エミール(ルソーの作品)(読み)えみーる(英語表記)Emile ou De l'éducation

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

エミール(ルソーの作品)
えみーる
Emile ou De l'éducation

フランスの思想家、小説家ジャン・ジャック・ルソーの作品。副題「教育について」が示すように、ルソーの教育論と考えられているが、もっと広く、ルソーの人間観、社会観を全面的に展開した代表作の一つ。1762年刊。作品は5編からなり、第1編は5、6歳まで、第2編は12歳まで、第3編は15歳まで、第4編は20歳まで、第5編は結婚まで。主人公エミールの誕生から結婚までを通して、人間のもって生まれた資質を保ちながら、それぞれの時期の身体と知性と心の発達調和を図り、社会生活に備え、幸福な人生を追求する。第4編には「サボワ助任司祭の信仰告白」が含まれている。これは、自然の調和と美を根拠とする道徳宗教論であり、一種の理神論が展開されている。その内容は、当時のカトリックプロテスタント教会教義と相いれず、作品が禁書の処分を受ける原因となった。また第5編には女性教育論があり、女性は子供を育て、家を守るべきだという、19世紀以降の主流を占める女性観が述べられており、ルソーはその源流に位置している。『エミール』は、日本でも明治以来多くの影響を教育界に及ぼしてきている。

[原 好男

『今野一雄訳『エミール』全3冊(岩波文庫)』『吉沢昇・為本六花治・堀尾輝久著『ルソー、エミール入門』(1978・有斐閣新書)』『篠崎徳太郎著『ルソー、エミール 教育講義』全8巻(1977・土屋書店)』『沼田裕之著『ルソーの人間観、「エミール」での人間と市民の対話』(1980・風間書房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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