イエバエ(読み)いえばえ(英語表記)house fly

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イエバエ」の意味・わかりやすい解説

イエバエ
いえばえ / 家蠅
house fly
[学] Musca domestica

昆虫双翅(そうし)目環縫亜目イエバエ科に属する昆虫。世界中の人間生活の環境にもっとも普通にみられるハエで、体長4~8ミリメートル。複眼雌雄とも離れているが、雄はその幅がやや狭い。胸背に4本の黒色の縦条があり、腹部第2、第3節は黄色である。前胸側板に毛が生えていることにより、イエバエ属の他種から容易に区別される。雄の複眼間の幅と腹部の斑紋(はんもん)には地理的な個体変異があり、寒い地方では複眼の幅が広く、体色が黒色を帯びる。これらの変異や、人間生活の環境で生活する性質の発達の違いから、次の五つの亜種細分類される。アフリカに分布するM. domestica callevaM. domestica curviforcepsやヨーロッパに分布するM. domestica domesticaやインドに分布するM. domestica nebroのほか、日本を含む世界中の都市や農村には、もっとも高度に害虫化したM. domestica vicinaが分布している。

 日本のイエバエは、家屋内に侵入して生活する性質が強く、産卵性で、幼虫ウジ)は家畜の糞(ふん)やごみためなどから発生する。都市ではごみ処理場(たとえば東京湾の夢の島など)や農村や郊外の養豚場や養鶏場などで大発生し、しばしば社会問題となることがある。成虫早春から晩秋までみられ、冬でも暖かい場所では活動がみられる。卵から成虫までの発育日数は約10日である。

 イエバエ属Muscaのハエは、ユーラシア大陸を中心に多くの種がみられるが、いずれも動物の糞を発生源としている。ウスイロイエバエM. conducensノイエバエM. herveiの成虫は家畜の目や傷口にたかり、涙や血液をなめて家畜の病気を媒介する。フタスジイエバエM. sorbensは、アフリカやアジアの熱帯地域に多く、幼虫は人糞に発生し、成虫はヒトや家畜の目や鼻、口、傷口などに頻繁にたかり、ヒトにはトラコーマなどの眼病を媒介する。

倉橋 弘]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「イエバエ」の意味・わかりやすい解説

イエバエ
house fly
Musca domestica

双翅目イエバエ科の昆虫の代表種。家の中にいるハエの意。人間の生活環境に適応し,住みついたハエで,世界中ヒトの住んでいるところにはどこでも見られる。成虫は体長5~6mm,胸背に4本の黒縦線をもつ。腹部背面に黄色斑があるが,この面積は,気温の高いところのものほど広い傾向がある。おもな発生源は,ごみ処理場,鶏舎,豚舎などである。雌成虫は1回に約50個の白色の卵を産む。卵は適温(25~27℃)で約24時間後に孵化(ふか),幼虫期間は約1週間,さなぎの期間は3~4日で,約10日で卵から成虫となる。オオイエバエMuscina stabulansは,イエバエよりやや大きく,小楯板と腿節の先端部が赤褐色を呈する。発生源はイエバエとほぼ同じであるが,とくに豚舎と鶏舎での発生が多い。成虫は早春から晩秋まで出現する。幼虫はイエバエ,オオイエバエとも乳白色,いわゆるうじ状で,尾端の後方気門の構造が異なる。イエバエでは最近各種の殺虫剤に対する抵抗性の強い系統が出現し,各地で問題となっている。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イエバエ」の意味・わかりやすい解説

イエバエ
Musca domestica; housefly

双翅目イエバエ科。体長6~8mm。複眼は赤褐色。胸部は黒色で,背面には灰褐粉による5本の縦条がある。腹部は中央に顕著な黒色の縦条があり,後方ではその両側にもそれぞれ1縦条がある。基部両側は橙黄色。翅は透明で,基部はやや黄色を帯びる。屋内にすむ最も普通なハエで,成虫は汚物に飛来して多くの病原菌を伝播する。卵は生ごみ,畜舎の床,堆肥などに産みつけられ,幼虫はこれを食べて育ち,地中で蛹化する。一年を通じてみられ,成虫で越冬する。全世界に分布するが,日本産のものは雄の複眼間隔がヨーロッパ産のものより狭く,亜種 M. d. vicinaとされる。近縁のノイエバエ M. herveiは本種に似るが,雄の複眼が相接し,腹部腹板は黒色で橙黄部がない。日本全土の牧場に普通で,成虫は家畜の体に集り,幼虫は畜糞に発生する。ほかにクロイエバエ M. bezziが日本全土の牧場に普通にみられる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「イエバエ」の意味・わかりやすい解説

イエバエ

双翅(そうし)目イエバエ科の昆虫の1種。体長10mm内外。ほぼ全世界に分布。各種の伝染病の媒介をする衛生害虫。幼虫は人糞(じんぷん),家畜糞,ごみため,便所などに発生,浅い土中で蛹化(ようか)する。成虫は適温であれば周年発生。成虫も汚物を好み,好んで屋内に飛来する。イエバエ科はほかにオオイエバエ,クロイエバエなどが代表種で,多くの種を含む。
→関連項目ハエ(蠅)

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android