アントラセン

化学辞典 第2版 「アントラセン」の解説

アントラセン
アントラセン
anthracene

C14H10(178.3).石炭タールアントラセン油留分中に含まれ,工業的にはこれから分離,精製される.実験室的には,アントラキノンを還元するか,塩化ベンジル2分子を塩化アルミニウム触媒として縮合させるなどの方法によって合成できる.青色の蛍光をもつ無色結晶.融点216 ℃,沸点340 ℃.1.25.ベンゼントルエンクロロホルムなどに溶け,ピクリン酸と付加化合物(融点138 ℃ の赤色結晶)をつくる.酸化すればアントラキノンを,還元すれば9,10-ジヒドロアントラセンを生じる.アリザリン,そのほかの染料製造の原料となる.UV光(310~375 nm)を照射すると,2分子が9位どうしで結合したアントラセン二量体が得られる.合成染料,カーボンブラック原料に用いられる.[CAS 120-12-7][別用語参照]アクリルアルデヒド

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アントラセン」の意味・わかりやすい解説

アントラセン
あんとらせん
anthracene

代表的な三環式芳香族炭化水素。紫の蛍光を発する無色板状結晶。

 工業的にはコールタールの高沸点留分(アントラセン油)からフェナントレンカルバゾールとともに得られる。異性体のフェナントレンよりも反応性が大きく、9、10位での付加反応や置換反応がおこりやすい。たとえばニトロ化、ハロゲン化もこの位置におこり、付加体と置換体の混合物を与える。無水マレイン酸とのジエン合成も9、10位でおこる。また光照射で二量体(パラアントラセン)を与える反応が古くから知られている。還元によって容易に9,10-ジヒドロアントラセンを生成する。アントラセンの接触空気酸化はアントラキノンの工業的製造法であり、アントラキノン系染料(アリザリン、インダンスレンなど)の合成原料となる。

[向井利夫]


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百科事典マイペディア 「アントラセン」の意味・わかりやすい解説

アントラセン

無色針状結晶。融点216.2℃,沸点342℃。水に不溶,有機溶媒に可溶。酸化すればアントラキノンとなる。コールタールのアントラセン油から得られる。アリザリンなどのアントラキノン系染料,カーボンブラック,なめし剤などの原料や防虫剤としての用途がある。(図)
→関連項目染料タール染料

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アントラセン」の意味・わかりやすい解説

アントラセン
anthracene

昇華性の結晶。融点 218℃。コールタールから見出された縮合環式炭化水素。水に不溶,アルコール,エーテル,ベンゼンなどの溶媒にかなり溶ける。誘導体にアントラキノン,アリザリンなどがある。染料原料として使用される。

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デジタル大辞泉 「アントラセン」の意味・読み・例文・類語

アントラセン(〈フランス〉anthracène)

3個のベンゼン環が直線状に縮合した芳香族炭化水素アセン類の一。紫色蛍光を発する無色針状の結晶。アントラキノンの原料。分子式C14H10 アントラセン環

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精選版 日本国語大辞典 「アントラセン」の意味・読み・例文・類語

アントラセン

〘名〙 (anthracène) 芳香族炭化水素の一つ。無色の板状結晶。コールタールなどから得られる。アリザリンなどの染料の原料。

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世界大百科事典 第2版 「アントラセン」の意味・わかりやすい解説

アントラセン【anthracene】

三つの環から成る芳香族炭化水素の一つ。1833年にJ.B.A.デュマがコールタール中から単離したもので,ギリシア語石炭を意味するanthrasに起源出所を示す接尾辞eneをつけて命名された。純品は,エチルアルコールから再結晶したものは板状結晶,ベンゼンから再結晶したものは針状結晶で,いずれも無色の結晶であるが紫色の蛍光を有する。融点216.2℃,沸点342℃,水には溶けず,エチルアルコール,メチルアルコール,ベンゼン,クロロホルムのそれぞれに同じ程度溶ける。

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