アルメニア語(読み)アルメニアご(英語表記)Armenian

翻訳|Armenian

精選版 日本国語大辞典 「アルメニア語」の意味・読み・例文・類語

アルメニア‐ご【アルメニア語】

〘名〙 インド‐ヨーロッパ語族に属する言語。アルメニアのほか、隣接地域で話されている。非常に強い強弱アクセントをもっているため、音節脱落が起こり、語形が著しく変化した。五世紀以後、聖書の翻訳がなされたのをはじめとし、文学の伝統が長い。

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デジタル大辞泉 「アルメニア語」の意味・読み・例文・類語

アルメニア‐ご【アルメニア語】

インド‐ヨーロッパ語族に属する言語。アルメニアのほか、周辺の地域で話されている。

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改訂新版 世界大百科事典 「アルメニア語」の意味・わかりやすい解説

アルメニア語 (アルメニアご)
Armenian

インド・ヨーロッパ語族に属し,独立の一語派をなす。現在この言語の話し手は300万人以上と推定されているが,その言語領域は明確ではない。なぜなら,その本来の話し手がアルメニア共和国よりも多くは周辺のグルジアアゼルバイジャンイラントルコなどのほか,遠くはインド,レバノンにまで分散してしまっているからである。東西2方言に分かれるが,本国の人口の大半は東方言に属し,西方言は各地に分散しているため,その話し手の多くは二重言語使用者となっている。

 ギリシア古代史家ヘロドトスによれば,アルメニア人は小アジアフリュギアからこの地に移住してきたといわれる。しかし言語学的にその真偽は明らかでない。歴史的にこの地はアッシリア,ウラルトゥ,ペルシア,ビザンティン帝国,そしてアラブと,古代からたえず異民族の支配下にあった。言語的にはとくにパルティア,ササン朝下の600年ほどの間に多量のイラン系の語彙が借用され,ために長い間イラン語の一方言と見誤られたほどである。その歴史は5世紀に,独自のアルファベットで綴られた聖書文献に始まる。メスロプ・マシトツが作ったといわれるこの36文字の正確な起源は明らかでないが,ギリシア文字,パフレビー文字などが参考にされたものであろう。そのもっとも古い文献としてはすぐれた聖書の翻訳のほか,メスロプの伝記,原典は失われたがビザンティンのギリシア人の書いたアルメニア史の翻訳などがある。この古アルメニア語には方言差は認められないが,11世紀の末から14世紀にかけてキリキアに移住したアルメニア人の建てた王朝時代の文献には,ゲルマン語のそれに似た子音推移がみられ,方言差があらわれている。現在のアルメニア語は,全体的にみて古いインド・ヨーロッパ語の特徴である格変化,動詞の時制,法,人称変化などの範疇を保持しながらも,名詞の性別の消失,定冠詞の後置などのほか,語形成の上では分析的,膠着語的手続を多用している。ヨーロッパ人の人名で,ミコヤン,カラヤンなど語尾にヤンのつくものは本来アルメニア系である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルメニア語」の意味・わかりやすい解説

アルメニア語
あるめにあご

インド・ヨーロッパ語族の一語派。300万人を超えるアルメニア共和国の公用語だが、周辺のジョージア(グルジア)、アゼルバイジャン、イラン、トルコ、ギリシア、インドにまで話し手が分散している。アルメニアという名は古代ペルシア帝国の碑文に現れ、古代史家も用いているが、その話し手はハイHayと自称していた。この名称は『旧約聖書』にみる地名ハッティHattiに由来するという説もあるが、正確には不明で、おそらく古代史家の伝えるとおり、小アジアのどこからか移住してきたことを暗示するものである。この地は長く異民族、とくにペルシア系の王朝の支配下にあったためにその影響が強く、イラン系の語彙(ごい)が大量に入り、長い間イラン語の一つと見誤られていた。その歴史は5世紀の聖書訳に始まる。それはメスロプMesrop Mashtots(362―440)という僧がつくった36文字からなる独特のアルファベットによってつづられている。中期の資料は11世紀末から14世紀にキリキアに移住して王国を築いた人々の残したものである。近代語には東西の方言があるが、公用語は東方言に基づく。子音に放出音の系列があり、名詞は性はないが、7格をもつ。動詞は全体に分析的表現の傾向が強い。

[風間喜代三]

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百科事典マイペディア 「アルメニア語」の意味・わかりやすい解説

アルメニア語【アルメニアご】

インド・ヨーロッパ語族に属する言語で,アルメニア語派を成す。前6世紀ごろから小アジアのワン湖付近を中心に使用され,古代・中世・近代と推移している。古くはイラン語の影響が強く,その借用語が多い。近代語の成立は15世紀以後とみられ,東西両方言に分かれ,東方言がアルメニア共和国の国語。特殊なアルファベットを使用する。
→関連項目アルメニア(国)アルメニア(地方)アルメニア[人]カフカスフリュギア語

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アルメニア語」の意味・わかりやすい解説

アルメニア語
アルメニアご
Armenian language

アルメニア,ジョージア(グルジア),アゼルバイジャン,シリア,エジプト,トルコのイスタンブール,アメリカなどで,合計約 570万人の人々に話される言語。インド=ヨーロッパ語族のなかで独立した一つの語派をなす。5世紀に発明された 38文字から成るアルメニア文字をもつ。この時期のアルメニア語は古期アルメニア語と呼ばれ,キリスト教関係の文献に残っているが,現在でも教会の儀式用言語として伝わっている。現代のアルメニア語にいたる発達は,ロシアの支配を受けた地方と,トルコの支配下にあったイスタンブールとで違い,発音や文法に差が現れた。他言語の影響にさらされることが多かったため,ペルシア語,ギリシア語,フランス語などからの借用語がみられる。

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世界大百科事典(旧版)内のアルメニア語の言及

【アルメニア人】より

…イラン,トルコ,カフカスが接するアルメニア地方の住民。自称はハイHay。形質はコーカソイド人種のアルメノイド型で,インド・ヨーロッパ語族のアルメニア語を話す。アルメニア共和国を中心に,旧ソ連邦内各共和国,中東,アメリカ大陸等に分散している。人口は旧ソ連邦内に462万(1989),旧ソ連邦外に180万(1967)である。10~11世紀にビザンティン帝国の東進とセルジューク朝の侵入のために,政治的独立を失った多くのアルメニア人が母国を捨てた。…

※「アルメニア語」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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