アドニス(英語表記)Adonis

翻訳|Adonis

デジタル大辞泉 「アドニス」の意味・読み・例文・類語

アドニス(Adōnis)

ギリシャ神話で、女神アフロディテに愛された美青年。イノシシきばにかかって死んだ彼の血からアネモネの花が生えたという。死後によみがえる植物神として説明される。
[補説]作品名別項。→アドニス

アドニス【〈フランス〉Adonis】[書名]

ラ‐フォンテーヌの長編詩。1658年の作品で、古代ローマの詩人オビディウス風の恋愛詩。

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精選版 日本国語大辞典 「アドニス」の意味・読み・例文・類語

アドニス

(Adonis) ギリシア神話で、女神アフロディテに愛された美青年。狩りでイノシシに突き殺された時、その血からアネモネが、女神の涙からバラが生じたという。

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現代外国人名録2016 「アドニス」の解説

アドニス
Adonis

職業・肩書
詩人

国籍
シリア

生年月日
1930年

出生地
ラタキア県カッサビーン

本名
アリー・アフマド・サイード・イスビル〈‘Alī Ahmad Sa‘īd Isbir〉

学歴
ダマスカス大学哲学科〔1954年〕卒

受賞
地中海賞外国人部門賞(フランス)〔1995年〕,ストルガ詩の夕べ金冠賞(マケドニア)〔1997年〕,ビョルンソン賞〔2007年〕,ゲーテ賞(ドイツ)〔2011年〕

経歴
幼時より父からコーランと古典アラビア詩を学ぶ。ダマスカス大学哲学科卒業後、非合法だった左派系のシリア社会民族党に入り、逮捕される。1年間の獄中生活を終え、1956年にレバノンベイルートに逃れる。この頃から詩作を始め、’57年詩誌「詩」の創刊に参加、新しいアラブ詩を求めてタンムーズ派の文学運動を推進する。’69年文化誌「立場」創刊、のち文芸誌「情況」編集長。’80年内戦下のベイルートを後にし、パリへ亡命。主な詩集に「ダマスカスのミハヤルの歌」(’62年)、「大地は語った」「風の木の葉」などがあり、詩評論に「詩の時代」(’72年)がある。ノーベル文学賞候補として毎年のように名前が挙がっている。シリア国籍を持つ。

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改訂新版 世界大百科事典 「アドニス」の意味・わかりやすい解説

アドニス
Adōnis

ギリシア神話の美青年。キプロスの王女ミュラが父親と交わり,没薬(ミュラ)の木と化して生んだ子。その美しさにうたれた女神アフロディテとペルセフォネが彼の争奪戦を演じたため,ゼウス裁量で,彼は1年の4ヵ月をアフロディテと地上で,4ヵ月をペルセフォネと冥界で,残りは自分の好きなところで過ごすよう定められた。のち狩りの最中に猪に突き殺されたとき,その血潮からアネモネが,彼を悼むアフロディテの涙からバラが生じたという。アドニスの名はセム語で〈主〉の意。本来,バビロニアタンムズドゥムジ)に似た穀物の死と復活の神で,フェニキアキプロス島にアドニス崇拝の中心地があった。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アドニス」の意味・わかりやすい解説

アドニス
Adonis

アフロディテ愛人としてギリシア神話に取入れられたフェニキアの神。名は「主」を意味するセム語アドンに由来し,シュメールのドゥムジ,メソポタミアタンムズにあたる。大地女神の愛人として毎年死んでまた春に復活する植物神的青年神と思われる。フェニキアからキプロス島に移住し,パフォスの王となったキニュラスとその娘スミュルナまたはミュルラの父子相姦によって懐妊され,母親が没薬 (もつやく) の木に変えられたあとで,その幹から生れ,アフロディテに育てられてその愛人となった。だが狩猟を愛好したアドニスは,あるとき狩りの最中にいのししに殺され,アフロディテはその死をいたんで,彼の傷から流れた血をアネモネの花に変えたという。

アドニス
Adonis

[生]1930. カッサビーン
シリア生まれの詩人。本名 `Alī Aḥmad Sa`īd。ダマスカスのシリア大学卒業。1950年頃から詩作を始める。政治性,社会性を保ちつつ,詩の純粋性を守り,象徴性を前面に押し出すもので,現代詩として高い評価を受けている。作品集に『ダリラ』Dalīlah(1950),『大地は語った』Qālat al-Arḍ(1952/54),『初期の詩』Qasā`id ūlā(1956),『詩集』Dīwān(1971)などがある。

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百科事典マイペディア 「アドニス」の意味・わかりやすい解説

アドニス

ギリシア神話の美少年。近親相姦から生まれた。アフロディテに愛されたが,狩猟の最中猪に殺され,その血からアネモネが,アフロディテの涙からバラが生まれた。アフロディテとペルセフォネがともに彼を争ったが,ゼウスの裁きで両女神のもとで半年ずつ過ごすことになった。バビロニアのドゥムジ(タンムズ)同様,復活と豊穣の象徴。ルネサンス以降,盛んに絵画化された。
→関連項目バアル

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20世紀西洋人名事典 「アドニス」の解説

アドニス
Adonis


1930 -
レバノンの詩人。
本名‘ALī Ahmad Sa‘īd。
1957年「詩」の創刊に参加し、さらに’69年には「立場」を創刊する。その後、文芸誌「情況」の編集長となる。妻のハリーダ・サラーフも文芸評論家である。著書に「ダマスカスのミフヤルの歌」「大地は語った」「風の木の葉」など。

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飲み物がわかる辞典 「アドニス」の解説

アドニス【Adonis】


カクテルの一種。ミキシンググラスにドライシェリー、スイートベルモット、オレンジビターズを入れステアし、カクテルグラスに注ぐ。ショートドリンク。1884年にブロードウェイで大ヒットした同名のミュージカルにあやかり、人気が出ることを願って名づけられた。食前酒。

出典 講談社飲み物がわかる辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のアドニスの言及

【アネモネ】より

…古代ギリシアではアネモネは悲しみと死の象徴であった。これは,美少年アドニスがイノシシに殺されたときに地面にしたたった血からアネモネが生えたという神話に基づく。それゆえキリスト教時代になってもアネモネはキリストの受難のときの血と結びつけられ,またそのときのマリアの悲しみの象徴とされる。…

【アフロディテ】より

…ヘラ,アテナ両女神と最も美しい女神の誉れを争ったときには,審判に選ばれたトロイアの王子パリスに美女ヘレネとの結婚を約束して勝利をおさめ,トロイア戦争の遠因をつくった。彼女はまたトロイア王家の一員アンキセスを見初め,ローマ建国の祖アエネアスの母となったほか,美青年アドニスを寵愛した話でもよく知られる。もともと彼女はセム系の豊穣(ほうじよう)多産の女神アスタルテに起源が求められる神格で,ギリシアへはミュケナイ時代にキプロス島を経由して入ったと考えられる。…

【イトスギ(糸杉)】より

…例えば墓場にはイトスギが植えられているし,葬儀にはイトスギの小枝で棺が飾られ,場合によれば棺そのものがイトスギの材で造られる。イトスギがなぜ死と結びつけられたのかはよくわからないが,古代ギリシアのアドニスの祭儀にイトスギが使われたという事実が一つの答えになるであろう。アドニスはギリシア神話に出てくる美少年であり,植物の象徴であるが,このアドニスの死,つまり植物の枯死を嘆く祭に,葉の落ちない常緑のイトスギが使われた。…

【木】より

…古代ローマでも,大地と豊饒の女神キュベレは,アッティスと聖婚し,これを殺して松に変える。ギリシアのアドニスは没薬(ミュラMyrrha)の木から生まれた。これらの植物婚あるいは人と木のメタモルフォーズ(変身)の神話はまた,人間と植物との転生のシンボルであるが,これもひろくは,宇宙的生命力の遍在を信ずるアントロポモルフィズム(擬人観)のあるところにはつねに現れている。…

【神話】より

… バウボという名の女性が,デメテルの怒りを解くために自分の恥部を露出して見せて笑わせたというギリシア神話の話は,天鈿女(あめのうずめ)命が,岩屋に隠れたアマテラスの怒りを解くために踊りながら乳房と陰部を露出して見せ,神々を哄笑させたという話と,これもきわめてよく似ている。大国主(おおくにぬし)神とアドニスの神話にも,どちらも絶世の美男子で,地上でも地下でも女神をひと目で恋に陥らせ,狩りに出てイノシシを捕らえようとして殺され,木の幹の中から取り出されているなど,いろいろな点で著しい類似が見られる。 ギリシア神話と日本神話とのこれらの類似は,ただの偶然の結果とはとうてい考えられない。…

【聖婚】より

…この地域に住む未婚女性は,結婚前に神殿に詣で,一夜パフォスの王の前に聖なる花嫁として処女を捧げる習俗に従っていた。この儀式は,地母神アスタルテ=アフロディテとその愛人である穀物神アドニスとの間に演じられる聖なる婚姻のドラマの再演であるとみなされていた。J.G.フレーザーによると,キプロスにおけるこのような儀礼は,地母神をまつるすべての神殿に共通にみられ,女性は神殿において,しばしば神にみたてた見知らぬ客人に処女を捧げる役割を演じたという。…

【ビーナス】より

…アフロディテ像はしばしば現実の美女をモデルにして制作され,〈ミロのビーナス〉をはじめとする多くのビーナス像がギリシア彫刻あるいはローマ時代の模作によって今日に伝えられた。アフロディテに関する神話の一つは〈アドニス神話〉で,メソポタミアの〈タンムズ神話〉の変形とみなされる。ここでは美少年アドニスをめぐってアフロディテおよびペルセフォネ(あるいはデメテル)が争い,結局2人が半年ずつアドニスと過ごすが,アドニスはイノシシによって殺され,その血からアネモネが咲き出たとされる。…

【復活祭】より

…しかし,もともと死と復活という考え方は異教時代からのものであった。フェニキアおよびキプロス島などで崇拝されたアドニスの死と復活の祭礼や,ローマ帝国における植物の死と復活を表象した神アッティスの祭礼などは春分のころに行われ,キリストの受難,死,復活はこれらの祭礼と同化したものであるといわれている。北ヨーロッパの農民も春の芽ぶきを見て,死んだ草木の霊魂の復活を考えたことは当然であろう。…

※「アドニス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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