イシサンゴ(読み)いしさんご(英語表記)stony coral

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イシサンゴ」の意味・わかりやすい解説

イシサンゴ
いしさんご / 石珊瑚
stony coral
scleractinian coral
madreporarian coral

腔腸(こうちょう)動物門花虫綱六放サンゴ亜綱イシサンゴ目に属する海産動物の総称。世界中の海洋に分布し、海底に着生する動物群であるが、種数、量ともに熱帯および亜熱帯の浅海に多くみられる。この海域では、ある種のイシサンゴ類によりサンゴ礁が形成されている。

[内田紘臣]

形態

多くの種が群体をつくり、ポリプはそれぞれ共肉で連なっているが、群体をつくらない単体の種類も少なくない。各ポリプは基本的には同じ亜綱のイソギンチャク類のポリプと同じであるが、イシサンゴ類は例外なく、外胚葉(がいはいよう)性の造骨細胞から分泌される石灰質の骨格をもつことが大きな特徴の一つである。骨格はところどころに莢(きょう)とよばれる凹部をもち、そこにそれぞれ1個のポリプが収まる。ポリプはイソギンチャク類と同様に6を基本とする隔膜mesenteryの対をなし、ポリプが成長するにしたがって、隔膜対の数は6+6+12+24+……と増加するが、ミドリイシAcroporaや、アワサンゴ属AlveoporaハナヤサイサンゴPociloporaハマサンゴPoritesでは6対までしか発達しない。また、ハナガササンゴGonioporaは12対までしか発達しない。隔膜の構造はイソギンチャク類とまったく同じであるが、隔膜糸にホロトリックholotrichとよばれる巨大な刺胞をもっている。イシサンゴ類は、イソギンチャクやほかの六放サンゴ類がもつ管溝を欠くので、方向隔膜によってのみポリプの方向がわかる。隣り合った2枚の隔膜の間に1本の触手が出るのはイソギンチャクと同じであるが、さらにそこに1枚の石灰質の板である隔壁septumが形成される。イソギンチャク類に比べて筋肉系の発達は悪い。

 単体の種では、その骨格の形状は半球状、皿状、逆円錐(えんすい)状、円筒状、楔(くさび)状などとなり、その大きさも1センチメートル角ぐらいの小さいものから、クサビライシのように長径20センチメートルに達するものがある。一方、群体を形成する種では、塊状、球状、平板状、角(つの)状、樹状、被覆状、葉状などさまざまな形状の骨格を形成するが、同じ種でも環境の違いによって、形状が変化することが知られている。群体の大きさは種あるいは個体によってさまざまであるが、ミドリイシのなかには畳2畳分ほどのテーブル状に広がるものがあり、ハマサンゴ類のなかにも直径3メートル以上の塊状群体になるものがある。

[内田紘臣]

分布

イシサンゴ類は中生代三畳紀に出現して現代に至っているが、硬い骨格をもつことから化石としてよく出土する。現生種は約200属、2000種が知られていて、すべて海産で、南北両極地域から赤道直下までの海域から知られ、生息深度も潮間帯から約6000メートルの深海にまで及ぶ。これらの種は生態的に二つのグループに分けることができる。一方は暖海の比較的浅い所に産し、サンゴ礁形成に参加するグループで、これらを造礁サンゴhermatypic coralsとよぶ。他方は暖海や寒海の区別なく、比較的深い所に産するグループで、これらを非造礁サンゴahermatypic coralsまたは深海サンゴdeep-sea coralsとよぶ。

 造礁サンゴは潮間帯より90メートルまでの深さに分布するが、礁をつくるほど分布するのは45メートルまでで、発達したサンゴ礁はさらに浅く、約30メートル以浅にだけみられる。非造礁サンゴは約6000メートルの深海にもみられるが、ほとんどの種は約180~550メートルの範囲にみられ、少数の種が46~90メートルにも分布し、暖海では90メートル以浅に分布する造礁サンゴと混生し、イシサンゴ類が海面まで連続して分布する。造礁サンゴの活発な成長には18.5℃以上の水温が必要であり、成長の最適水温は25~29℃である。造礁サンゴの大部分のものは11℃以下で死亡し、16℃以下では餌(えさ)をとらなくなる。また、水温が36℃以上になると死亡する。非造礁サンゴの生息水温は2.4~20℃の間であるが、もっとも種数の多い水温は5~10℃である。造礁サンゴの最適塩分濃度は3.6%である。

[内田紘臣]

生活史

イシサンゴ類の多くは雌雄異体であるが、雌雄同体の種もある。隔膜に生殖巣が発達する。多くの種は卵胎生(らんたいせい)で、卵の受精から発生は母体の胃腔内で進み、プラヌラ幼生になって初めて母体の口から海中へ泳ぎ出るのが通例である。浅海性の種の、受精からプラヌラ幼生の遊泳は月齢に関係するものが多い。プラヌラ幼生は2~3日から数週間の遊泳ののちに着底し、2~3日の間に6対の隔膜と第1環列の隔壁と触手を発達させる。それ以後、隔膜、隔壁、触手を増やしてポリプは大きくなるが、群体をつくる種ではこのポリプが無性生殖を繰り返す。無性生殖には、口盤内分裂(多くの種類)、口盤外分裂(キクメイシ科の数属、ミドリイシ属、イボヤギ属など)、横分裂(クサビライシ属)の3型がある。横分裂による無性生殖では単体の個体を生じる。

[内田紘臣]

生態

イシサンゴ類は、触手によって小動物を捕獲して餌(えさ)とするが、造礁サンゴではその組織中に褐虫藻zooxanthellaとよばれる単細胞藻類が共生し、この藻は光合成によってイシサンゴ類に酸素と栄養分を与えている。造礁サンゴの褐色や赤色、緑色などはこの共生藻の色によっている。群体の成長は種によって著しく異なるが、キクメイシ属のような緻密(ちみつ)な骨格をつくる種では1年間に直径9ミリメートル、高さ5ミリメートルほど成長し、ミドリイシ属のような多孔性の骨格をつくる種では直径4センチメートル、高さ2.5センチメートルほど成長する。

 造礁サンゴは、日本では太平洋沿岸では房総半島、日本海沿岸では能登(のと)半島が北限で、南にいくほど豊富になり、南西諸島や小笠原(おがさわら)諸島ではサンゴ礁を発達させる。一方、非造礁サンゴは日本各地の500メートル以浅の沿岸から多くの種が知られているが、南日本にはイボヤギのように潮間帯にも生息する種がある。イシサンゴ類とともにみられる動物は多く、カンザシゴカイ類、橈脚(とうきゃく)類、サンゴヤドリガニ類、サンゴガニ類、ホシムシ類、スズメダイ類などが、生きたイシサンゴ類とともに生活している。そのほか、多くの動植物がイシサンゴの骨格上や内部からみられる。また、イシサンゴ類を食害する動物には、オニヒトデやチョウチョウウオ類、ブダイ類がある。また、イシサンゴ類がつくるサンゴ礁は、多くのサンゴ礁生物の生息場所となり、さらに多くの海産動物の幼生や稚魚のすみ場所となっている。

[内田紘臣]

分類

イシサンゴ類は、(1)隔壁が痕跡(こんせき)的か薄片状でその中の石灰蒴柱(さくちゅう)trabeculaeの数が少なく単純なムカシサンゴ亜目Astrocoeniida、(2)隔壁がよく発達し、その縁(ふち)が数珠玉(じゅずだま)状あるいは鋸歯(きょし)状で、隔壁に穴があいているクサビライシ亜目Fungiida、(3)隔壁が発達して穴を欠き、縁が鋸歯状のキクメイシ亜目Faviida、(4)隔壁がよく発達し、縁は滑らかで隔壁に穴のないチョウジガイ亜目Caryophylliida、(5)隔壁がよく発達して二次的に肥厚し、不規則な穴をもち、縁は滑らかであるかまたは不規則に数珠玉状になるキサンゴ亜目Dendrophylliidaの五つの亜目に分類される。

 ムカシサンゴ亜目には、ヤサイサンゴ科のハナヤサイサンゴ、トゲサンゴ属Seriatopora、ショウガサンゴ属Stylophoraや、ミドリイシ科のミドリイシ、アナサンゴ属Astreopora、コモンサンゴ属Montiporaなどがある。クサビライシ亜目には、クサビライシ科のクサビライシ属Fungia、カワラサンゴ属Lithophyllonや、ハマサンゴ科のハマサンゴ、アワサンゴ、ハナガササンゴなどが含まれる。キクメイシ亜目には、キクメイシ科のキクメイシ属Favia、カメノコキクメイシ属Favites、ノウサンゴ属Platygyra、イボサンゴ属Hydnophoraや、ビワガライシ科のビワガライシ属Madrepora、アザミサンゴ属Galaxeaや、オオトゲサンゴ科のハナガタサンゴ属Lobophylliaや、ウミバラ科のウミバラ属Pectiniaなどが含まれる。チョウジガイ亜目には、チョウジガイ科のチョウジガイ属Caryophyllia、ナガレハナサンゴ属Euphylliaや、センスガイ科のセンスガイ属Flabellumなどが含まれる。キサンゴ亜目には、キサンゴ科のハナタテサンゴ属Balanophyllia、ムツサンゴ属Rhizopsammia、キサンゴ属Dendrophyllia、イボヤギ属Tubastrea、スリバチサンゴ属Turbinariaなどが含まれる。

[内田紘臣]

人間生活との関係

化石となって地中に堆積(たいせき)したイシサンゴ類の骨格は、石灰岩として採掘される。現生のイシサンゴ類は、紀伊半島や四国南岸でかつては海から採取し、焼いて生石灰とし、漆食(しっくい)の原料としたが、近年はほとんど行われていない。沖縄地方では、塊状になるキクメイシやハマサンゴの骨格を家屋の柱の礎石としたり、積み重ねて石垣にしている。また、南方のサンゴ礁の発達する地方では、サンゴ礁が漁業や船舶航行の障害になるという理由から、これを破壊したり、浚渫(しゅんせつ)したりすることがある。

[内田紘臣]

『生物学御研究所編『相模湾産ヒドロ珊瑚類および石珊瑚類』(1968・丸善)』『阿部襄著『パラオの海とサンゴ礁』(1969・牧書店)』


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改訂新版 世界大百科事典 「イシサンゴ」の意味・わかりやすい解説

イシサンゴ

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のイシサンゴの言及

【腔腸動物】より

…下端は多少広くなって足盤(そくばん)になり,他物に付着しているが,移動できるものもある。ヒドラやイソギンチャクなどは単体であるが,イシサンゴ類やヤギ類では多くのポリプが集まって大きな群体をつくっている。触手には刺胞という腔腸動物特有の武器が散在している。…

【造礁サンゴ(造礁珊瑚)】より

…群体性のイシサンゴ類を主体にし,その他の腔腸動物とともにサンゴ礁を形成する動物の総称。腔腸動物花虫綱六放サンゴ亜綱のイシサンゴ目に属する種類が大部分で,そのほかに八放サンゴ亜綱に含まれるクダサンゴやアオサンゴ,さらにヒドロ虫綱のイタミレポラなども含まれる。…

※「イシサンゴ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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