イレウス

デジタル大辞泉 「イレウス」の意味・読み・例文・類語

イレウス(Ilhéus)

ブラジル東部、バイーア州の都市。州都サルバドールの南約220キロメートルに位置し、大西洋に面する港湾をもつ。16世紀前半に建設。周辺はイタブナとともにカカオ栽培が盛んで、カカオの積出港となっている。イリェウス

イレウス(〈ラテン〉ileus)

腸閉塞ちょうへいそく

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内科学 第10版 「イレウス」の解説

イレウス(腸疾患)

概念
 腸内容の推進が高度に障害され腹部膨満,腹痛などの症状をきたすにいたった状態.腸閉塞ともいう.
分類・原因
 機序の上から機能的イレウスと機械的イレウスに分けられる(表8-5-23).
1)機能的イレウス:
器質的な通過障害がないのに腸内容の推進が高度に障害されたもの.大部分は麻痺性イレウスである.
a)麻痺性イレウス:種々の原因で腸の運動能が障害された結果起こる.長期臥床,中枢神経疾患,精神疾患,腹膜炎,術後,外傷後,全身性硬化症,偽性腸閉塞,Ogilvie症候群【⇨8-5-16)】などが原因となる.麦角アルカロイド,麻薬,抗コリン薬,向精神薬などの薬物も原因となる.
b)痙攣性イレウス:表8-5-23のような原因で腸が強く収縮し,強い腹痛と通過障害をきたす.まれにしかみられない.
c)先天性:Hirschsprung病【⇨8-5-1)】.
2)機械的イレウス(表8-5-23):
器質的疾患のため腸内容の推進が物理的に阻害されて起こる.原因疾患の部位から小腸イレウスと大腸イレウスに分けることも広く行われ,小腸イレウスでは癒着や内・外ヘルニア,大腸イレウスでは大腸癌が多い.
 a)単純性イレウス:機械的イレウスのうち,腸の高度の血流障害を伴っていないもの.多いのは腹部術後の癒着によるもの.ほかに外ヘルニアや内ヘルニア,子宮内膜症,胆囊炎や虫垂炎などの腹腔内炎症後,悪性腫瘍による通過障害,胆石性イレウス,異物性イレウス,腸回転異常,Crohn病,放射線照射後,高度の便秘など多くのものが原因となる.新生児では先天性の腸管閉鎖でみられる.
 b)複雑性(絞扼性)イレウス:機械的イレウスのうち,腸の血流障害を伴うもの.腹腔内癒着,外ヘルニアや内ヘルニアの陥嵌,腸重積,消化管軸捻症などが原因となり,重篤であり緊急の対処を要する.乳児の腸重積では注腸での治療も可能なことがある.
病態生理
 腸管に通過障害が発生するとそこより上流の消化管内に内容物がたまり,さらに上流から分泌された消化液も加わって圧力が高まり腸管が拡張する.このため腹部膨満,腹痛,嘔吐をきたす.さらには停滞に伴って腸内細菌が繁殖して血中へ菌や毒素が流出し(細菌移行),菌血症も起こす.一方,通過障害部位より下流では内容の停滞や腸管の拡張はみられない.腸内に多量の消化液が貯留した結果循環血漿量が減少し,ひいては血液量減少性ショックに至ることもある.複雑性イレウスでは,さらに症状が激しく,腸管壊死から穿孔,汎発性腹膜炎をきたしてエンドトキシンショックの側面も伴い,無治療では死に至る.
臨床症状
1)自覚症状:
機械的イレウスでは排便・排ガスの停止,腹痛,嘔吐,腹部膨満などの症状が急性ないし亜急性に発症する.単純性イレウスでの腹痛は発症当初は増悪,緩和を繰り返す疝痛だが進行すると持続性になってくる.複雑性イレウスでは当初から強い持続痛のことが多い.嘔吐の発生時期は閉塞の部位により,消化管の下部であるほど発生時期が遅くなる.吐物は胆汁をまじえ,時間がたつと糞臭を伴ってくる.麻痺性イレウスでは経過はより緩徐かつ軽度である.ほとんどの場合排便・排ガスが止まるが,腸重積や軸捻症では少量の血便がみられることがある.
2)他覚症状:
イレウスでは多かれ少なかれ鼓腸がみられる.機械的イレウスでは腸音が亢進して金属音を呈し,ときに視診で亢進した蠕動が確認できるが,救急処置で鎮痙薬を投与した後の診察ではそれらがはっきりしなくなることに注意する必要がある.単純性イレウスでは圧痛はあっても腹膜刺激症状を欠くが,複雑性イレウスでは自覚症状が強い上に腹膜刺激症状を伴ってくる.また,腸音も,複雑性イレウスでは進行すると逆に減弱していく.
検査
成績
 腹部単純X線写真が最も重要で,イレウスの存在診断と閉塞部位のおおまかな推定ができる(図8-5-32).臥位と立位で撮影するが,立位困難なときは側臥位でよい.閉塞部より上流の腸管が拡張し,ニボーの形成がみられる.腸管ガス像は,小腸では細かいKerckringひだ(小腸にみられる輪状のひだ構造,とくに上部小腸で目立つ)があるのに大腸ではそれがないのが区別のポイントになる.ただし,複雑性イレウスではニボーがはっきりしないこともある.麻痺性イレウスでは腸が全体に拡張する.
 腹部エコーやCT,MRIも非常に有用である.エコーでは腸液で満たされた小腸にKerckringひだがみえるキーボードサイン(keyboard sign)や,腸内容が前後に動くto-and-fro signがみられる.中等量以上の腹水が出現している場合は複雑性イレウスの可能性を考える.CTやMRIではイレウスの存在,閉塞部位や原因の同定,絞扼の有無なども評価可能である.
 イレウスでは通常の大腸内視鏡や注腸造影が行われることは少ないが,腸重積では注腸で特徴的なカニの爪状の所見で診断がはっきりするとともに治療にもなりうる.S状結腸軸捻では大腸内視鏡による整復が治療として行われる.21世紀になって小腸内視鏡が進歩し,ダブルバルーン内視鏡で小腸深部の観察が可能になり,イレウスでも術前診断や狭窄の内視鏡治療が大幅に可能になってきた.
 血液検査では,初期には白血球・血小板の増加,進行すると脱水に伴うHbやBUNの増加,KやC1の嘔吐や腸管内への喪失による低下,代謝性アルカローシスがみられる.絞扼性イレウスでは代謝性アシドーシスやCPK上昇もみられる.CRPなどの炎症反応は発症初期には上昇が確認できないので注意が必要である.
診断
 イレウスであることの診断,機能性か機械的かの診断,単純性か複雑性かの診断,原因の確定が必要である.
治療・経過・予後
 機能性イレウスではまずは必要に応じた対症療法(絶食補液,チューブによる減圧など)を行った上で原因に応じた処置を行う.機械的イレウスでも同様だが抗菌薬の全身投与が必要なことが多く,複雑性イレウスでないかの見極めが重要である.複雑性イレウスでは早急な対処が必要となる.[松橋信行]

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改訂新版 世界大百科事典 「イレウス」の意味・わかりやすい解説

イレウス
ileus[ラテン]

腸閉塞intestinal obstructionともいう。腸管の閉塞によって腸の内容物の輸送が障害される病気の総称。語源は腸の疝痛を意味するギリシア語eileōs。病気の原因は多様であるが,腹痛,吐き気,嘔吐,腹部の膨満,排ガスや排便の停止といった共通の症状を呈する。イレウスは原因によって,機械的イレウスと機能的イレウスに大別される。

機械的イレウスには,腸の血行が保たれている単純性イレウスと,腸間膜の血管がしめつけられるため腸の血行が障害される絞扼(こうやく)性イレウスがある。単純性イレウスは,先天性腸閉鎖や腸狭窄,鎖肛,腸の腫瘍,手術後の癒着,腸管内異物による閉塞などが原因となる。絞扼性イレウスには,癒着による腸管の絞扼,腸の軸捻転,ヘルニア嵌頓(かんとん),腸重積症などがあり,いずれも緊急に腸の血行障害を除かないと腸が腐ってしまい,危険である。俗にイレウスのことを腸捻転というが,実際に腸がねじれるのは絞扼性イレウスのうちの軸捻転で,老人にみられるS状結腸軸捻転と子どもの小腸軸捻転ぐらいである。機能的イレウスには麻痺イレウスと痙攣(けいれん)性イレウスがある。前者には,開腹手術後に起きる術後腸管麻痺や,腹膜炎,腹腔内出血などに伴う腸管麻痺が含まれる。後者は,心因性や,外傷,腸疾患による刺激で腸が強く収縮して起こるが,一時的であることが多い。
鼠径(そけい)ヘルニア →ヘルニア

閉塞の部位と原因によって症状に差がある。閉塞部が上位で胃に近いほど腹部膨満は軽く,吐き気や嘔吐の症状は早く出る。一般に吐物には黄色や緑色の胆汁が混じるが,閉塞部が胆汁の出口よりも上位の場合は胆汁を含まない。閉塞部が下位になるにしたがって腹部膨満は著しくなり,嘔吐の症状は遅れて出,吐物には便臭が混じる。このため,閉塞部が下位のイレウスを吐糞(とふん)症fecal vomitingということもある。腹部膨満は腸管内に液体やガスがたまるためで,閉塞部が下位であるほど,腹壁を通して拡張した腸管とその蠕動(ぜんどう)をみることができる。また打診をするとガスのため太鼓をたたくような音がし,レントゲン写真では小腸内のガスが半月状に写り,閉塞部位の診断や手術の決定に役立つ。腹痛は機械的イレウスでは周期的で,とくに絞扼性イレウスの場合は痛みも激しい。一方,麻痺性イレウスの場合の痛みは,その原因となっている病気による痛みがおもである。排ガス,排便の停止はイレウスに共通した症状であるが,初期には浣腸によって閉塞部以下の便が排出されることがある。病気が進行すると,長期の水分摂取不能に加え,頻回の嘔吐,腸管内容液や腹水の貯留によって,脱水と体液電解質の異常を起こし,放置すれば生命にかかわる。

入院して原因に応じた治療を受ける。まず輸液によって,脱水と電解質の異常を補正する。単純性イレウスや機能性イレウスの軽症の場合は,絶食をし,胃や腸に挿入したチューブから消化管内容物を吸引する一方,浣腸によって排ガス,排便を促すと,閉塞が解けることがある。しかし先天性腸閉塞や悪性腫瘍などが閉塞の原因となっている場合や,腹膜炎が腸管麻痺の原因の場合は,全身が衰弱しないうちに手術によって原因を除く必要がある。また腸重積症の初期は高圧浣腸で治ることも多いが,これ以外の絞扼性イレウスでは緊急に手術しなければならない。なお,開腹手術後の癒着性イレウスがイレウスの中で最もよくみられる。これを予防するには,開腹後は便通を整えるよう心がけることが大切である。
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百科事典マイペディア 「イレウス」の意味・わかりやすい解説

イレウス

腸閉塞

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栄養・生化学辞典 「イレウス」の解説

イレウス

 →腸閉塞

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のイレウスの言及

【カイチュウ(回虫)】より

…これらの症状は,幼虫が肺を通過してしまうと速やかに軽快する。成虫の寄生による回虫症の症状としては,腹痛,食欲不振または異常亢進,下痢などがみられ,多数寄生の場合にはイレウスをおこすことがある。また,胆管,膵管などに迷入して急性腹症の原因となり,胃に入って胃痙攣(けいれん)をおこし,さらにさかのぼって鼻腔,耳管などに迷入することもある。…

【腸管癒着症】より

…癒着が著しくなると,内容物の通過も悪くなり腹痛,吐き気,嘔吐の原因となる。これらは暴飲暴食などが誘因となって癒着部に腸閉塞(イレウス)をおこすためであり,腸閉塞の原因としてはこの腸管癒着が最も多い。このような腸閉塞は通常単純性イレウスと呼ばれるが,ときには腸管どうしや腸管と腹壁の間に強靱な索状物ができ,これが腸管をしめつける網の役目をして,絞扼(こうやく)性イレウスになることもある。…

【腹痛】より

…いずれにしても,腹膜炎発症後1~2時間のうちに手術をしないと生命にかかわることがあるので,早期の診断と治療が重要である。腹膜炎
[イレウス]
 激しい腹痛を伴う。腸の一部が圧迫されたり,ねじれたりして,内容物が通過不能となった状態で,腸閉塞,俗に腸捻転ともいう。…

※「イレウス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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