より
[1] 〘格助〙 (
体言または体言に準ずるものを受ける)
(イ) 時間的・空間的起点を示す場合。…から。
※古事記(712)下・
歌謡「置目もや 淡海の置目 明日用理
(ヨリ)は み山隠りて 見えずかもあらむ」
※
方丈記(1212)「不知、うまれ死る人、いづかたより来たりて、いづかたへか去る」
(ロ) ある動作・作用が起点となる場合。それにすぐ続いて。…とすぐに。
※
源氏(1001‐14頃)
桐壺「命婦、かしこにまうで着きて門引き入るるよりけはひあはれなり」
(ハ) ある物や人の働きかけが起点となる場合。…の働きで。それがもとで。…のために。
※
古今(905‐914)
仮名序「このうた〈略〉あらがねのつちにしては、すさのをのみことよりぞ、おこりける」
② 動作の行なわれる場所・経由地を示す。
※
万葉(8C後)一八・四〇六一「堀江欲里
(ヨリ)水脈(みを)引きしつつ御船さす賤男
(しづを)の徒
(とも)は川の瀬申せ」
③ 動作や作用の手段・方法を示す。…によって。…で。
※万葉(8C後)一三・三三一四「つぎねふ 山城道を 他夫(ひとづま)の 馬従(より)ゆくに 己夫(おのづま)し 歩(かち)従(より)ゆけば」
④ 比較の基準を示す。
※万葉(8C後)一五・三七三七「ひと余里(ヨリ)は妹そも悪しき恋もなくあらましものを思はしめつつ」
※俳諧・奥の
細道(1693‐94頃)
那谷「
石山の石より白し秋の風」
※古今(905‐914)恋三・六七〇「枕より又しる人もなきこひをなみだせきあへずもらしつる哉〈
平貞文〉」
[2] 〘副〙 ((一)④から転じ、
欧文の
翻訳で用いられて広まったもの) 物事の
程度がさらにいっそう加わるさまを表わす語。もっと。いっそう。
※嚼氷冷語(1899)〈
内田魯庵〉「明治の
思潮により多く触着すべき筈の中等社会を写すにも猶ほ頗る粗笨
(そほん)である」
[
語誌]((一)について) (1)
上代には、共通の
用法をもつ
格助詞に「ゆ」「
ゆり」「よ」「より」の四語があったが、「より」は用法も広く、
用例も最も多く、中古以降も使われた。
(2)①の用法は最も用例が多く、四語とも使われているが、②③④の用法は、どれも「ゆり」にはない。⑤は新しい時代の用法で、「より」だけにある。
(3)
現代の口語では、「より」の用法は④が
大半を占めている。→
格助詞「ゆり」の語誌
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「より」の意味・読み・例文・類語
より[格助]
[格助]名詞、活用語の連体形、副詞、一部の助詞などに付く。
1 比較の標準・基準を表す。「思ったより若い」「以前より腕があがった」
「おなじ程、それ―下﨟の更衣たちは、まして安からず」〈源・桐壺〉
2 ある事物を、他との比較・対照としてとりあげる意を表す。「僕より君のほうが金持ちだ」「音楽より美術の道へ進みたい」
「その人、かたち―は、心なむまさりたりける」〈伊勢・二〉
3 (打消しの語と呼応して)それに限定するという意を表す。「そうするよりほかはない」「狭いが、ここで寝るよりしかたがない」
「ひとりの娘―ほかにやるものがござらぬ」〈浮・胸算用・二〉
4 動作・作用の起点を表す。…から。「午前一〇時より行う」「父より手紙が届いた」「東より横綱登場」
「うたたねに恋しき人を見てし―夢てふものはたのみそめてき」〈古今・恋二〉
5 事柄の理由・原因・出自を表す。…がもとになって。…から。…のために。
「百薬の長とはいへど、万の病は酒―こそ起これ」〈徒然・一七五〉
6 動作の移動・経由する場所を表す。…を通って。…を。…から。
「木の間―もりくる月の影見れば心づくしの秋はきにけり」〈古今・秋上〉
7 動作・作用の手段・方法を表す。…によって。…で。
「他夫の馬―行くに己夫し徒歩―行けば見るごとに音のみし泣かゆ」〈万・三三一四〉
8 (活用語の連体形に付き)ある動作・作用のあと、すぐ別の動作・作用の起こる意を表す。…とすぐ。…と同時に。…や否や。→から →ゆ →ゆり →よ →よりか →よりも
「三里に灸すうる―、松島の月まづ心にかかりて」〈奥の細道〉
[補説]古語ではかなり広く種々の意味に用いられたが、現代語では、比較の基準を表す用法が主で、その他の用法は、中世末ごろから「から」「にて」「で」などに譲っている。なお、4は、多く書き言葉や、改まった言い方に用いられる。
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