アジール文化(読み)アジールぶんか

改訂新版 世界大百科事典 「アジール文化」の意味・わかりやすい解説

アジール文化 (アジールぶんか)

フランス,ピレネー地方のマス・ダジルMasd'Azil遺跡を標準遺跡とする晩期旧石器時代文化。9000~1万0500年前の年代が与えられる。フランスからスペインにかけて分布するが,地域差が大きい。この地域差の兆しはすでに後期旧石器時代の終りに認められていたものである。特徴的な石器は短い搔器(親指状搔器)と半月形を呈する背付石器(アジール型小型ナイフ形石器)である。石器製作技術の伝統は後期旧石器時代のものが継続する。この文化は氷河時代の終わる,気候が温暖化する時期に始まるが,獲物の動物がトナカイから鹿に変わることにそれは反映されている。鹿の角を用いて平たい有孔銛が作られているが,一般的に骨角器は乏しく,作りは粗くなっている。美術品にも著しいものが認められなくなっているが,赤色オークで様式化された文様を薄い礫に描いた彩礫は,研究史の初期の頃から有名である。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アジール文化」の意味・わかりやすい解説

アジール文化
アジールぶんか
Azil culture

西ヨーロッパの中石器時代初頭の文化。フランス南部,スペイン北部を中心に分布している。完新世に大規模な気候変化が起った西ヨーロッパで,この環境変化に対応して生れた文化である。 19世紀の後半,旧石器文化解明がやっと緒についたとき,フランスのマス・ダジール遺跡で従来まったく知られていなかった遺物が発見され,旧石器文化と新石器文化の間をつなぐ中石器文化のものと認められた。後期旧石器時代のマドレーヌ文化の伝統をそのまま受継ぎ,中石器文化のなかでは,旧石器文化の伝統を最も色濃く残している文化である。石器,骨角器ともにマドレーヌ文化に比べると種類も加工も劣っている。特殊な遺物として彩礫がある。これは礫に幾何学線文を赤色顔料で描いたものであり,用途についてはさまざまな説が出されているが,宗教上の儀礼用のものと考える学者が多い。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「アジール文化」の意味・わかりやすい解説

アジール文化【アジールぶんか】

フランス,ピレネー地方のマス・ダジールMas d'Azil洞窟で1889年,マドレーヌ文化期の層の上から発見された晩期旧石器時代文化。フランスから北スペインに分布する。三角形またはかぎ形の細石器シカの角の銛(もり)などとともに,小石に赤色顔料で模様を記した彩礫(さいれき)が出るのが特徴。
→関連項目中石器時代

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アジール文化」の意味・わかりやすい解説

アジール文化
あじーるぶんか
Azilien

フランス南西部、ピレネー地方のマス・ダジルLe Mas d'Azil遺跡を標準遺跡とする晩期旧石器時代文化。フランスからスペインにかけて分布するが、石器組成の違いに地域差が大きく認められる。石器製作の伝統は後期旧石器時代から継続する。特徴的な石器は拇指(ぼし)状掻器(そうき)とアジール型小型ナイフ形石器である。特色ある有孔銛(ゆうこうもり)がつくられているが、骨角器は一般的に乏しく、つくりも粗くなっている。また美術作品でも、後期旧石器時代を中心にみられた洞窟(どうくつ)絵画などのような著しいものが認められなくなる。しかし扁平礫(へんぺいれき)に赤色の縞(しま)模様をめぐらせた彩礫は有名である。氷河時代の終わる1万年前ごろに年代づけられ、狩猟した動物がトナカイからシカに変わっている。

山中一郎

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android