758-1840

ドイツの天文学者。1778-80年ゲッティンゲン大学で医学を修め,81年から約40年間,開業医として生地のブレーメンに居住した。しかし医業のかたわら,天文学の研究に情熱を燃やし,早くも1779年にすい星の放物線軌道の構想を得て,後に《すい星軌道計算法》(1797)を出版した。その付録には87個のすい星軌道の一覧表を載せた。オルバースは7個の新すい星を発見したが,とくに1815年に発見したものは,周期69年の周期すい星で,彼の名をもって呼ばれている。エンケすい星の研究からは惑星間物質の存在を想定したが,23年にはこれを恒星界に拡張して遠方の星の光の星間吸収を考え,もしも無限の宇宙に星間吸収がなかったら,無数の星の光で夜空は明るく輝くことになると主張した。これはオルバースのパラドックスと呼ばれ,近代の宇宙論的思考の発端となった。

 オルバースは小惑星の発見にも意欲的で,1802年1月2日に第1号ケレスを再発見し,同年3月28日に第2号パラスを,07年3月29日には第4号ベスタを発見した。これらの小惑星が類似の軌道をもつことから,一つの惑星の爆発による小惑星起源説を提唱した。オルバースは若い人々を天文学研究に誘うことに意を用いたが,その中には後の天文学者のC.F.ガウスとF.W.ベッセルがいる。上述のケレスの再発見も当時25歳のガウスの計算に基づくものであった。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オルバース」の意味・わかりやすい解説

オルバース
Olbers, (Heinrich) Wilhelm (Matthäus)

[生]1758.10.11. アルベルゲン
[没]1840.3.2. ブレーメン
ドイツの天文学者,医者。ブレーメンで開業するかたわら (1781) ,自宅の最上階に天文観測所をつくり観測,研究に励んだ。彗星の軌道を計算する新しい方法 (79) ,彗星の尾が太陽の放射圧によって常に太陽と反対側に伸びること (1811) ,オルバース彗星の発見 (15) など彗星研究に寄与した一方,小惑星群の正体を明らかにし (02) ,みずからパラス (02) ,ベスタ (07) の2小惑星を発見。またオルバースのパラドックスを提唱し,その後の宇宙構造理論,宇宙膨張説形成に影響を与えた。

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百科事典マイペディア 「オルバース」の意味・わかりやすい解説

オルバース

ドイツの医師,天体観測家。1779年すい星軌道の新計算法を考案。小惑星第2号パラス(1802年),第4号ベスタ(1807年)のほか7個のすい星を発見。1826年〈無限個の星が一様に分布するなら夜空は明るく輝くことになる〉というオルバースのパラドックスを提起。

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世界大百科事典(旧版)内のオルバースの言及

【宇宙】より

… 先にふれたように18世紀中ごろにライトやカントによって島宇宙説が示唆されたのに続き,銀河系のような星雲が果てしない空間に一様に分布しているという無限宇宙論が支持を広げた。そんな中でドイツのH.W.M.オルバースは無限宇宙に対する有名なパラドックスを発表した(1826ころ)。これは,われわれのまわりに平均して同じ明るさの天体が一様に無限の空間に分布していると,宇宙は無限に明るく見えねばならないというものである(彼は天体として恒星を考えたが,銀河を考えても同じである)。…

※「オルバース」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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