イーストアングリア(英語表記)East Anglia

改訂新版 世界大百科事典 「イーストアングリア」の意味・わかりやすい解説

イースト・アングリア
East Anglia

イギリス,イングランド東部の歴史的地方名。もとは中世のアングロ・サクソン七王国の一つ,イースト・アングリア王国の支配領域を指し,地名は〈東アングル族〉を意味する。北はウォッシュ湾から南はテムズ河口にまで及び,東は北海,西はフェンランド低地と接する広大な地域で,現在のノーフォーク州,サフォーク州を中心に,ケンブリッジシャー,エセックス両州の一部をも含む。地形はなだらかな波状地を呈し,ほぼ全域が氷河堆積物や沖積土におおわれる。こうした肥沃な土壌とやや乾燥した気候を利用して,大麦をはじめエンバク,ジャガイモ,テンサイなどの耕作農業および野菜,イチゴなどの市場園芸が盛んで,イギリスの穀倉地帯となっている。また北海沿岸にはグレートヤーマスなどの漁港や保養地が立地する。この地方が歴史上,統一性を有するのは,アングル族などが来住する5世紀後半以降であり,616年にはイースト・アングリア王国のレドワルド王ノーサンブリア王国を征服してブリタニア全土の支配者となり,王国の繁栄は頂点に達した。しかしその後はマーシア王国ウェセックス王国支配下におかれ,さらに9世紀中葉からはデーン人侵入を受けてデーンロー(デーン法施行)地域に編入されていった。中世後期からは牧羊を主とする農牧業地帯として発展し,この地方の中心都市ノリッジは,14~18世紀の間,毛織物工業で栄えた。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のイーストアングリアの言及

【イギリス】より

…そのうちチルターン丘陵,ウィールド丘陵などの石灰岩や白亜層の部分は急斜面を,ロンドン盆地やテムズ川上流地域などの粘土質の部分は河谷を形成し,典型的なケスタ地形の発達をみる。(10)イングランド東部平野 ケスタ地帯の延長部ではあるが,氷食を受けて波状地となったイースト・アングリア地域と,ウォッシュ湾岸の沖積平野で泥炭(ピート)とシルトでおおわれるフェンランド地域からなる。
[気候]
 イギリス諸島の気候は,その位置が中緯度の大陸西岸にあることから,偏西風とメキシコ湾流(北大西洋海流)の影響を受けて,典型的な西岸海洋性気候となる。…

【イングランド】より

…一方,低地にもドーバーの白亜崖で有名なノース・ダウンズ丘陵をはじめ,ソールズベリー,チルターン,コツウォルド,ヨークシャーの各丘陵が扇形に広がり,それらの間に粘土層の河谷が介在してケスタ地形を呈している。このため規模の大きな平野は,イースト・アングリア地方やフェンランド低地など東部で展開するにすぎない。気候は西岸海洋性気候に属するため温暖であり,一般に東部に比べて西部の方が夏冷涼,冬温和で年較差が小さい。…

【七王国】より

…5~9世紀にかけて,イングランドに渡来・定着したアングロ・サクソン人が形成した小部族王国。東南部のケント(ジュート人が建国),テムズ川下流を占めたエセックス,西部に発展したウェセックス,南部のサセックス(以上サクソン族が建国),東部のイースト・アングリア,中部のマーシア,北部のノーサンブリア(以上アングル族が建国)の7国をいう。これら諸国は先住のブリトン人と戦って征服をすすめる一方,相互の間でも覇権をめぐって抗争し,6世紀末にはエゼルベルフト(エセルバート)王(在位560‐616)治下のケントが有力になった。…

※「イーストアングリア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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