アルコール工業(読み)あるこーるこうぎょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルコール工業」の意味・わかりやすい解説

アルコール工業
あるこーるこうぎょう

アルコール類を製造する化学工業。アルコール類とはヒドロキシ基(-OH)を官能基としてもつ炭化水素総称であるが、一般にアルコールといえばエタノール(C2H5OH=エチルアルコール)をさすことが多い。

 エタノールの工業的な製造法には発酵法と合成法の2種類がある。発酵法とは、ジャガイモサツマイモトウモロコシなどからとれるデンプンや、サトウキビサトウダイコンテンサイ)からの糖を原料として、酵母を用いて発酵させてエタノールを製造する方法である。発酵アルコール(発酵法でつくられたエタノール)は食酢の原料やみそ、しょうゆ等の食品防腐用などの飲食品工業用、試薬、薬局方アルコール用等の広範な用途に使用される。一方、合成法とは、石油天然ガスから得られるエチレンを原料として触媒を用いて水を付加させることによって化学的にエタノールを合成する方法(水和法)である。合成アルコールは、おもに化粧品、香料、医薬品などの原材料として化学工業用に使用され、食品衛生法により食品に用いることはできない。

 工業用アルコールの製造、販売は、(1)低廉な価格での安定的な供給の確保と、(2)酒類への転用防止による酒税の確保の目的で、アルコール専売法に基づいて1937年(昭和12)から長期間にわたって国が専売事業として独占してきた。2001年(平成13)4月にアルコール専売法が廃止され、新たにアルコール事業法が施行されてから製造、販売、使用は許可制となり一般に開放された。製造・輸入した工業用アルコールは、いったん新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO(ネド))を経由して販売しなければならなかったが、2006年4月からはNEDOを経由せず自由な価格で販売できるようになった。また同年、1982年(昭和57)にNEDOが国から移管して保有していた醸造アルコール製造事業も新設の日本アルコール産業株式会社に引き継がれた。以降、アルコール事業法のもとにアルコールの製造・輸入・販売・使用はすべて企業活動によってまかなわれている。

 2011年の国内の工業用アルコール生産量は36万9000キロリットルであるが、発酵アルコールの原料(粗留アルコールと糖蜜(とうみつ))はほとんどを輸入に頼っており、粗留アルコールの輸入量は22万8000キロリットルである。2000年における日本の生産量は、発酵法19万1000キロリットル(62%)、合成法11万6100キロリットル(38%)であったが、原料のエチレン価格の高騰などから合成法の割合は減少してきている。2012年時点では、合成法でエタノール生産を行っているのは日本合成アルコールと三菱(みつびし)化学(現、三菱ケミカル。日本エタノールを2008年に統合)の2社である。

 世界的にはエタノールの製造法としては発酵法が主流であり、2003年の推計によればサトウキビ、テンサイから得られた砂糖を用いて発酵法で生産されたものが約54%、穀物から発酵法で生産されたものが40%で、合成アルコールはわずか5%である。また、世界のエタノール需要の66%は燃料用であり、工業用が19%、飲料(酒類)用が15%と推計されている。20世紀初頭に石油から精製されるガソリンが安価で大量に供給されるまで、内燃機関の燃料としては当初エタノールが利用されていた。1970年代のオイル・ショック以降にガソリンの価格が高騰し、ガソリンとエタノールを混合したガソールgasohol(gasoline+alcohol)が内燃機関の燃料としてふたたび使用されるようになった。さらに地球温暖化が懸念されているため、バイオマスから生成されるエタノール(バイオエタノール)を燃料とする動きが世界的に広まっている。しかし、原料となる穀物の食糧・飼料との競合問題、凶作による穀物価格の高騰問題等もある。燃料用のエタノール生産には、従来のデンプンや糖を原料とせずに、セルロースを原料として、カビの一種で分解して得られた糖を遺伝子操作した細菌でエタノールに分解する方法等が研究・開発されている。

 エタノール以外のアルコールは、工業的には天然ガス、石油などから合成される。メタノール(CH3OH=メチルアルコール)は一酸化炭素と水素の混合ガスを加圧加熱して触媒下で合成するが、C2(炭素数2)以上のアルコールはオレフィン(アルケン)の水和反応やオキソ法などで合成している。メタノールはホルマリン、酢酸などの工業化学製品の原料であり、合成樹脂、塗料、溶剤、医薬品などの幅広い最終用途がある。

[山本恭裕]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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