ウルフ(Virginia Woolf)(読み)うるふ(英語表記)Virginia Woolf

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ウルフ(Virginia Woolf)
うるふ
Virginia Woolf
(1882―1941)

イギリスの女流小説家、批評家。哲学者で『英国人名辞典』の初代編集者レズリー・スティーブンLeslie Stephen(1832―1904)の次女として1月25日ロンドンに生まれ、ビクトリア朝最高の知性の集まる環境で成長した。セント・アイブス海辺別荘で両親や兄弟たちと過ごした幼年期の夏の経験、とくに若くして世を去った家族の中心的存在だった母の記憶が、彼女の人生と作品の世界を大きく支配するようになる。両親の死後、弟エイドリアンを中心に、ケンブリッジ大学出身の学者、文人、批評家が彼女の家に集まり、いわゆるブルームズベリー・グループとよばれる知的集団を形成した。1912年には、このグループの一員で植民地行政官であったレナード・ウルフLeonard Woolf(1880―1969)と結婚。レナードは、政治評論の筆をとるかたわら、ホガース出版社を設立し、妻のよき理解者、援助者となる。

 1915年に処女作『船出』を、また1919年には『夜と昼』を出版。2作とも伝統的な小説作法に拠(よ)っているが、以後の新しい展開を予見させる。1922年の『ジェイコブの部屋』では、主人公が周囲の人に与える印象と周囲の人が主人公に与える印象をつなぎ合わせた新しい小説の形を試みた。これをより完成させた作品が『ダロウェイ夫人』(1925)である。この間、評論『現代小説論』(1919)や『ベネット氏とブラウン夫人』(1924)で新しい実験的な小説のあり方を主張、時代とともに「真実」のとらえ方も変わることを強調した。1927年には、幼年時代原体験の叙情的昇華といえる『灯台へ』を発表。「意識の流れ」の技法を用いて人間の心理の最深部を探り、時間、事実と真実の新しい観念を示した。16世紀から20世紀まで生き、途中で性転換をする人物を通して描いた、友人ビタ・サックビル・ウェスト伝記『オーランドー』(1928)は、その観念の具現化の好例である。1931年に発表した『波』は小説より詩に近く、彼女の思想の究極を示すと同時に限界をも示しており、『歳月』(1937)、『幕間(まくあい)』(1941)はこの限界を越えようとする模索を示している。文芸評論集『普通の読者』2巻(1925~1932)、女性論『私だけの部屋』(1929)、『三枚ギニー金貨』(1938)などがある。1941年3月28日、ウーズ川に投身自殺。原因は少女時代からの強度の神経症の再発といわれている。

[佐藤宏子]

『『ヴァージニア・ウルフ著作集』全8巻(1976~1977・みすず書房)』『大沢実編『ヴァージニア・ウルフ』(1966・研究社)』『深沢俊著『ヴァージニア・ウルフ入門』(1982・北星堂)』『クウェンティン・ベル著、黒沢茂訳『ヴァージニア・ウルフ伝』全2巻(1976、1977・みすず書房)』

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