イブンアルアラビー(英語表記)Ibn al-`Arabī

改訂新版 世界大百科事典 「イブンアルアラビー」の意味・わかりやすい解説

イブン・アルアラビー
Ibn al-`Arabī
生没年:1165-1240

イスラム神秘思想家。南スペインのムルシアに生まれ,北アフリカ,西アジアに宗教的遍歴生活を続けたのちダマスクスで没した。その存在論的認識哲学を骨格とした宇宙論的神智学は,彼以後のイスラム世界の精神的地貌を決定したといわれるほどに後世に深い影響を与えている。彼にとって,自然現象・啓示・精神現象の諸相は,すべて超越的唯一者〈神〉の自己開示の手段としての象徴として見据えられる。これらの象徴の認識と解釈の段階的深化を通じて,諸現象の存在の相は,あたかも光源を覆うベールが取り去られるように,より真相に近い姿を現してくる。それと同時に,認識もより高次のものへと上昇する。この方法による存在認識の徹底の極に,神との合一が達成される。しかしこの合一境は,個の消失を意味するのではなく,神的存在と個別的存在との根源的存在次元における連続性の,認識論的回復である。あらゆる認識次元を超越したこの存在認識から,宇宙生成の存在論的解釈が提起される。これがイブン・アルアラビーのワフダ・アルウジュードwaḥda al-wujūd(存在の単一性論)と呼ばれているものである。主著《メッカ啓示》《叡智台座》《天球の創造》。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のイブンアルアラビーの言及

【イスラム哲学】より

…この点,西欧の哲学が近世になって存在論と認識論の分裂を引き起こしているのと対照的である。 イスラム哲学における存在論・認識論・神智学の統合は,イブン・アルアラビーの思想において確立される。このような哲学的営みは,シーア派の世界で保存され,とくに十二イマーム派の神学がスフラワルディーの照明哲学やイブン・アルアラビーの神智学を摂取し,単なる護教論としての神学からアカデミックな哲学へと発展を遂げていく。…

※「イブンアルアラビー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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