ウォルフ(Christa Wolf)(読み)うぉるふ(英語表記)Christa Wolf

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ウォルフ(Christa Wolf)
うぉるふ
Christa Wolf
(1929―2011)

ドイツの作家。ランツベルク(現、ポーランド領)の生まれ。ナチス政権崩壊後は旧東ドイツに育ち、1949年東ドイツの政党SED(ドイツ社会主義統一党)入党ライプツィヒ大学でマイヤーHans Mayer(1907―2001)に学んだ。文学上はアンナ・ゼーガースの影響が強い。理論家として出発、『モスクワ物語』(1961)で創作に転じ、東西分裂と東ドイツの現実を扱った『引き裂かれた空』(1963)は「ビターフェルトの道」を実践し社会主義の日常を描出したとして高く評価された。党中央委員候補に選ばれたが、『クリスタ・Tの追想』(1968)で一個人としての自己を再発見し、『幼年期構図』(1976)で国民の意識の空隙(くうげき)を歴史の問題として俎上(そじょう)に載せるに至って党中央の文化路線と決別、『どこにも居場所はない』(1979)、『カッサンドラ』(1983)で独自に文学の疎外の発生と歴史とのかかわりを追求した。ドイツ統一直後の『残るものは何か?』(1990)は東ドイツ時代のアリバイ証明だと批判されたが、『王女メデイア』(1996)を発表してその批判に応えた。

[保坂一夫]

『井上正蔵訳『引き裂かれた空』(1973・集英社)』『藤本淳雄訳『クリスタ・Tの追想』(1973・河出書房新社)』『保坂一夫訳『幼年期の構図』(1981・恒文社)』『保坂一夫・中込啓子訳『クリスタル・ヴォルフ選集』全7冊(1997~1998・恒文社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android