イネ(稲)(読み)イネ

百科事典マイペディア 「イネ(稲)」の意味・わかりやすい解説

イネ(稲)【イネ】

日本では最も重要なイネ科の一年生作物。世界的にもコムギに次ぐ生産量がある。古くから栽培され,紀元前数千年には,すでにインド,中国等で栽培が行われていたという。栽培イネには,アジアイネアフリカイネがある。アフリカイネは西アフリカ,ニジェール川流域のごく限られた地域にしか栽培されていないため,イネといった場合,アジアイネを指すことがほとんどである。ここでもアジアイネを単にイネと呼ぶことにする。〔起源〕 インド〜東南アジアの熱帯地方には20数種のイネ属の野生種が自生する。現在のイネの起源については,1種の野生種より生じたとする単元説と,2種以上の交雑を経て栽培イネになったとする多元説がある。イネ栽培の発祥地は現在のところ,東南アジアの熱帯〜亜熱帯説が最も有力。そこから東アジア,西アジア,地中海沿岸,17世紀に新大陸へ伝わった。日本へは前1世紀ごろ北九州に渡来。以後次第に東進。〔分類と品種〕 イネの品種は非常に多く,日本で外米といわれ,米粒が大型で細長く砕けやすいインド型(インディカ米)と,丸く砕けにくくて粘りのある日本型(ジャポニカ米)に大別され,おのおのに(うるち)ともち(糯)がある。おもに水田に栽培される水稲とおもに畑に栽培される陸稲とがあるが,植物学的には同一。また早生品種(わせ)と晩生品種(おくて)がある。現在日本では,水稲日本型うるち米が全収穫量のほとんどを占めている。明治以後,品種改良により多くの品種が作られ,栽培限界が急速に北進し,北海道での栽培が可能になった。日本での品種は,古来から総計すれば2000に達するとみられるが,近年では,栽培される品種が少数化する傾向にある。〔生育と栽培〕 イネの栽培を稲作といい,北緯50°〜南緯35°で行われ,東南アジアが主産地。直接本田に種子をまく直まき栽培は,一貫した機械化が可能で米国などでは広く行われているが,日本では陸稲を除けば,まれである。日本の伝統的な水稲手植栽培においては,一般に春苗代(なわしろ)に種子をまき,約40日後に田植をする。田植に先立ち本田を耕起し元肥を施し,代掻(しろか)きを行う。なお従来は田植後数回,中耕除草が行われたが,除草剤進歩と中耕の効果が疑問視されたため,今日ではほとんど行われない。イネの茎は基部で多数に分かれ,分げつを生じる。田植後約30日で茎の先端の生長点が分化し,幼穂ができ,さらに約30日後に出穂する。出穂前25日くらいに硫安などの窒素肥料を追肥する。穂には100個内外の小花がつく。おしべ6本,めしべ1本,柱頭は羽毛状で二つに分かれる。出穂にあたっては,午前中に開花,自家受粉する。種子は開花後30〜40日で完熟。〔病虫害〕 イネの病気の大部分は糸状菌の寄生による。いもち(稲熱)病,萎縮病,菌核病など数十種が知られているが,特に全国的に被害の大きいのは,いもち病である。これらの病気に対しては,抵抗性の強い品種の選択,農薬による適切な防除,ウンカ類などの媒介昆虫の駆除が必要。イネの害虫は,特に被害の大きいニカメイチュウ,サンカメイチュウ,ウンカ類のほか,イネドロオイムシ,イネハモグリバエ,イネカメムシ,イネヨトウなど120種以上が知られている。いずれも適当な殺虫剤により駆除が可能。→
→関連項目イネゲノム解析研究早生

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イネ(稲)」の意味・わかりやすい解説

イネ(稲)
イネ
Oryza sativa

イネ科の一年草。日本をはじめアジア諸国で広く栽培されている穀物で,全世界の栽培面積はムギ類に次いで第2位といわれ,また世界総人口の半分はを主食にしている。原産地については諸説があり正確には不明だが,インドまたは東南アジアの一角とされ,前7000~前5000年にすでに中国で栽培されていたという。草丈は 1m内外に達し,根もとで盛んに枝分かれする。葉は広い線形で先端はしだいに細まり,長さ約 30cm。基部は葉鞘となって長く茎をいだく。8~9月にかけて,茎の先に円錐花序を出し,分枝して多数の小穂をつける。小穂は 1花からなり,外花穎と内花穎はいずれも船形で,いわゆる籾殻(→)となる。芒(のぎ)は品種により長いものや欠くものもある。6本のおしべと 1本のめしべがあり,熟して穎に包まれたまま穎果(→玄米)を生じる。現在世界で栽培されているイネは大別して,実が細長く粘り気の少ないインド型米(→インディカ米 O.sativa var. indica。いわゆる外来型)と,実が短い楕円形でつやがあり粘り気の多い日本型米(→ジャポニカ米 O.sativa var. japonica)とがあり,日本では日本型が,日本以外ではインド型が通常栽培される。日本型のイネをデンプンの性質によって大別すると,粘り気が多くてにするもち米と,普通の粳米(うるちまい)とがある。また水田に適した水稲と,畑作に適した陸稲(おかぼ)があるが,陸稲は全国稲作面積のわずか 0.4%程度である。茎を乾燥させたものがわらで,縄,むしろ,その他のわら細工をつくる。(→稲作文化

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