ウードン(英語表記)Jean-Antoine Houdon

デジタル大辞泉 「ウードン」の意味・読み・例文・類語

ウードン(Jean-Antoine Houdon)

[1741~1828]フランス彫刻家。端正な形式美性格描写とによる肖像彫刻傑作を残した。

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改訂新版 世界大百科事典 「ウードン」の意味・わかりやすい解説

ウードン
Jean-Antoine Houdon
生没年:1741-1828

18世紀フランスを代表する彫刻家。ベルサイユに生まれる。父親が王立アカデミー付属の学校の鍵番であったため,少年時代から美術に親しみ,9歳の時から彫刻を始めた。1761年ローマ賞を得て64-68年の間,イタリアに学び,古典に熱中するとともに,解剖学的な形態研究にうちこむ。パリでは,すでに公的なポストが占められていたため,個人の注文によって制作せざるをえなかったが,それらの顧客のなかには,ザクセン・ゴータ公などがおり,ウードンは,この友人ディドロ推薦をえた顧客のために,著名な大理石の《ディアナ》を制作している。この作品はのちにエカチェリナ2世の所蔵となった(現在,リスボンのグルベンキアン美術館蔵)。エカチェリナ2世もまたウードンの顧客であった。この作品は,典型的なルイ16世様式の,装飾的な女神像であるが,彼の本領は,何よりも肖像彫刻に示された。彫刻家の第一の義務は,形態の真実性を守ることにあると信ずる彼は,しばしばモデルの直接の型取りを行い,J.J.ルソー像(1779)制作の際には,デスマスクをもとにした。またワシントン像の制作をバージニア州から依頼されたとき(1785),その生地マウント・バーノンにまででかけ,またボルテール像(1781,コメディ・フランセーズ蔵)の際には,この哲学者の死の直前までポーズをとらせている。

 ロココ風の繊細さと解剖学的真実とをともに追求する彼の肖像は,女性像や子どもの肖像でも名声を得た。しかし,彼を18世紀フランスの代表的彫刻家とするのは,前述のルソー,ボルテール,あるいはベンジャミン・フランクリン(1778)など同時代の知性を,単なる写実性ではなく,知的理解と,機敏な心理表現によってとらえ,真の意味での個性表現を確立した点にある。彼はナポレオン時代まで生きたが,晩年は,小作品を制作するにとどまった。
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百科事典マイペディア 「ウードン」の意味・わかりやすい解説

ウードン

フランスの彫刻家。ベルサイユ生れ。ピガールに師事し,一時ローマに滞在して古典を学ぶ。後期ロココと次代の新古典主義をつなぐ彫刻家で,ボルテール像のほか,ワシントンナポレオン1世など同時代の著名人の肖像彫刻を多く残し,モデルの的確な性格描写で知られる。代表作に《ボルテール座像》(大理石像,1779年―1781年,パリ,コメディ・フランセーズ蔵),《ディドロ胸像》(1771年ころ,ニュー・ヘブン,イェール大学美術館蔵)などがある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウードン」の意味・わかりやすい解説

ウードン
うーどん
Jean-Antoine Houdon
(1741―1828)

18世紀フランスの彫刻家。ベルサイユに生まれる。ルモワーヌおよびピガルに学び、1761年にはローマ賞を獲得。64~68年イタリアに留学。古典の研究のかたわら解剖学的研究を行い、帰国後、ディドロの紹介によってゴータ公の庭園のために制作した『ディアナ』(リスボン、グルベンキァン美術館)などの神話的図像の作品で名声を得、またルイ16世時代の様式を確立する。他方、肖像彫刻においてもこの時期の指導的な彫刻家であり、ディドロ、ボルテール、J・J・ルソー、ベンジャミン・フランクリンなどの彫像を残している。解剖学的真実を求める彼は、ルソーのデスマスクを用い、またボルテールの場合には死の前夜までポーズさせている。同時に彼は、これらの個性を表情や姿勢や視線の動きのなかにとらえ、その点でも18世紀的な作風を確立した。

[中山公男]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウードン」の意味・わかりやすい解説

ウードン
Houdon, Jean Antoine

[生]1741.3.20. フランス,ベルサイユ
[没]1828.7.15. フランス,パリ
フランスの彫刻家。スロッツおよび J.ピガールに師事。 20歳でローマ大賞を獲得して4年間ローマに留学,1768年パリに帰るまで同地に滞在し古典彫刻を学んだ。 77年王立アカデミー会員となる。作品は古典的精緻と人物の内面性の把握を特色とし,ボルテール,モリエール,ナポレオンなどの数多くの肖像彫刻を制作。また 85年にはアメリカに渡り,G.ワシントン,B.フランクリンの肖像,1814年にはロシア皇帝アレクサンドル1世の胸像を制作。その他の主要作品は『ディアナ』 (1777,ルーブル美術館) ,コメディー・フランセーズの『ボルテール坐像』 (78) など。

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