イチビ(読み)いちび

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イチビ」の意味・わかりやすい解説

イチビ
いちび
[学] Abutilon theophrasti Medik.
Abutilon avicennae Gaertn.

アオイ科(APG分類:アオイ科)の一年草ボウマキリアサ(桐麻)ともいう。中国名は莔麻(ぼうま)。茎は高さ約1.5メートル、葉は、心臓形で先はとがり、長さ10~15センチメートル、鋸歯(きょし)があり、互生する。夏から秋にかけて茎上部の葉腋(ようえき)に黄色の5弁花を開く。果実は輪状に十数室に分かれ、各室に種子が3個ほど入る。原産地はインド。日本には古い時代に中国から渡来したとされる。茎から靭皮(じんぴ)繊維をとるために栽培されたが、現在はほとんど栽培されず、荒れ地で野生化している。栽培は容易で、春に種を播(ま)き、3~4か月で成熟したところを抜き取り、乾かして葉を落とし、水に浸して発酵させて繊維をとる。栽培品種として明確に分類されてはいないが、茎の色によって白木(しらき)種と青木(あおき)種とに分けられる。白木種のほうが収量、質ともによい。繊維は粗くもろいので、単独で用いることはせず、ロープや麻袋をつくる際、コウマ(黄麻)に30%ほど混ぜて用いる。屑(くず)繊維は紙の原料とする。

星川清親 2020年4月17日]

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改訂新版 世界大百科事典 「イチビ」の意味・わかりやすい解説

イチビ
China jute
Abutilon avicennae Gaertn.

茎から靱皮繊維を採るアオイ科の一年草で,ボウマ(莔麻)とも呼ぶ。また葉がキリの葉に似るところからキリアサ(桐麻)の名もある。インド原産で,日本には古い時代に中国から渡来したとされる。近年,栽培はほとんどされず,野生化したものが荒地に自生している。葉は大きな心臓形で先がとがり,柄が長く茎に互生する。茎は高さ1.5mほどで,上部の葉の付け根に,夏から秋にかけて黄色の5弁花を咲かせる。果実は輪状に十数室に分かれ,普通各室に3個の種子がはいる。温暖な土地なら栽培は容易で,春に種子をまいて3~4ヵ月間で収穫する。成熟したら抜き取って乾かし,水に浸して腐敗・発酵させて,茎の表皮の下の靱皮繊維を採る。繊維は粗でもろく,ほとんど単独では使わない。ジュート(コウマ)の代用として,ジュートに30%程度混ぜてロープや麻袋をつくる。屑(くず)繊維は紙の原料とする。また茎や葉は燃料に利用される。
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百科事典マイペディア 「イチビ」の意味・わかりやすい解説

イチビ

【ぼう】麻(ぼうま)とも。インド原産といわれるアオイ科の一年草。全草に細毛が密生し,茎は1.5m内外。葉は心臓形で互生。夏〜秋,黄色の小花をつける。茎の表皮の下の靭皮繊維をとるが,繊維は他の麻類に劣り,ジュートの代用とされる。古く日本へ渡来したが,現在あまり栽培されず,野生化している。
→関連項目繊維作物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イチビ」の意味・わかりやすい解説

イチビ
Abutilon avicennae

アオイ科の大型一年草。西アジアからインドにかけての原産で,繊維をとるために中国を経て古く日本に渡来した。茎は直立し,高さ 1.5mにもなり,ハート形の大きな葉を長い柄の先に互生する。茎から白色でつやのある繊維 (天津ジュートという) がとれるので一時は栽培されたが,現在ではほとんど栽培されず,野生化したものを暖地でみかける。

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