アーキグラム(読み)あーきぐらむ(英語表記)Archigram

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アーキグラム」の意味・わかりやすい解説

アーキグラム
あーきぐらむ
Archigram

イギリス建築家集団。ウォーレン・チョークWarren Chalk(1927―1988)、ピーター・クックPeter Cook(1936― )、ロン・ヘロンRon Herron(1930―1994)、デニス・クロンプトンDennis Crompton(1935― )、デビッド・グリーンDavid Greene(1937― )、マイケル・ウェブMichael Webb(1937― )の6人のメンバーからなる。

 1961年5月に事務所の創立とともに雑誌『アーキグラム』Archigramを創刊した。1号と2号は中心的人物であるクックと詩人であり建築家のグリーンが制作し、1963年の3号から6人のメンバーが参加。アーキグラムは造語で、テレグラム(電報)のように、通常の雑誌よりも早い情報伝達のイメージをもたせている。アーキグラムは「建築界のビートルズ」ともよばれた。保守的な傾向の強いイギリスにあって、20代後半から30代前半の若者で構成されたアーキグラムは雑誌『アーキグラム』を通して、実作もないままに世界に発信し、同時代の建築家に多大な影響を与えた。誌面には明るいポップな色彩を用い、SFやコミックの表現を大胆に取り込み、建築の概念を拡張した。たとえば、4号の特集「ズーム」では、コミックを使い、建築にサブカルチャー的な感覚を導入している。とりわけ重要なのは、未来的な都市計画で、1964年、ヘロンは「ウォーキング・シティ」プロジェクトを、クックは「プラグ・イン・シティ」を発表した。

 「ウォーキング・シティ」は歩く都市である。巨大な昆虫のような都市が群れになって砂漠海洋を移動するドローイングが描かれた。1960年代に注目された動く建築の概念を都市に導入している。「プラグ・イン・シティ」は、ユニット化された空間が電気製品のコンセントのように差し込み式になった都市である。これは同時期の日本で活躍したメタボリズム・グループと同じイメージを共有している。ユニットの交換可能性は、モントリオール・タワー計画(1963)にも認められる。ほかにも、複雑なネットワークをもつ「コンピュータ・シティ」(1964)、巨大なマストを中心に伸縮する「ブロウ・アウト・ビレッジ」(1966)、サーカスのように簡単に設置される「インスタント・シティ」(1969)などを提案した。彼らのドローイングは、1960年代における未来都市の明るいイメージをよく表していると同時に、ハイテク建築のイメージを先取りしていた。

 雑誌『アーキグラム』は9号(1970)まで刊行された。最終号の特集は庭師の雑記帳であり、植物の種が付録だった。その後アーキグラムは、モンテカルロのコンペに勝つが、コンペ案は結局実現せず、1976年に解散した。同年クックはロンドンのAAスクール(Architectural Association School)の学生クリスティン・ホーリーChristine Hawley(1949― )と共同の事務所を開始。彼女の参加により、クックの機械的なイメージは有機的なデザインに変容した。一方でクックはロンドン大学バートレット校教授を務め、建築教育に取り組み、実作はそれほど多くない。その他のメンバーについては、1981年、ヘロンは息子とへロン・アソシエーツ設立。イマジネーション社の改築(1989、ロンドン)などを手がけ、風の塔(1992、富山県)など日本にも作品を残している。ウェブはアメリカに移住し、ニューヨークのクーパー・ユニオンやコロンビア大学で教鞭(きょうべん)をとる。1994年には、アーキグラムの回顧展が開催され、彼らは歴史的な存在になろうとしている。

[五十嵐太郎]

『ピーター・クック著、相田武文ほか訳『建築――行動と計画』(1971・美術出版社)』『アーキグラム編、浜田邦裕訳『アーキグラム』(1999・鹿島出版会)』『Archigram (1994, Centre Georges Pompidou, Paris)』『Peter Cook ed.Archigram (1999, Princeton Architectural Press, New York)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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