アダマンタン

デジタル大辞泉 「アダマンタン」の意味・読み・例文・類語

アダマンタン(adamantane)

三つの椅子型のシクロヘキサンからなる、かご型の炭化水素昇華性の無色透明結晶で、樟脳に似た臭気をもつ。天然では石油中に微量に存在する。安定した化合物であり、不安定な化学種に結合させて、安定化するために用いられる。化学式C10H16

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化学辞典 第2版 「アダマンタン」の解説

アダマンタン
アダマンタン
adamantane

tricyclo[3.3.1.13,7]decane.C10H16(136.23).石油の高沸点留分中から単離された安定な脂環式炭化水素ジシクロペンタジエン(トリシクロ[5.2.11,7.02,6]デカ-4,8-ジエン)を接触水素化してテトラヒドロ化した後,無水塩化アルミニウムで処理すると転位生成物として得られる.4個の環すべていす形シクロヘキサン構造をとり,炭素原子ダイヤモンド格子の基本単位と同じ配列をもつ.ショウノウ臭を有する昇華性の無色のプリズム晶(アセトン,-30 ℃).融点269.6~270.8 ℃.1.07.1.568.1H NMR(CDCl3)δ 1.74,1.87.13C NMR(CDCl3)δ 28.4,37.8.多くの誘導体が知られており,実用的にも注目されるものがある.たとえば,1-アミノアダマンタンは数少ない抗ウイルス剤の一つとして市販されている.また,メタクリル酸1-アダマンチル誘導体は,半導体製造の光レジスト用モノマーとして実用化されている.[CAS 281-23-2]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「アダマンタン」の意味・わかりやすい解説

アダマンタン
adamantane

いす形構造のシクロヘキサン環が4個縮合した,かご形構造を有する安定な炭化水素(図1)。すべての炭素原子の結合角は109.5度であり,ほぼsp3混成軌道の正四面体構造の理論値(109.5度)と一致している。また炭素と炭素との結合距離も1.54Åであり,単結合の理論値に一致する。このほとんどひずみのない分子構造は,炭素原子だけから成るダイヤモンドの結晶構造の繰返し単位構造と一致している(図2)。アダマンタンの名は,このダイヤモンドの語源であるラテン語adamas(無敵の)に由来する。融点は269℃であり,同じ分子式を有する炭化水素異性体中最高で,また既知炭化水素類の中でも最高のものの一つであり,これは分子内にひずみがないことを反映している。1933年ランダS.Landaによりチェコスロバキア産の原油中から発見され(含有量0.0004%),のち56年にシュリーヤーP.von Schleyerにより簡便な合成法が確立された。
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世界大百科事典(旧版)内のアダマンタンの言及

【かご形化合物(籠形化合物)】より

…分子全体が鳥かごのようにC-C結合などの化学結合でかこまれている化合物。天然には,石油から産出するアダマンタンC10H16などがある(図)。人工的に合成された最小のかご形化合物としては,ベンゼンの原子価異性体であるプリズマンC6H6(無色透明の液体。…

※「アダマンタン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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