エフタル
えふたる
Ephtalites
5世紀の中ごろから中央アジアを統一した民族。Hephtalites、Haytal、Hayātila、嚈噠、悒怛などとも書かれ、イラン系の言語で「強い人」を意味するという。ササン朝ペルシアの東に接し、初めはササン朝に協力して東方ローマ領を攻め、のちにはササン朝と突厥(とっけつ)とに挟撃されて、558~561年に滅ぼされた。ただし、民族としては長く残り、その子孫と思われるものが、現在でもアフガニスタンの北部バダフシャーン付近に存在する。この方面はエフタル帝国の中心で、帝国の領域は、北は天山山脈の北部、南はアフガニスタン、西北インドのパンジャーブ、東は東トルキスタンのホータン、西はササン朝の西方領土ホラサーン地方に及んだ。
ビザンティンやインドの記録には「白いフン」、中国の記録には大月氏(だいげっし)、高車(こうしゃ)の類族で、金山(アルタイ山?)に発祥し、ソグディアナ、バクトリア方面に南下したとされている。しかしその起源については疑問が多い。エフタルは遊牧生活を行ったが、一部は都市に定住し、一妻多夫の風習をもっていた。エフタル自身は文字をもたず、バクトリア地方で用いられていたギリシア文字でイラン系の言語を記録している。
[榎 一雄]
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エフタル
Ephthalites; Hephthalites
古代の中央アジアで活躍した遊牧民族。アラビア語ではハイタル Haytalと写す。5世紀のなかばにトハリスタン (トカラ) に出現し,455年中国の北魏に使いをつかわし,通交を結んだ。西に国境を接するササン朝ペルシアとは争いが絶えず,ササン朝ペルシア王カワード1世 (在位 488~531) は,エフタルの援助で王位についたため,実質的権力はエフタルの手に握られた。 557年エフタル王カトゥールフォスは,カワードの跡を継いだペルシア王ホスロー1世と,西突厥のシルジブロス・カガン (→イステミ・カガン ) との連合軍に敗れ,その領土は両国間で分割され,エフタル国は滅亡した。しかし民族としては,エフタルは8世紀初めまで記録に現れている。言語の系統は不明で,イラン系ともトルコ系ともいわれる。また「白いフン」とも呼ばれる。
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エフタル
Ephtalites
5世紀中ごろから中央アジアで活躍したイラン系またはトルコ系の遊牧民
アム川上流のトハリスターンを中心に,東西トルキスタンや西北インドに勢力をふるい,6世紀初めには,東はホータン,西はササン朝に至る大国となり,東西貿易の要路を押さえて栄えた。しかし,6世紀中ごろ突厥 (とつけつ) とホスロー1世のササン朝に滅ぼされた。
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エフタル
5−6世紀の中央アジアで活躍した遊牧民族。東はホータンから,西はイランに及ぶヒンドゥークシ山系一帯の領域を支配,東西交通の要衝を握る。その国家は6世紀後半突厥(とっくつ)に征服された。人種はトルコ系説,アルタイ系説もあるが,遺跡発掘などによりイラン系説が有力。
→関連項目グプタ朝
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デジタル大辞泉
「エフタル」の意味・読み・例文・類語
エフタル(Ephtalite)
5世紀から6世紀にかけて大国家をつくり、中央アジアを支配した遊牧民族。6世紀後半、突厥とササン朝ペルシアに滅ぼされた。
[補説]「嚈噠」「挹怛」とも書く。
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エフタル【Hephthalite】
中央アジアの民族。西方史料ではEphtalitai,Hayāṭila,中国史料では嚈噠などと記されている。5世紀半ばころから,突厥とササン朝ペルシアに分割される(558‐561)まで,インド,南ロシア,中国,ペルシアを結ぶ貿易路上の要地,ヒンドゥークシュ山系一帯に拠って繁栄し,遊牧生活と都市生活をあわせもった強大な国家を築いた。インド,ビザンティンの史料では〈白いフン〉と記され,国家の滅亡後も7世紀にはヘラートからのアラブ支配に抵抗し,8世紀にも名を残す。
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世界大百科事典内のエフタルの言及
【金器・銀器】より
…中国古代では,殷・西周・春秋時代に金を装具として寡用し,戦国時代に金・銀錯のすぐれた工芸を生む。その後ササン朝から中央アジアのエフタルを介して銀器嗜好が伝わったが,8世紀前半に急激にピークをむかえ,以後宋・元の量産方向へ堕していく。日本では六朝の装具に比較すべきものが6世紀からみとめられるが,鍍金が主流で,正倉院蔵品は9世紀の唐以降の中国製品が多い。…
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