ウンシュウミカン

改訂新版 世界大百科事典 「ウンシュウミカン」の意味・わかりやすい解説

ウンシュウミカン (温州蜜柑)
Satsuma mandarin
Citrus unshiu Marcovitch

9~12月に熟すかんきつ類の1種で,ミカン科の常緑広葉樹。日本のかんきつ類のなかで最も代表的なもの。李夫人橘,仲島蜜柑,種無など30余の異名がある。

古くから中国と交流があった天草の南にある島,鹿児島県長島が原生地と推定されている。400~500年前,中国の浙江省黄岩県からもたらされた早橘,槾橘(まんきつ),本地広橘,本地草などのミカン類の種子より発生したと考えられている。親は中国の品種だが,本種は日本原産である。年平均気温15~17℃の,主として千葉県以西の海岸地帯で栽培されている。愛媛,和歌山,熊本,静岡,佐賀などが主産県。近年,九州の生産の伸びが著しく,7県で約40%を占める。沖縄での栽培は台風の被害が大きいため,あまり進展していない。外国では,スペイン,アメリカ(カリフォルニア),中国,韓国(済州島)などで栽培されている。また,世界の他のかんきつ栽培が可能な地帯にも広く導入され,分布している。

成木は樹高3~4m。葉の翼葉は小さい。白色で5弁の花を単生するが,ごくまれに花序を形成する。花弁の長さ20mm,おしべは18~22本。低温障害のため,花粉が不稔で,葯はふつう淡黄色。満開期はふつう5月中旬であるが,早生温州はいくぶん早い。果実は,生育初期は丸いが,生長に伴い扁平になる。成熟期の果実は,横径5~7cm,縦径4~5.5cm,重さ80~120g。果形,大きさは品種により少し異なる。果皮果肉とも橙色。果皮は薄く,剝皮が容易で食べやすい。8~12室。果肉は柔軟多汁で,糖度は10~12%,酸濃度は0.8~1%。ふつう,種子はないが,受粉すると数個できる。胚は緑色で多胚

一部は人工的に改良されたが,大部分は自然の突然変異により,100以上の品種が分化している。初期の系統は,福岡県久留米市,大阪府池田市,愛知県稲沢市などの苗木産地で選抜されたものが多い。中でも,愛知県の尾張系が優良で全国に広まり,それらから現在の優良品種が多数選抜された。これらの品種は,早生温州,普通温州に大別されるが,さらに細かく熟期別に,橋本早生,宮本早生などの極早生,宮川早生,興津早生などの早生,久能温州などの中生(普通温州早熟系),杉山温州,青島温州などの晩生(普通温州)に分けることもできる。収穫時期は,それぞれ9~10月,10月,11月,11月下旬~12月である。他に,品種数は少ないが果皮の紅が濃い系統,油胞が少なく果皮が非常に滑らかな系統,手もぎ採収のしやすい系統がある。

かんきつ類の中では寒さに強いほうである。また,降雨量の多い日本の気候に適し,病虫害に対しても強く,栽培しやすい。主要害虫はヤノネカイガラムシ,ミカンハダニなど,主な病気は黒点病である。嫡子誕生が重要視され,種子のできない無核果が忌事とされた江戸時代には栽培されなかったが,明治時代以降増植された。当初は栽培技術が未発達であったため,急速に生産量が伸びたのは大正年代である。1941年には52万tに達したが,第2次世界大戦で約半分に減少した。戦後再び漸増し,65年ころ戦前の水準まで回復した。昭和30年代に大増植が行われ,1972年には前年より一挙に約100万t増え,357万tに達した。しかし,販売価格の低迷から,73年をピークに栽培面積は減少している。最近はビニルハウスで栽培され,ミカン類の少ない7~9月に出荷されるものがある。

果実はビタミンC,Aに富み生食が主である。約2万tの生果が年末にカナダ等に輸出される。生果にして20万~30万tのシロップ漬缶詰が作られ,一部輸出される。他に冷凍果肉,酒にもされる。1960年以降,果汁の生産が増大し,71年以降は生産量の20%程度を占める。果粒入り果実飲料(つぶつぶジュース)等果汁の製品は多い。加工残渣(ざんさ)は家畜の飼料として一部利用されているが,残渣の有効利用は重要な問題である。成熟果の果皮は乾燥して調味料の原料に,幼果は生薬の原料にされる。
かんきつ類
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栄養・生化学辞典 「ウンシュウミカン」の解説

ウンシュウミカン

 [Citrus unshiu].温州ミカンと書く.ムクロジ目ミカン科ミカン属のミカンの一品種.わが国で広く栽培されている.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のウンシュウミカンの言及

【かんきつ類(柑橘類)】より

…温帯域のリンゴやブドウ,熱帯域のバナナとともに熱帯から暖温帯にかけて栽培され,生産量も多い主要な果樹。日本ではウンシュウ(温州)ミカンが代表的。古くは橘,柑,柚,橙,枳などの字がそれぞれにあてられていたが,これらを柑橘と総称するようになったのは江戸中期以降といわれる。…

※「ウンシュウミカン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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