アオカビ(読み)あおかび

改訂新版 世界大百科事典 「アオカビ」の意味・わかりやすい解説

アオカビ (青黴)
blue mold
Penicillium

不完全菌類アオカビ属の菌類の総称菌糸体は発達よく,隔壁のある菌糸で構成される。菌糸のところどころから分生子柄が直立,その上部は普通は1~2回分枝を繰り返し,ほうき状あるいは筆状となる。各分枝は上を向き,最終分枝の先にそれぞれ長いとくり状の分生子形成細胞(フィアライドphialide)が数本ならぶ。この細胞の先端から分生子が次々と押し出されるように形成され,長くつながって鎖状となる。分生子は球形,楕円形などさまざまで,多くはアオカビの名のように青緑色をおびている。発育適温は20~25℃であるが,5℃の低温や40℃の高温で生えるものもある。食品,衣服などいろいろな物に生えて劣化を起こし,また病変米の原因菌としてカビ毒を生産する種類P.islandicumなど)もある。ペニシリンその他の抗生物質を生産する菌としてP.notatumおよびP.chrysogenumが,またチーズの熟成にP.roquefortiP.camembertiが役だっており,酵素剤の製造など工業的にも利用されている。大部分無性生殖主体であるが,有性生殖時代の発見された種類も多く,この場合,TalaromycesCarpentellesといった別の属名で,子囊菌類の不整子囊菌類コウジカビ科にふくめることが多い。アオカビ属には200種近い種類が発見されており,森林土壌にはとくに多くみられ,温暖帯から寒帯にかけて世界中に分布している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アオカビ」の意味・わかりやすい解説

アオカビ
あおかび / 青黴
[学] Penicillium

不完全菌類、モニリア目に属するカビをいう。ペニシルPenicil-とは箒(ほうき)を意味し、分生子柄―梗子(こうし)(フィアライド)―分生子の形態が箒状であるためにこの名がある。このような無性生殖のほかに、子嚢殻(しのうかく)―子嚢―子嚢細胞による有性生殖をもつグループもある。これはユーペニシリウムEupenicillium、タラロミセスTalaromyces、カルペンテレスCarpentelesなどの属として取り扱われ、ペニシリウムとともにアオカビとよばれる。このように有性生殖をもつ属は、子嚢菌類、ユーロチウム目(コウジカビ目)に属する。アオカビが発見された当初は1種類と思われ、パンがこれによってかびるので「パンのカビ」とよばれた。現在は300種以上発見され、外観は青色、緑色以外に紫色、オレンジ色、灰白色、黄色、白色などを呈するものまである。地球上に広く分布し、人間の生活環境中では、食品および食品材料や衣類などの上によくみられる。シトリヌムP. citrinumやイスランディクムP. islandicum、トクシカリウムP. toxyicariumは有毒性の物質を生ずることが知られ、黄変米や動物の飼料の不適といった問題となる。工業的には抗生物質の生産、酵素の製造、核酸関連物質の生産など、利用価値が高い。

[曽根田正己]

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栄養・生化学辞典 「アオカビ」の解説

アオカビ

 →ペニシリウム属

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のアオカビの言及

【あおかび病】より

…アオカビ属菌の寄生によって起こる病気。果実,鱗茎の表面の傷や虫の食痕から菌が入って感染が起こる。貯蔵中のミカンでは果実の表面が青い粉をふいて丸く腐ってくる。またユリやチューリップでも貯蔵中の鱗茎が同じような症状を呈して腐るものがでる。ミカンではこれに似た病気で,やはりアオカビ属菌の1種によって起こるみどりかび病がある。果実表面に多量に生産される胞子集団の色によって区別できるが,病状,発生環境は類似している。…

※「アオカビ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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