ウズムシ(読み)うずむし(英語表記)turbellarian

翻訳|turbellarian

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウズムシ」の意味・わかりやすい解説

ウズムシ
うずむし / 渦虫
turbellarian
free living flatworms

扁形(へんけい)動物渦虫綱に属する種類の総称。扁形動物門には渦虫類のほかに吸虫類と条虫類があるが、後二者の種類はいずれも寄生生活者であるのに対し、渦虫綱の種類はほとんど自由生活者であり、また体表に繊毛があって顕微鏡下ではそれが水中に渦を生じて運動するようにみえるので、名はそれに由来する。また、通称プラナリアとよばれるのは、動物実験などでもっともよく知られている種のナミウズムシDugesia japonica、やヨーロッパナミウズムシD. gonocephalaの旧属名がプラナリアPlanariaであったためである。

 この類は海産のものが大部分で、淡水や陸上にすむ種類もあり、生活の範囲は広い。体は柔らかく、体表に粘液を出し、扁平(へんぺい)のものが多いが、紐(ひも)状の形の種もある。水中では負の走光性のため、石の下などに隠れていることが多いが、ときには滑るようにはって移動し、泳ぐこともある。一見、環形動物のヒルに似ているが、よくみると環節がないので見分けられる。また、口が腹面の中央に開く種が多いのも特徴である。この類は内臓の諸器のうち、とくに消化器官系に特色があるので、腸の形で種類が分けられている。すなわち、腸のないもの(無腸目)、腸が1本の棒状のもの(棒腸目)、腸が大きく3岐しているもの(三岐腸目)、腸が多数に分岐しているもの(多岐腸目)に分類される。循環系および呼吸系器官がなく、肛門(こうもん)もないが、排出は柔組織内にある焔(ほのお)細胞から輸尿管によって体外に出される。神経系および感覚器官は、神経細胞の集合による簡単な脳と梯子(はしご)形神経系および1対または多数の色素眼をもつ。また一部には前端に1個の平衡胞をもつ種もある。この類の生殖は有性生殖と無性生殖の両方を行うものが多く、有性生殖は雌雄同体であるが、いわゆる交尾という形をとる多細胞動物の最初のものである。精子と卵はよく発達しており、卵黄腺(せん)をもち、複雑な卵をつくったり、交尾の際、直接相手の皮下に精子を注入する種もある。発生は直接発生と幼生時代を経る種とあり、多岐腸目の幼生はミュラー幼生ゲッテ幼生とよばれる浮遊性の変態幼形を経て親の形になる。無性生殖は分裂であり、二分裂または多分裂で、砕片生殖といわれ、多数の部分に分かれ、それぞれ1個体に回復する種もある。

 食性は肉食性であり、普通小形動物を食べるが、珪藻(けいそう)類も飲み込む。淡水産の種類はやや冷たい水中の石の下などにみられ、海産の種類も磯(いそ)の転石の下などで大小さまざまなヒラムシとよばれるものがみられる。また、海藻に付着している小形の種類や砂浜の砂中にすむものもあり、それらを洗った海水中から1ミリメートル前後の種が多くみいだされる。海中にプランクトンとしてすむ種類のなかには、体内に褐藻類や緑藻(単細胞)を共生させるものもあり、これらの種類は光があればかなり長期間餌(えさ)をとらなくても生活できる。陸産の種類のものはコウガイビルとよばれているものがほとんどで、大形のひも状で湿った暖かい地上でみられる。もっとも原始的な無腸目は原生動物の大形の繊毛虫類と類似することから、多細胞動物の起源を繊毛虫類から渦虫類の系統とする説の根拠とする学者もある。また、渦虫類の周辺にはナマコ(棘皮(きょくひ)動物)や腔腸(こうちょう)動物、環形動物との中間型を示す種も発見されており、動物系統論上注目されている。

[峯岸秀雄]


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改訂新版 世界大百科事典 「ウズムシ」の意味・わかりやすい解説

ウズムシ (渦虫)
turbellarian
free-living flatworm

渦虫綱に属する扁形動物の総称。ヒラムシプラナリアコウガイビルなどが含まれる。少数の例外を除いて,淡水,海水,湿地などで自由生活をする。体は背腹に扁平で軟らかく,紡錘形,ひも形,楕円形,葉状など。全体または一部が繊毛で覆われ,この繊毛の運動によって移動する。

 口はふつう体の腹面の前端か,中央よりやや前方にある。口に続く食道の部分の筋肉が変化して咽頭(いんとう)になり,餌をとるときはこれを体外に突出するが,その形態には簡単なものから複雑なものまである。腸管の形には単一の袋状(棒腸類),両側に多くの小さい膨らみをつけた細長い管状(異腸類),咽頭から前方に1本,後方に2本の主幹がのび,主幹から細かく枝分れした腸管をだす(三岐腸類),腸主幹より放射状に多くの腸枝をだし,さらに分岐して体の周縁に達する(多岐腸類)ものまで段階的に分化しているが,無腸類では腸管がなく,口から直接消化吸収できる多核質の柔組織に通じている。一般に肛門をもたない。呼吸は体表で行うので特別な呼吸器官はなく,栄養を分配するための循環系もない。排出は扁形動物特有の原腎管系によるが,無腸類にはなく,また海産の渦虫類では一般に退化している。感覚器としては棒腸類の下等な種類に眼点があるが,自由生活する大部分の種類では倒立色素杯型の単眼をもち,その数は2個から数百個に達する。神経系は脳を中心として放射状になっている。雌雄同体であるが,ふつう2匹が交接を行う。生殖器官は他の器官と比較して著しく複雑化していて,一般に多くの精巣と1~2個の卵巣をもっている。無腸類と多岐腸類とはふつうの卵の形の単一卵を産むが,他の類は複合卵(合成卵)をつくる。複合卵とは卵腺でつくられた卵細胞と卵黄腺でつくられた卵黄とがそれぞれの輸管を通って成卵腔に達し,1個の卵細胞と数個の卵黄細胞とが一塊になって周囲に卵殻をつくったものである。海産のものは単一卵からミュラー幼生Müller's larvaやその他のプロトロクラ幼生protrochula larvaを生じ,変態して成体となるが,淡水産と陸産のものは複合卵から直接子虫が生じ親になる。大部分の種類は自由生活をするが,他の動物体に内部あるいは外部寄生するものがある。再生力が強いので種々の実験に用いられる。世界に約3500種が知られている。なお,狭義にはナミウズムシ,ビワオオウズムシなどプラナリアと呼ばれる三岐腸類に属する種類を指す。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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