エーレンフェスト(読み)えーれんふぇすと(英語表記)Paul Ehrenfest

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エーレンフェスト」の意味・わかりやすい解説

エーレンフェスト
えーれんふぇすと
Paul Ehrenfest
(1880―1933)

オーストリアの理論物理学者ウィーンに生まれる。ウィーン大学で理論物理学を学び、ボルツマンの指導の下に1904年学位を得た。1912年H・A・ローレンツの後継者としてライデン大学の理論物理学教授となった。1933年9月、ナチスの支配下でユダヤ人の同僚が苦境に陥ったことや、彼自身が個人的問題に直面したことが原因で自殺した。1911年、『数理科学百科全書』Encyklopädie der mathematischen Wissenschaftenに寄せた論文統計力学概念的基礎」で、統計力学の論理的構造を解明し、エルゴード仮説意義をも明らかにした。1913年ごろから、量子化の概念を調和振動子以外の一般的な系に拡張することを試み、断熱仮説を提唱した(ただし、断熱仮説という名称は1914年にA・アインシュタインが与えたものである)。さらに1921年には、量子論古典論との関係を考究する過程で、エーレンフェストの定理を証明した。

[杉山滋郎]

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改訂新版 世界大百科事典 「エーレンフェスト」の意味・わかりやすい解説

エーレンフェスト
Paul Ehrenfest
生没年:1880-1933

オーストリアの物理学者。ユダヤ人であったため,ユダヤ排斥思想の強かった生地ウィーンでの幼時はきびしいものだったという。ウィーン大学で理論物理学を修め,L.ボルツマンの影響を強く受けた。ウィーン,ゲッティンゲン,ペテルブルグと移り住み統計力学の研究で業績をあげたが,宗教上の問題のため学界での地位は得られず,1912年になってようやくオランダのライデン大学にH.A.ローレンツの後任教授として迎えられた。彼の研究は数学的計算や独特な創造よりも批判的労作において優れ,とりわけボルツマンのH定理の意味を分析解明した業績は名高い。また量子論の草創期に作用量子の意味を示し,また断熱仮説をたてて(命名はアインシュタイン),量子力学建設の指導原理を与えている。これはN.ボーアの対応原理の前段階をなすものであった。このような優れた業績にもかかわらず,彼の生涯は人種と宗教問題にからんだ煩悶(はんもん)の日々であり,ナチス・ドイツのユダヤ人迫害が顕著となってきた33年,みずから命を絶ってその生涯を閉じた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エーレンフェスト」の意味・わかりやすい解説

エーレンフェスト
Ehrenfest, Paul

[生]1880.1.18. ウィーン
[没]1933.9.25. アムステルダム
オランダの物理学者。ウィーン大学で学び,1904年学位取得。その際 L.ボルツマンの深い影響を受けた。 11年の統計力学の基礎に関する批判的研究が認められて H. A. ローレンツの後任としてライデン大学の理論物理学教授に就任 (1912) 。 A.アインシュタインや N.ボーアを含む数多くの理論物理学者との討論で発揮された,彼の批判的能力は相対論,量子論の発展に大きく寄与した。みずからの能力に対する懐疑とナチズムの勃興に対する絶望から 33年自殺した。

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百科事典マイペディア 「エーレンフェスト」の意味・わかりやすい解説

エーレンフェスト

オランダの理論物理学者。ウィーン大学でボルツマンに学び,1912年ライデン大学教授。気体論,相対論,量子論等に貢献,特に断熱仮説(1916年)が有名。自殺。

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367日誕生日大事典 「エーレンフェスト」の解説

エーレンフェスト

生年月日:1880年1月18日
オーストリアの理論物理学者
1933年没

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世界大百科事典(旧版)内のエーレンフェストの言及

【相転移】より

…このような状態は準安定状態と呼ばれるが,相転移のうち,準安定状態を伴う相転移を第1種相転移,伴わない相転移を第2種相転移という。またこれとは別に,P.エーレンフェストは,自由エネルギーの温度や圧力に関する1階微分が転移点で有限のとびをもつとき,その相転移を一次相転移と呼び,2階微分がとびをもつとき二次相転移と呼んだ。
[一次相転移]
 一次相転移は第1種相転移と一致する。…

※「エーレンフェスト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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