エロス(ギリシア神話)(読み)えろす(英語表記)Erōs

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エロス(ギリシア神話)」の意味・わかりやすい解説

エロス(ギリシア神話)
えろす
Erōs

ギリシア神話の愛の神。ローマではクピド、またはアモルとよばれる。古い伝承では、エロスは大地とともにカオス混沌(こんとん))から生まれた原初の力、あるいは夜の女神ニクスが生んだ卵から誕生した神とみなされた。古くからアフロディテの子とされているが、お産の女神エイレイテイア、虹(にじ)の女神イリスを母とする説、あるいはヘルメスアルテミスとの間に生まれた子とするなど、さまざまな説がある。さらに、アフロディテの子としても2通りのエロスがあり、天空の女神アフロディテとヘルメスの間に生まれた子と、もう1人はアンテロス、つまりゼウスディオネの娘であるアフロディテと軍神アレスとの子である。このように、古代よりエロスをめぐって詩人、宗教家、哲学者などがいろいろな解釈を繰り広げている。あらゆるものを結び付け、愛の力を具現するエロスは、初め翼を備えた気まぐれな美青年として描かれたが、彼の年は時代を経るにつれてしだいに若くなり、ついには弓と矢を持つ子供として表されるようになった。ヘレニズム時代の詩人たちは、エロスがガニメデスとともにクルミの実で遊ぶようすを歌ったが、一方ポンペイの壁画では、エロスは幼児の姿で複数の神々となっている。エロスが戯れに放つ矢は、人間だけでなく神々の胸をも傷つけ、恋の苦しみを与える。そしてほとんどの物語脇役(わきやく)的な存在であるエロスは、プシケとの恋物語では主役を演じている。

[小川正広]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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