イラン大統領選(読み)いらんだいとうりょうせん

知恵蔵 「イラン大統領選」の解説

イラン大統領選

1978~79年のイスラム革命によって、イラン王制から共和制に移行。79年4月1日ホメイニ師を最高指導者とするイラン・イスラム共和国が樹立された。この時、国民投票によって三権分立を盛り込んだ新憲法が採択され、行政府の長である大統領にはバニサドルが就任した。その後、ラジャイ(81年)に続いて、ハメネイ(~89年)、ラフサンジャニ(~97年)、ハタミ(~2005年)が各2期ずつを務めている。05年には、保守強硬派のアフマディネジャドが大方の予想をくつがえし、大差(第2回投票)で第9期大統領に当選した。
イランは政教一致の下での民主主義を認めているが、実際に大統領選へ出馬できるのは数人程度。護憲評議会の承認が必要で、イスラム(シーア派)の理念に忠実な者しか立候補できない。護憲評議会は最高指導者が指名した聖職者6人と国会が選出した法学者6人で構成されており、現在の「最高指導者」体制に批判的な者やシーア派の教義に反する者は、事実上門前払いされるからだ。大統領は、この護憲評議会が選抜した候補者の中から、有権者(18歳以上)の直接選挙で過半数の票を獲得した者が選ばれる。該当者が出なかった場合は、1週間後に上位2名による決選投票が行われる。大統領の任期は4年で、連続の3選は禁じられている。
イスラム革命から30周年にあたる09年は、第10期大統領選挙の年。6月12日に第1回投票が実施される。5月20日、護憲評議会は立候補を申請した475人の中から、アフマディネジャド現大統領、ムサビ元首相、カルビ元国会議長、レザイ元革命防衛隊司令官の4人を選出した。選挙戦は、アフマディネジャド大統領とムサビ氏の保革対立軸に展開される見通しだ。現職アフマディネジャドが、最高指導者ハメネイ師の支持を得て一歩リードしているが、過激な発言で西側諸国の反発を招き、20%を超えるインフレと高い失業率をもたらしたことから、政権継続を不安に思う国民も少なくない。ムサビ氏は、首相就任時(81~89年)の経済手腕が高く評価されており、ハタミ元大統領の推薦も取り付けている。だが、同じ改革派のカルビ氏も立候補しているため、ムサビ氏が保守穏健派の票や現政権の批判票をどこまで獲得できるかが注目されている。なお、国際社会が懸念する核開発問題は、今回の選挙戦の争点になっていない。

(大迫秀樹 フリー編集者 / 2009年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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