アングロサクソン人(読み)アングロサクソンじん(英語表記)Anglo-Saxons

改訂新版 世界大百科事典 「アングロサクソン人」の意味・わかりやすい解説

アングロ・サクソン人 (アングロサクソンじん)
Anglo-Saxons

今日のイギリス人の根幹をなす民族。人種的にはコーカソイド白色人種)の北方系に属し,長身白色の皮膚,碧眼,金髪などの肉体的特徴をもつ。言語学的にはインド・ヨーロッパ語族の西方系の一派のチュートン語族(ゲルマン民族)に属し,低地ドイツ語からでた英語を語る。北西ドイツを原住地としたサクソン人,ユトランド半島基部に住んだアングル人,同半島に居住したジュート人などいくつかの部族の混成体。ゲルマン民族大移動の一環として,5~6世紀に原住地からブリタニアの島に移動し,先住民族ブリトン人を駆逐または支配して現在のイングランド(〈アングル人の地〉の意味)の地を占拠した。はじめ7~10の小王国に分立して争ったが,9世紀ころから次第に一つのイングランド王国にまとまった。初期の社会はすでに明確な階級社会の段階にあり,大土地所有者である王・貴族と,従属的農民層からなり,ほかにかなり多数の奴隷も存在したが,半面なお〈目には目を〉の血の復讐を社会正義の基本となす氏族制的性格をもとどめていた。宗教も他のゲルマン諸族と共通の自然崇拝的多神教で,ウォードゥン(主神,軍神,商業の神),ズーノル雷神),フリッグ(結婚・家庭の神)などの諸神を信仰の対象とした。8世紀ころ成文化されたといわれるその最古の長編叙事詩《ベーオウルフ》には,現実感覚にすぐれ,沈鬱,重厚,運命を甘受する初期の雄渾な民族精神がよくあらわれている。彼らは6世紀末にローマ教皇グレゴリウス1世の派遣した修道士アウグスティヌスによってキリスト教に改宗し,それとともに西ヨーロッパのラテン的文化圏に編入されるにいたった。以後アングロ・サクソン人の歩みはイギリスの歴史に重なり,近代以降は北アメリカ,アフリカ,アジア,オーストラリア等に広大な植民地を獲得して世界に拡大し,また資本主義の最先進として,その経済力により世界をリードした。今日のアングロ・サクソン人は,中世初期以来ブリタニアにおいて,先住のケルト系ブリトン人,9~11世紀には北欧から侵入した同じゲルマンに属するバイキング(デーン人),11世紀後半から支配階級として迎えたノルマン人,フランス人,さらにイングランド周辺のケルト系のスコットランド人,ウェールズ人など,多民族との長期にわたる混合体・同化体であることを忘れてはならない。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のアングロサクソン人の言及

【イギリス】より

…その後しだいにポルトガル語のイングレスInglêsおよびオランダ語のエンゲルスEngelsからなまって〈エゲレス〉〈イギリス〉という呼称が広く用いられるようになり,〈英吉利〉の漢字があてられ,そこから〈英国〉という通称が生まれた。
【日本人のイギリス像】
 イギリス人の根幹をなす民族は,英語を使用するアングロ・サクソン人であるが,ほかにゲーリック語,ウェールズ語,アイルランド語などケルト語派の言語を使用するケルト系民族がスコットランド,ウェールズ,北アイルランドに居住する。これらの地域がイングランドとともに連合王国を構成しているが,〈イギリス〉という日本における非公式の呼称は,元来はグレート・ブリテン島の一地域にすぎないイングランドに由来するものである。…

【ジュート人】より

…原住地はユトランド半島であったが,民族大移動期の5,6世紀にグレート・ブリテン島の南東部に渡来してケント王国を建て,一部はさらにワイト島やその対岸地方にも移動定着した。同じ時期にグレート・ブリテン島に移ったアングル人,サクソン人などとともにアングロ・サクソン人を構成するが,ジュート人の定着したケント地方は,古くはフランク人の影響と思われる精巧な工芸手法や,また中世においては男子均分相続などにみられる相続慣行,その他土地制度,法慣習など,前2者に対する独自性を長く保持した。【青山 吉信】。…

【地名】より

…ケルト人のイギリスを征服したローマ人の場合は,その支配の性格から都市名にいくつかの痕跡を残し,ラテン語のcastra(陣営),colonia(植民市)に由来するチェスターChester,リンカンLincolnなどが誕生した。イギリスに最も広範な地名上の影響を及ぼしたのは,5世紀から侵入,定住を開始したアングロ・サクソン人であり,イースト・アングリア,ウェセックスのような地方名から村落名,自然地名にまで及んでいる。村落名に関しては,いくつかの特有な語尾(主要要素)を利用して定住の時期や分布が推定できる。…

※「アングロサクソン人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android