罠猟(読み)わなりょう

改訂新版 世界大百科事典 「罠猟」の意味・わかりやすい解説

罠猟 (わなりょう)

鳥獣を捕獲するための装置による猟法。古くから諸民族の間に広く用いられてきた猟法で,その方法はきわめて多種多様で変化に富んでいる。弓矢,槍,吹矢鉄砲などによる積極的な猟法に対して,わな獲物通り道に設置し,獲物がこれに気づかずに通過する際に捕らえようとする設備である。落し穴,くくりわな,箱わな,圧殺わな,とらばさみなどに分類することができるが,獲物の大きさや習性,立地条件などに応じて,それぞれ多様な変化形がみられ,これらを組み合わせたものがくふうされる。通り道に単純にわなを設置するもの,餌やおとりを置いて誘導するもの,柵を作って誘導路を設けるもの,また,落し穴の底に槍を仕込んだもの,くくりわなでも木や竹の弾力を用いて跳ねわなにしたもの,また箱わなでは小動物用のネズミ捕り式のものから,大型哺乳類を対象とした柵囲いの大がかりなものまで,千差万別である。圧殺わなのうちクマやイノシシ用など大きなものは,人畜に危険なので禁止されているところもある。とらばさみは鋼鉄製のばね式わなである。一般に狩猟採集民は,弓矢猟など積極的な猟法に活動の中心をおき,補助的な手段としてわな猟をすることが多い。むしろわな猟は,農耕民農作物の害獣駆除を目的とし,同時に不足しがちな貴重なタンパク源を確保するためにひんぱんに用いる方法であるということができる。
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わなは鳥獣を捕獲するために古くから用いられてきたが,霞網や取網などの猟法は通常わなとは呼ばない。構造上からは落し穴式のものと竹や木の弾力を利用したばね仕掛のものとに大別できる。縄や糸を輪にして,その内に動物の体の一部が入ると締めつけるくくりわなは,中国で係蹄といわれるが,日本語のワナ(ワサとも呼ばれる)の原義はこれらしい。機と称して弓に矢をつがえて引きしぼっておき,野獣が通る道にしかけて糸を張り,獣の身体が糸に触れると支えがはずれて矢が獣に命中する装置は,古代からフムハナチと呼ばれ大いに利用された。人が通って触れると危険なのでしばしば禁じられたが,山中では後代まで用いられ,銃が伝わるとこれを仕掛け,効果が大きかった。ウツデッポウハコデッポウオキデッポウなどといわれたが,旅人などに被害があるので,現在では厳しく禁じられている。大型野獣用のわなにはヤマまたはオスという圧殺装置がある。丸太を並べた枠を釣り上げて上に石をのせ,下に餌をおいて獣がこれを食おうとすると糸が引かれて支えがはずれ,獣を圧殺する。これも知らぬ者が小屋などとまちがえて,下に休み押されて死んだなどのことがあって禁じられた。これの小型で,棒を上下に置き,または籠を釣って小鳥が下にまいた餌をついばむと糸がはずれて首をはさむもの,または籠が落下して生捕りするものは,平安時代の絵にも描かれており,クブチあるいはコブチといって現在でも山村で行われる。また野獣の通路は一定しているので,そこに落し穴を掘って落下させる方式もよく使用された。
執筆者: 〈わな猟〉として伝えられてきたものに宮内省の保存猟でもあったクイナのわな猟がある。これは小さな引っくくしのわなをクイナの通路に仕掛け,笛で誘導して捕らえる猟法で,クイナの闘戦性を利用するものであった。もち(黐)もわなと解釈するならば,これには多くの猟法があった。代表的なものはカモの千本擌(はご)猟である。これは水田にもちを塗った棒(擌)を何本も立て,夜,おとりにつられて飛来,舞い降りるカモを捕獲するものである。カモの流しもち猟も広く行われた猟法である。長いもち縄を湖沼の水面に流してカモを捕らえる。高擌猟ももちを使う小鳥猟で,高い樹の先端に3~4本のもちを塗った擌を立て,その下におとりを入れた籠を置く単純な猟法だが,おとりの種類によりさまざまな小鳥を獲ることができた。
狩猟
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の罠猟の言及

【狩猟】より


[日本]
 日本における狩猟用具として,鹿に対してはと矢が代表的であったが,猪に対しては犬を用いたり槍・山刀が主であって,熊についてもこれらが準用された。そのほか農民の用具として陥穽(おとしあな),押し,くくりわななどが盛んに用いられた(わな猟)。野鳥には網がさまざまな形で使用されるほか,はさみわな,とりもちなど多様な用具があり,おとりにより,またはまき餌による誘いもよく使用された。…

【猟師】より

…古代から近世までの猟師は生業であって娯楽ではなかったが,明治以後は野生鳥獣の激減によって狩人が激減し,これに代わって狩猟法の制定による遊猟すなわち娯楽のために狩猟免許をとって鳥獣を撃つ人々が著しく増加した。また,これまでわな猟で蛇,カエル,虫などを捕らえる作業に従った者もが免許法の施行によって猟師に加えられた。こうした職業基準の変化により狩猟に従事する人の数は,明治中期に約24万人,うち専業者8万余人となった。…

※「罠猟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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