オセロ(シェークスピアの悲劇)(読み)おせろ(英語表記)Othello

翻訳|Othello

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

オセロ(シェークスピアの悲劇)
おせろ
Othello

イギリスの劇作家シェークスピアの五幕悲劇。1604年ごろの作。イタリアの小説に取材し、正式の題名は『ベニスのムーア人オセロの悲劇』。ベニス公国の元老ブラバンショーの娘デズデモーナは、黒人将軍オセロと恋愛し、父の反対を押し切って結婚する。おりからトルコ艦隊がキプロス島に向かうとの報が入り、オセロは同島守備のため妻を伴ってキプロスに出発する。オセロの旗手イアーゴは望んでいた副官の地位をキャシオに奪われたのを根にもち、2人に復讐(ふくしゅう)を計画する。キプロス到着の夜、イアーゴは酒乱のキャシオにわざと酒を飲ませて騒動を引き起こさせ、オセロから副官の地位を罷免されるや、今度はデズデモーナを通じてキャシオに復職運動をするように勧める。そうしておいてオセロには、キャシオとデズデモーナが密通しているとほのめかし、オセロが彼女に与えたたいせつなハンカチを、妻のエミーリアに命じて盗ませ、キャシオの部屋に落としておいて、偽りの証拠をつくる。人間心理の弱点を見抜いたイアーゴの巧みな讒言(ざんげん)を軽率にも信じてしまったオセロは、デズデモーナを寝台の上で締め殺すが、すべては露見し、オセロは悲しみのあまり自害を遂げ、イアーゴはもっとも残酷な処刑を受けることになる。シェークスピアの四大悲劇の一つに数えられるが、他の悲劇に比べて写実的な家庭悲劇の色彩が濃い。人間の愛と嫉妬(しっと)を描いて鮮烈であり、コールリッジが「無動機の悪」とよんだイアーゴの悪の追求はすさまじい迫力をもっている。

小津次郎

オペラ

この戯曲はイタリアの二大オペラ作曲家、ロッシーニベルディによって歌劇化されている。前者の『オテロまたはベネチアのムーア人』は1816年ナポリ初演だが、今日ではほとんど上演されない。ベルディ作曲の『オテロ』(1881~1886作曲)はアリゴ・ボイート台本の四幕物で、1887年ミラノ・スカラ座初演。彼の円熟期の作品の一つで、管弦楽と声部が渾然(こんぜん)一体となった緊張感により、人間性の赤裸々な表出に成功した名作である。

[三宅幸夫]

『『オセロー』(菅泰男訳・岩波文庫/木下順二訳・講談社文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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