エディプスコンプレクス(英語表記)Oedipus complex

翻訳|Oedipus complex

改訂新版 世界大百科事典 「エディプスコンプレクス」の意味・わかりやすい解説

エディプス・コンプレクス
Oedipus complex

精神分析の用語。ひとが両親の双方に対して抱く主として無意識的な愛および憎悪の欲望のすべてをいう。ギリシア伝説のオイディプス王のように,同性の親を憎み異性の親を愛する形を〈陽性エディプス・コンプレクス〉とよび,逆に,同性の親を愛し,異性の親を憎む形を〈陰性エディプスコンプレクス〉と呼ぶ。現実の様態は,この陰陽のエディプス・コンプレクスがさまざまな割合で混合している。したがって,人間生活において純粋の陽性または陰性のエディプス・コンプレクスが存在すると考えるのは間違いである。S.フロイトによれば,エディプス願望は,3歳から5歳にかけての男根期に激しくなり,男児去勢不安(去勢コンプレクス)を経ることによって,女児は男根の獲得(ペニス羨望)をあきらめ,それが子どもを得たいとする望みに移行することによって,エディプス願望は消滅し,無意識化され,同性の親への同一化が促進されることになる。児童を直接治療したM.クラインによれば,すでに3歳以前,生後1年の間においてすらエディプス的な幻想がみられるという。神経症者は,フロイトによれば,エディプス・コンプレクスの克服に失敗した者であり,成人してからもそれを強くもち続けている者である。両親の不安定な養育偏頗(へんぱ)な愛情が,子どものエディプス・コンプレクスを不当に強化することは自明のことであろう。なお,女性のエディプス・コンプレクスをとくにエレクトラ・コンプレクスElectra complex(ユング造語)ともいう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のエディプスコンプレクスの言及

【阿闍世コンプレクス】より

…この名称は,〈生まれる子は父親を殺す大罪人となる〉という仙人の予言を恐れた母妃が,わざと高い塔の上から自分を生み落として殺そうとしたのを知って,父王を殺害し,母をも殺そうとしたインドの王子アジャータシャトルの名に由来している。なお古沢は,父によって処罰される恐怖が内在化して生ずる,エディプス・コンプレクスにおける罪の意識を〈罪悪感〉と名付け,母に対して敵意を抱いたにもかかわらず,処罰されるどころか逆に母の愛によって許されてしまった時に生ずる罪意識を〈懺悔心〉と呼んで,罪悪意識を区別した。【馬場 謙一】。…

【近親相姦】より

…このように,人類は同一の種に属しながら,近親相姦の扱いに多様性を示しているのは,文化の次元で対処していることの表れである。外婚制【末成 道男】
[フロイトの理論と犯罪学的知見]
 精神分析学者S.フロイトは,3~5歳の年齢に達した男児は,母親に対して性愛的感情を抱き,それゆえライバルとみなされる父親に敵意を感じるとして,これをエディプス・コンプレクスと名づけた。女児ではこれと反対に,父を愛し母を憎むので,エレクトラ・コンプレクスという。…

【新フロイト派】より

…すなわち,S.フロイトは神経症の根底に人類に普遍的な生物学的条件が存在すると考えたが,ホーナイらは,神経症は患者の生きている〈特定の文化のもつ諸条件〉によって引き起こされると主張する。また,フロイトによればエディプス・コンプレクスは人類に共通の無意識的観念複合体であるが,この派の人たちは,比較人類学的研究を通して,これが父権社会の家族成員の間に限って認められるコンプレクスにすぎないことを主張した。また,女性心理の根底をなすとされる去勢コンプレクスとペニス羨望についても,男性優位の社会の心理的産物にすぎないという批判を加えた。…

【精神分析】より

…体質的要因(フロイトは,先天的に口唇愛,肛門愛の強い者の存在を考えていた)を別とすれば,これらの各期を過度の欲求不満も過度の欲求満足も経験することなく通過することが人格の健康な発達の条件とみられる。 ところで男根期phallic stage(phase)は,フロイトが強調したエディプス・コンプレクスを形成する時期(3~6歳)だが,親子の三者関係の中に愛憎を伴う心的抗争が恒常的にみられるというエディプス・コンプレクスの提唱は,超自我形成論と並んで,今日隆盛な対人関係論,対象関係論object relations theoryの萌芽を示したものといえる。5歳以降に生じる潜伏期latency periodによって幼児性欲の発現と性器性欲の発現との間に休止期が置かれる(性愛発達の二相性)。…

【フロイト】より

…有能だが偏執的な理論を唱えた人物)にはなはだしい傾倒を示し,1887‐1901年にかけて両者の間に頻繁な文通が行われる。フリースあてのフロイトの手紙の中には,あまたの自己分析が含まれており,失錯行為と夢の意味,エディプス・コンプレクス,攻撃性の問題,空想や創作の心理的意味といった彼のその後の主要な思想の萌芽がすべて見いだされる。これをみれば,フロイトの心理的発見は,自己分析と患者の精神分析との照合に由来する産物であることがわかる。…

※「エディプスコンプレクス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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