アルスター(英語表記)Ulster; Ulaid

デジタル大辞泉 「アルスター」の意味・読み・例文・類語

アルスター(Ulster)

アイルランド北部の地方名。東半が英国の北アイルランドに、西半がアイルランド共和国に所属。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アルスター」の意味・わかりやすい解説

アルスター
Ulster; Ulaid

アイルランド島北東部地方の名称。古代名ウラー。中世初期のアイルランドの 5部族王国の一つに起源する。今日その多くはイギリス北アイルランドに,一部はアイルランドに属する。古来ゲール人国家が分立していたが,1177年ヘンリー2世の臣ジョン・ド・クルシーの征服以来,イングランドからの移住者が多く,1603年ヒュー・オニールの降伏以降は,スコットランドから長老派プロテスタントが移住し先住民を圧迫した。名誉革命期にはこの地を中心としてカトリック教徒の反乱が起こったが,ウィリアム3世の征服によって国教会体制が確立。プロテスタントが相対的に多いこと,リンネル工業の発展,アルスター・カスタムによる小作農の地位の安定性といった点で,アイルランドのほかの地方と異なる面をみせる。18世紀末に国教徒の地主層がプロテスタントの組織であるオレンジ結社を結成,カトリック教徒の多い南部と対抗し,19世紀末から 20世紀初頭にかけてのアイルランド自治法案には「カトリック支配である」として激しく抵抗。1920年のアイルランド統治法以後,アルスター 6県は北アイルランドとして南部と分離し自治権を得,イギリス本国とともに連合王国を構成している。プロテスタント支配層の権力維持のために,カトリック住民の公民権が抑圧されてきたこともあって,1968年頃から公民権回復および南北アイルランドの統一を求める過激な運動が展開され,1980年代まで激しい闘争が続いたが,1990年代に和平合意にいたった(→北アイルランド紛争)。今日,アイルランド領はカバン県ドニゴール県モナハン県の 3県からなり,イギリス領は当初アーマー県,アントリム県,ダウン県,ティローン県,ファーマナ県,ロンドンデリー県の 6県からなっていたが,1973年 26地区に分けられた。

アルスター
ulster

男女のボックス型長外套のこと。通常はベルト付きダブルの打合せで,テーラードカラーのものをいい,元来アイルランドのアルスター地方産の生地を使用したところからこの名がある。

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改訂新版 世界大百科事典 「アルスター」の意味・わかりやすい解説

アルスター
Ulster

アイルランド島北部の地方であったが,イギリス議会におけるアイルランド統治法(1920)の成立により,北アイルランド6県(面積1万4139km2)とアイルランド共和国3県(面積8012km2)とに二分された。小丘陵,湖,湿地帯などがつらなり自然の境界をなし,島を四分する古くからの地方の一つであった。地名は,1世紀ころすでにこの地方に君臨していたウレドUlaid家に由来する。12世紀以降,オニール家オドンネル家がアルスターを二分していたが,しだいにイギリスの侵入をうけ,1603年のヒュー・オニールの敗北以後は,植民政策によりプロテスタントの支配する地域となった。しかし,カトリックとの対立はアルスター反乱をはじめその後も続いた。現在,北アイルランドでは,ベルファストを中心に繊維,造船,電機,機械などの工業が,農村部では大麦,ジャガイモ,牛,馬などの農牧業が行われる。共和国3県は農業地域で,エンバク,大麦,牛,豚などが多く産出される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルスター」の意味・わかりやすい解説

アルスター
あるすたー
Ulster

アイルランド島北部の地域。イギリス領の北アイルランドと、アイルランド共和国のキャバン、ドニゴール、モナハンの3県からなる。面積2万2160平方キロメートル、人口約190万(1996)。17世紀初頭から始まったイギリスのプロテスタント系移民によって開拓された。カトリックの多いアイルランド住民と対立し、1922年アイルランド自由国の成立とともにイギリスに属する6県が分離した。

[米田 巌]

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旺文社世界史事典 三訂版 「アルスター」の解説

アルスター
Ulster

アイルランドの北部地方
エリザベス1世が王領地とし,ジェームズ1世のときからイギリス人の植民が始まり,アイルランド征服の拠点となった。リンネル(亜麻織物)その他の工業が発達している。1922年の自治領アイルランド自由国誕生の際,イギリス系住民の多いアルスター6州は北アイルランドとしてイギリス領にとどまった。その後,少数派のカトリック系住民が公民権の平等を求め,1968年からアイルランド共和国軍IRA)の武力による解放闘争が激化した。こうした北アイルランド問題に関しては,1998年4月,イギリスのブレア内閣のもとで北アイルランド和平協定が成立し,問題の平和的解決への第一歩を踏み出した。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「アルスター」の解説

アルスター
Ulster

アイルランド島の北部の9州よりなる地域。ブリテン島からの移民が盛んだった結果,プロテスタントがカトリックより多数を占める州も多く,6州がアイルランドの独立後も北アイルランドとして連合王国に留まったが,1969年以降北アイルランド紛争に苦しんでいる。

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デジタル大辞泉プラス 「アルスター」の解説

アルスター

スコットランド、ウェールズ、アイルランド、イタリア、南アフリカのクラブチームによるラグビーのリーグ戦「プロ14」に所属するラグビークラブのひとつ。1879年設立。本拠地は北アイルランド、ベルファスト。

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世界大百科事典(旧版)内のアルスターの言及

【アイルランド】より

…全島いたるところに沼沢地,泥炭地がみられるが,特にシャノン川流域には多い。アルスター地方との境にあたる部分には,西海岸から東海岸まで広く帯状に小丘陵(ドラムリン)がつらなり,昔は南部との交通も困難なほどであった。河川や湖沼も多く,最長のシャノン川(370km)は多くの湖沼を流域に持ち,水力発電にも利用されている。…

【オニール家】より

…アイルランド,アルスター地方に12世紀から君臨した族長の家柄。オドンネル家とともにノルマン人の侵略に,あるいはチューダー朝期イギリスの侵略に抵抗した。…

※「アルスター」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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